4 進むか 止めるか
悪い部分しかなかった第二稿を前に私は第三稿を書くか、それとも第一稿を提出するかかなり悩みました。
一度は没にしたものの第一稿は私の中では書きたいものを書けている感じはありましたから締め切りに間に合わなければそれでもいいかと思ったほどです。
それでも最後まで足掻かなくては他の参加者の方たちにも主催者さまにも申し訳ない。自分自身が許せない気持ちだったので私は第三稿に取り掛かりました。
今回は設定をシンプルにしてお掃除の描写に力を入れよう。
そう決めて書き始めた第三稿をどうぞ。
【 タイトル 「第三稿」 】
空いている駐車スペースの更に邪魔にならない場所へ車を停めて運転席から出る。
会社の名前が入った白い軽のワゴンの後ろへ回りハッチを開けて、荷台に詰め込まれている様々な道具から必要なものを選ぶ。
まずは基本装備であるゴム手袋は破れた時などの予備も含めて三組と三十枚入りのゴミ袋。
特殊な薬剤を業務用の混ぜるな危険!な洗剤が入った霧吹き各種。
拭く場所や用途で使い分けるために必要な大量の雑巾。
大小のスポンジ、タワシ、様々な形の大きさのブラシが並ぶ中で特にお気に入りなのは使い出のある硬めと柔らかめのブラシが頭とお尻についたツーウェイブラシ。
ブレード部分がゴム製のスクイージーはT字型で、窓や鏡などの水分を綺麗に取り除く時に便利だ。
プラスとマイナス両方のドライバー、刷毛、軍手などなど、意外とこんなの必要なの?っていうものもお掃除には欠かせない道具だったりする。
モップは埃を取る用の乾式タイプと拭き掃除やワックスがけ用の濡らして使うタイプの二種類を用意しているし、箒や塵取りも乗ってはいるけれど、これらの用具は派遣先の掃除道具の中に必ずといっていいほど常備されているのでご厚意で使わせてくださる所が多いので今回も置いていく。
準備万端でハッチを閉めて職員用の裏口へ向かった。
小さな管理人室の中にいる警備と管理を兼ねるおじさんは元々ここの社員で定年退職し再雇用されたらしい。
使い古された事務椅子に座り小さなテレビをいつも観ている。
小窓をコンコンっと叩くとようやくこちらを見てくれた。
「こんにちは。いつもお世話になっております。清掃サービスの三波です」
「おお、三波ちゃん。お疲れさん。今日もいい天気だね」
「天気は良いけど風が冷たくてじっとしてると寒いくらいですよ」
「こういう時は体調崩しやすいからなぁ。特に三波ちゃんの仕事は体力仕事だから気張り過ぎんようにせんと」
「ありがとうございます。お互いに体に気をつけなくちゃいけませんね」
「ほんとにな」
おじさんと笑って世間話をしている間に持っている商売道具の重さがじわりと腕から肩へと伝わってくる。
二年前までは会社員として営業の仕事をしていた私。
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ここで「私(主人公)」に名前をつけて彼女に焦点をあてようとしたのは良かったと思います。
ですが冒頭で商売道具についての羅列ではいささかお粗末ですし、読者の気持ちに立ってみれば先を読みたいという出鼻を挫くものにしかならない暴挙です。
私は最後まで書くことすらできず呆然としてしまいました。
これはもうダメかもしれない。
別の設定で書こうと頭を切り替え、自作の「厄介事万請負所」のキャラを使って間に合わせようとしました――が、何度やっても書けません。
彼らとの付き合いは長いので、書けないなんてことはないはずなのにどうして?
またしても私は深い絶望に陥り、一旦この企画の原稿を考えることをやめることにしました。
さてその後どうなったでしょう?
お蔭さまでなんとか三波ちゃんを主人公にした作品を書き上げることができました。
その中では名前を出してあげられませんでしたが一度彼女に捧げた名前ですから、これは彼女のものなのです。
企画に提出された作品たちを読めば「これが2000文字なの!?」という驚きから「そういう(お題)解釈するのか!」という発見や唯一無二の表現まで様々で面白い。
たかが2000文字。
されど2000文字。
企画作品は自作の長編を書くよりも難しく、そして遥かに学びがあることです。
この設定は必要?
この言葉は適切?
足りなければ伝わらず、多すぎては纏めることはできない。
吟味が必要なのです。
私はまだ実践できていませんが、最後の企画提出作品は特別な気持ちで挑みたい。
そんな決意表明を記してこのエッセイを終わりたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。




