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ベルハルト皇国の妃  作者: mimico
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3

かの妃は、それはそれは魅力的で、何人もの殿方が虜になったという。


***


前の妃も美しかったが、今の妃もとても美しい上に、優しいじゃないか、なんて噂を耳にした皇帝は、憮然とした顔をする。

妃を娶りたくがないために何度もバイトで妃を雇ったのが仇となったか。

お前たちが思っている今の妃の一人目は、非常にワガママだったぞ、急遽外交のために雇った二人目がちょっと変わっているだけだ、顔が好きなら一人目をくれてやる、などとぶちぶち呟く皇帝を見て、側近であるアルバートはため息をついた。

バイト妃が皇帝にちょっかいを出すたびにクビを告げるのは側近の仕事のため、ついついシャルロットにもキツイ言い方をしてしまったが、今回は陛下の方からシャルロットへ手を出しそうな勢いである。


「陛下、仕事をしてください、ほら、昨日依頼した嘆願書への対応はどうなりましたか?」


アルバートが皇帝に急かすと、皇帝は、「終わらせたよ」そういって左後方の書類の山を指差す。

この皇帝、仕事は出来るのだがやる気はない。そもそも第三皇子だったので気楽に生きてたらお鉢が回ってきた、という認識なのだろう。

大臣たちは全員一致で陛下を推したのだが、そのことは陛下は知らない。


じゃあ次、この書類お願いしますね、明日は視察に行きますので今日中に、と厳しい条件ーどうせ夕方には終わっているだろうーを突きつけたアルバートは、溜息をついた。

あまりにも女に興味がないものだから、実は男色家なんじゃないか、なんて噂がアルバートら側近の中で出ていたが。

どうやら杞憂のようだった。陛下は女に興味を示している。後継問題も、これならなんとかなりそうだと胸を撫で下ろしたところで。


問題は、彼女ーシャルロットの身分が「現在」平民であることだ。

そして、シャルロットが陛下に謁見した際、シャルロットのことをフルネームで呼んだ。つまり、陛下はシャルロットの身分を変える、否、戻すよう考えているということで。つまりは、のちのち自分の妃、あるいは有力な貴族ー公爵、侯爵、伯爵に嫁がせると考えているということだ。

そうなれば、勢力図が随分と変わり、そしてそれとともに我々の仕事も増えるはずだ、と再びアルバートは溜息をついた。


これで、シャルロットが素行がわるかったり、飲み込みが遅いようであれば、伯爵以下の家に嫁がせれば済む話であるが、生憎というべきか幸いというべきか。

シャルロットは飲み込みが早く、駆け引きが苦手なものの、機転はよくきく娘であった。

さらに、陛下が気にかけているという。


本物の妃にシャルロットがなったのならば、まさに「シンデレラストーリー」であり、本来ならば皇族に嫁げるはずもない男爵家、子爵家の年頃の娘がパーティで皇族に群がるといったことも考えられる。

そうならないよう、身分を変える、否、戻すことには慎重にならなければならない。養子縁組などではなく、もっとーーーーー。


そこで、アルバートははたと気がついた。

陛下は、シャルロットのことをなんと呼んでいたか。

アルバートは資料室へ足を向けた。



***


そのころ、シャルロットは優雅にお茶を楽しんでいた、訳ではなく、マナーの授業真っ最中であった。


「フォークは、縦に刺してくださいまし」


今日の授業はケーキの食べ方である。最初聞いた時はシャルロットは喜んだが、今は後悔している。なぜケーキを食べるのにマナーがいるんだ、なぜケーキの種類でフォークの使い方が変わるんだ、なんてブスくれながらも、綺麗に食べられたら嬉しいと思う自分もいて、なんだか嵌められた気持ちになる。


それにしても。

昨晩のあの言葉、本気だったのだろうか。


「余の妃にならぬか?」


練習かと思ってさらりとかわしたが、どきりとしたのは事実。ただ、あのあと何も言ってこないので、冗談とは思うが。

皇帝ともあろう人が、後々「そうおっしゃっていたのだから責任を取れ」と言われて困るような冗談を言うだろうか。

それとも、そんな冗談を言っても大丈夫だと、信用されているのか。


と、そこでアルバートのセリフが頭に蘇る。

「(バイトの分際で)」

正確には言葉にはされていないが、そうシャルロットに伝わったのだから仕方がない。

シャルロットは脳内に現れたアルバートに舌を出しながら脳内で答える。


「釣り合わないことくらい分かってますよーだ」


むしろ、冗談で言い寄ってきているのはあちらの方で、こちらはとんと意識していないのに。これ以上私の頭の中を占めないで欲しい。シャルロットは、自分の頭の容量に自信がない。それゆえ、マナーやレッスンの中身が抜けそうで怖いのだ。


そんなことを考えていれば。


「余所見をしてはなりません」


そう教師に叱られ、ハッとしたシャルロットは、再び真剣な顔でケーキに向き合ったのだった。



***


あの時、皇帝はシャルロットのことをなんと呼んだか。


「シャルロット・マクレーン・サマセット・ジョゼフ」


確か、そう呼んでいた。


この国の未婚女性の名前の法則は、

ファーストネーム・母の家名・父の家名・父の名前

である。


つまりはシャルロットは、ジョゼフ・サマセットとホニャララ・マクレーンの間の娘ということになる。

それゆえ、アルバートはサマセット家と、マクレーン家について調べれば良いだけである。なぜあんなに陛下が自信満々にシャルロットのフルネームを言えたのか。その根拠を探しに。


しかし、アルバートは、ジョゼフ・サマセットの名前を見た瞬間、すべてを理解していた。


それは、10年前に遡る。

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