英雄たちと赤ん坊
ほの暗い部屋に、4つの人影が浮き出ていた。
「もう行くのか」
「ああ、首も据わったし、歩くまで時間の問題らしいからな」
顔に傷跡のある若者が、赤ん坊を危なげ無く抱いている。赤ん坊は静かに眠っており、起きる気配はない。
「やっぱり、もう少し遅らせたら?ほら、夜泣きとかあるだろうし」
ローブをまとった若者が、おっかなびっくり赤ん坊を見つめながら言う。その瞳は片方が青、もう片方が金色であった。
その背中を、立派な髭をはやした若者がぱしんと叩く。
「魔術都市の創造主が、情けないこと言うなよ」
「そうだよ、お前の肩には全魔術師の人生がかかってるんだ。それに比べりゃ、俺が子育てするくらい、どうってことないさ」
「あなたの前向きさは見習いたいけれど、楽観的なところは御免だわ」
白く裾の長いドレスに身をつつんだ女性の指摘に、顔に傷のある若者は苦笑いした。
「さて、時は満ちた」
顔に傷のある若者が厳かに言うと、白い光が溢れた。その光は、赤ん坊よりわき出ている。
「じゃあな、サータオン、アルラード、ヒィビラ。ちょっくらこいつと、未来に行ってくる」
「ああ、その子が笑って過ごせる場所をつくってやる――じゃないと、なりたくもない勇者の恋敵役になる意味がないからな。実際俺の方がモテるし」
「魔術師に関しては、僕が精霊魔法も、魔術もきっちり伝える。それで僕が君より魔術に長けているって証明になるよね?もちろん、伝承にあるような人体実験は無しで」
「バド、最後だから言うけど、――私とあなたの悲恋とか笑止だわ。私の身も心も女神リステシア様の者よ。だから、とっておきの祝福をあげる。――どうか、無事で」
戦友たちの最後の言葉を受け取った後、バドは笑った。
「やっぱ、お前たちほど頼りになって、気の合わない連中はいないな」
じゃあな、と二度目の別れの言葉を飲み込んで、バドは口を開いた。
「またな」




