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「魔王」  作者: 豊川颯希
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花園の乙女

むかし、むかし。

まだ、「まおう」がいないじだい。

このたいりくのきたに、いまではみかけることのないはながいちめんにさくはなぞのがありました。

そのはなは、とあるいちぞくがひんしゅかいりょうをかさねてつくったもので、よねんにいちどだけはなのいろがかわるふしぎなはなでした。

そのはなをつくったいちぞくは、びょうきによわく、ちいさなむすめをひとりのこしてしにたえてしまいました。

むすめはかなしみつつも、いちぞくのわすれがたみであるはなをめでながら、こころおだやかにくらしておりました。

あるひ、はなぞのにひとりのせいねんがまよいこみました。

せいねんはめずらしかったのか、かってにはなをいちりんつんでしまいました。

よねんにいちどのいろがわりまえだったのに、とむすめはひどくかなしみました。

せいねんはそれをみると、ふしぎなじゅもんをとなえてからはなをじめんにおきました。

すると、はなはひとりでにねをはり、もとのようにじめんからはえていました。

せいねんは、まほうつかいだったのです。

おどろくむすめに、まほうつかいはたいしておもしろくもなさそうにいいました。

「こんなもの、まほうでどうとでもなるだろう」

そのことばに、むすめはうなずくどころかくびをよこにふりました。

「いいえ、それはちがいます」

なっとくのいかないまほうつかいに、むすめはあしたまたくるようにつげました。

よくじつ、しぶしぶはなぞのにやってきたまほうつかいは、めをうたがいました。

いちめんのあかいはなねなかで、きのうまほうつかいがうえなおしたはなだけがしろいいろのままでした。

おどろいてことばもでないまほうつかいに、むすめはいいました。

「まほうでは、どうとでもならないことがあるのですよ」

「いいや、みとめない」

まほうつかいは、ひどくまけずぎらいでした。

それからまほうつかいは、うえなおしたはながほかのはなとおなじようになるよう、まほうのけんきゅうをはじめました。

むすめはさいしょ、はなをまほうのじっけんにつかわれるのをいやがりましたが、まほうつかいのねついにおされて、すこしだけゆるしました。

そして、よねんがにかいくりかえされたとき。

ことしもいちめんのあかいはなのなかで、きのううえなおされたまほうつかいのはなも、おなじくあかくなっていました。

「みごとね」

むすめはすなおにまけをみとめました。

しかし、まほうつかいはあまりうれしそうではありませんでした。

むすめがそのわけをきくと、まほうつかいはおもいくちをひらきました。

「このはなはどくをもっている」

むすめは、いきをのみました。

「どくはすぐにひとのいのちをうばうものではないが、ながくふれているとじょじょにひとのからだをよわらせるのだ」

むすめのかおいろはまっしろになっていました。

むすめのいちぞくがびょうきによわくなっていたげんいんが、よりによっていちぞくがいつくしんでいたはなであったのだから、むりもありません。

まほうつかいは、きのどくそうなひょうじょうでつづけました。

「このはなは、もやすべきだ」

「いやです」

いままでいちどもこえをあらげなかったむすめは、はじめてさけびました。

「せめて、わたしがしんでからにしてください。これは、わたしたちのいきたあかしなのです」

むすめはじぶんがながくないことを、うすうすさとっていました。

ねんねん、かぜがながびきしょうじょうがおもくなっていたからです。

まほうつかいは、おしだまったままでしたが、ついにはなをいちりんももやしませんでした。

それから、よねんがにどすぎたころ。

はなのいろがわりをみとどけて、むすめはいきをひきとりました。

まほうつかいは、そのなきがらをそっとはなのなかによこたえました。

ちのかよわないむすめのほおが、すこしだけゆるんだようにみえました。

そのよくじつ、はなぞのはただのこうやにかわっていました。

それからすうひゃくねんたち、「まおう」がゆうしゃにたおされたころ。

そのとちはようやくくさきがはえはじめましたが、いぜんのようなうつくしいはなぞのになることはにどとありませんでした。

ただはちねんにいちど、いちりんだきけしろいはながさいているというでんせつが、ひっそりとつたえられています。

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