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ハプニングタイム

 食事後、ヨハネが戻ってきたのを理由にマリーちゃんの家を後にしたわたしたちは買い物をしてからホームに戻ることにした。

 衣服の方はマリーちゃんから借りっぱなしで、週末勝負のあとに洗って返すことになっている。

 このときわたしはうっかりしていたことに気づかない。

 むしろ気づくような出来事が起きなくて幸いだったと思う。


「次の週末に使うぶんに果物がいくつか。それと保存食か。他に買い忘れはないかい?」

「たぶん大丈夫。もしかしたら後で買い出しに出たくなるかもしれないけれど、そのときはお願いね」

「もちろんさ。僕もあの車を手に入れたいからね」

「ありがとう。でもさ……いまさら蒸し返すのも意地が悪いけど、急にオーケーしてくれるだなんてどうしたのよ?」

「深い意味はないさ。アマネが言うように、車があったほうが便利だって思いなおしただけだって」

「本当に?」


 あとから考えればイチャイチャしている恋人同士にしか見えない笑顔でわたしは聞き返した。

 頬を赤らめるヨハネは何を思ったであろう。


「ほ、本当さ」

「じゃあそういうことにしてあげるわね」


 恋人同士なら軽くキスでもしそうな雰囲気だが何もせずわたしはカーゴに乗り込んだ。

 ヨハネがいつものようにジェットブーツで牽引しての帰り道。

 市街地は良いのだが、やはり山に入ると不整地なのでカーゴの中は結構揺れてしまう。

 いつもと違って借り物のスカートだと少しお尻が痛い。

 もしかしてヨハネはこの衝撃がわたしに良くないと気づかってくれたのかな思うと胸がうずいて頬が赤らむ。

 この時点ではまだ自覚が足りないが、やはりわたしはこの時点で彼のことが好きなのだろう。

 未来のわたしはそう思う。


「重いものは僕が持つから、アマネは軽いものをお願いするよ」

「いいって。色々迷惑をかけちゃったお詫びに黒麦はわたしが運ぶから」


 ホームに到着後、わたしはヨハネの気づかいを遠慮して黒麦粉が入った袋を抱え上げた。

 重たいのは当然だが、これでもけっこう腕力には自身があるので大丈夫。そう過信したわたしはうっかりしていた。


「そういうのは僕の仕事でいいのに」


 ボヤキつつ荷物の残りを手に持って、ついでに洗濯前のわたしの下着に顔を赤らめたヨハネが居間についたのはわたしが黒麦粉を貯蔵庫に入れて戻ってきた頃だ。

 軽いものをとはいえ荷物が多くて前方不確かなヨハネはわたしの姿に気づかぬまま通り過ぎていき、一方でわたしも自分の状態に気づかぬままコップに水をくむ。


「黒麦を運んでくれたのは助かるけれど、大事なコレを忘れて……」


 貯蔵庫から戻ってきてゴクゴクと首を上げながら水を飲むわたしを見たヨハネは、小言を告げる口が途中で空いたままになってしまった。

 なんだろうと思いつつも水を飲み切るのが先なので、ぷはーとおじさんみたいなリアクションをしてからわたしはたずねる。


「どうしたのよヨハネ。顎でも外れた?」


 ヨハネは目を見開いて顔を赤くし、無言のままわたしを指差す。


「ん……わたし?」


 そしてわたしが彼の指に目を合わせると、そのままヨハネはゆっくりと指先を下に向けた。

 わたしも釣られて目線を下げていくと───


「あ!」


 ようやく事態を把握して後ろを振り向いた。


「み、見た?」


 聞いてはみたがヨハネの反応を考えれば聞くまでもないだろう。

 黒麦粉の袋を抱えたときにめくれたスカートが、そのままペロンとめくれたままになっていた。

 こういうとき普段はズボンなので大丈夫なのだが、今日はあいにくとマリーちゃんに借りたスカートである。

 それに替えがないので仕方なくノーパンだったのも恥ずかしい。

 下着どころか生まれたままの姿を見せてしまったのだ。サカリがついて狼にならないヨハネの紳士さがなければ貞操の危機だ。


「ご……ゴメン……」


 ようやく顎が戻ったヨハネは正直に謝ったのだが、それが余計に気恥ずかしさを加速させてしまう。

 いたたまれなくなったわたしはスカートを戻すと、ヨハネと同じく「ゴメン」と呟いてから、この日は夕飯の時間まで部屋にこもってしまった。

 本当は土曜日に向けて色々と準備をしないといけない。

 ただでさえ昨日もわたしが倒れたせいで未だに最終課題はノープランで不安だらけ。

 未来のわたしからすれば、ここで一発キメて仲が進展しても良かったかもなと思うくらいの初々しいハプニングに当時のわたしは揺らぎまくってしまった。

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