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かの皇帝は、妃とともに立つことを望み、かの妃も、皇帝とともに立つことを望んだ。
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「やってしまった…」
シャルロットはあの夜のことを悔やんでいた。もちろんあの夜とは、執務室に足を踏み入れた夜のことである。
レイスは宣言していたはずである。踏み入れたならば、帰すことは出来ないと。それはつまり、バイトではなく本当の妃のことで。
不思議と、それが嫌ではないと感じている自分もいるけれど。あの夜、私は執務室に向かうレイスの背中に一瞬見惚れた。全てを背負って、倒れても自分にかかっている荷物を投げ出さないで。そんな重責を、ともに背負えたら。
心からそう思ったから、私は執務室へ同行したのだ。
むしろ、「正妃になれない」ことが嫌だ。
孤児院のことを悪く言うわけではないが、孤児院出身の正妃なんて聞いたことがない。
シャルロットは我儘な自覚はある。
二番目に甘んじるのなら、いっそのこと。
後宮から、抜け出してやる。
***
「すまなかった…」
現在、シャルロットはレイスに頭を下げられている。下げているのではない。下げられているのだ。皇帝が人に頭を下げるなんて本来ならばありえないことである。しかし、現在進行形でそれは行われていた。
「まさかそなたが、投身を図るほどに追い込まれているとは思わなかった。」
(誤解によって)
「しかし、国家機密のため、そなたを市井に戻すことは出来ぬ。やはりあの時、無理矢理にでも執務室へ向かうのを止めればよかった、申し訳ない。」
そう続く謝罪に、まさか抜け出そうと思っていたなんて言えず。
「いえ、そうじゃないんです…」
「(投身を図った理由は)他に?」
妃として、二番目に甘んじるのがとても嫌だったこと、それならばいっそ(抜け出そうと)思い切ってしまったことをシャルロットは告げた。
何故か大事なことは言葉にしない二人の間で重大な誤解が生じているが、それよりも。
「二番目も何も、後宮にシャルロット一人しかいないではないか?」
そもそも、何人も妃を娶る趣味は余には無いぞ、と言われて、単純なことを見落としていたことに気が付いた。
しかし。
「孤児院出身で、貴族でない正妃なんて聞いたことがありません。」
基本的に、「出所がはっきりしている」女性が好まれるのは、密偵である可能性が低いからだろう。
だから、私は妃になるべきじゃ無い。
レイスが、あるべき皇帝の姿であり続けるならば、その横に立つのはあるべき妃の姿であるはずなのだから。
「シャルロット、何を言ってる?そなたは貴族ではないか?」
余は最初から、シャルロット・マクレーン・サマセット・ジョセフと呼んでいたはずだ、シャルロット公爵令嬢?
シャルロットは、今度こそ立ち尽くした。




