表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清流の蛇姫  作者: 海山 紺
第一章
PR
8/34

第8話 銃士隊長

 局寮は局舎と隣接しており、全部で五棟あった。

 大陸風の瀟洒(しょうしゃ)な外観で、周囲には四季折々の花木が植わっている。


「桜と梅か……」


 爛漫と咲き誇る春の花木に桜夜は目を細めた。

 すべて二階建てで、一階奥には食堂と休憩室(ラウンジ)、浴場がある。局員の部屋は主に二階に集中しているとのことだった。


「桜夜さんはこちらの部屋を使ってください。蓮夜さんは右隣の部屋を。私とこのたわけ者の部屋はご姉弟の向かい側にありますので、なにかあったら訪ねてください」

「馬鹿と愚者の次はたわけ者か。額ちゃんの悪口レパートリーもずいぶん増えてきたな」


 水を差す伊織を無視して、額は部下が用意してくれた親兵服を桜夜に手渡す。


「局員はこの制服を着ることが義務づけられています。まずは着替えを」

「わかりました」

「何着か私服も用意したので、よければ使ってください。こちらは蓮夜さんの分です」


 そこで、額の隣に立っていた佳弥が蓮夜の衣服を手渡す。


「あ、ありがとう……!」

「どういたしまして」


 上品に微笑む佳弥に、蓮夜はわずかに頬を朱に染める。


 佳弥は桜夜が任務に出ている間の蓮夜の世話役として、傍に控えることになった。彼女もまた伊織と同じ立ち位置で、超常的な存在をその身に宿す蓮夜を監視する役目を担っている。それは彼女や額たちの口から直接聞かされなくても、姉弟にはわかりきっていたことだった。


「お、いたいた。おーい、伊織」


 ふと、赤い絨毯が敷き詰められた回廊の先から溌溂とした声が聞こえた。一同が声の主を振り返ると、こちらに歩み寄ってくる青年の姿が目に映る。

 漆黒の髪に琥珀色の瞳。身長は男性にしては低いほうで、桜夜と同じくらいだった。


 ――この人も神器所有者か。


 彼の右肩には真紅の雄壮な狙撃銃が下げられている。神器にしては目新しく大陸由来の形をしていた。


「マス」


 伊織に『マス』と呼ばれた青年は、歩を止めるや否や桜夜と蓮夜に視線を投げる。


「この人たちが例の?」

「そ。桜夜ちゃんと蓮夜くん。桜夜ちゃんは今日から親兵局員」

「え、マジ?」

「マジ」


 目を丸くする青年の反応を面白がるように、伊織は口の端を吊り上げた。


「あ、この童顔は雑賀(さいか)増長(ますなが)。通称マス。ボクの忠実な僕」

「ちげえわ。なんつう紹介の仕方してんだよ」


 マスこと、増長は呆れ顔で言いながら伊織の頭を軽く叩く。確かに青年の顔立ちはいくらか幼く見えた。伊織と身長差があることも相まって、十代と言われても違和感がない。

 増長は軽く咳払いして、屈託のない笑みを浮かべて元気よく名乗る。


「誤解を招きかねない他己紹介は忘れることとして。改めて、親兵局第三部隊、隊長の雑賀増長でっす! よろしくおなしゃす!」

「き、清水桜夜です」


 桜夜は勢いよく差し出された手をおずおずと握り返す。続いて蓮夜も握手を交わした。


「第三部隊って……」


 増長の肩書に桜夜が疑問を抱いていると、伊織が簡潔に説明した。


「親兵局は大きく四つの部隊にわかれてて、それぞれ隊長と副隊長がおんねん。部隊はボクら副長が監督してる。ボクは第三、第四部隊。額ちゃんは第一、第二部隊。だからマスはボクの僕ってわけ」

「だから僕じゃねえっつの」


 部下と言いつつも、増長は遠慮なく上司である伊織の頭を再度叩きつける。

 こんなひょうきん者の下につくとは、この人も苦労するな。姉弟は増長に対し、秘かに憐憫の情を寄せた。


「それはそうと、マス。ボクになんか用があってここに来たんとちゃうん?」

「ああ、そうだった。沈丁花の拠点が見つかったぞ」


 増長以外、『えっ』と全員の驚愕が零れ出る。


「まあ、拠点っつっても本拠地のほうじゃないけどな。あくまで幹部がいる分拠地がわかっただけだ。昨日の夜、俺んとこの隊員が沈丁花に与している侠客と接触して、口割らせた。本丸を問い質しても、一向に答えないうえに最後は自害しやがったけど」


 増長は軽く舌打ちしてから肩を竦める。

 沈丁花は御庭番だけでなく、幕府に従属していた有力大名やその臣下たち、それから侠客なども多く参入している。その規模はおよそ数千と言われ、国内各地に拠点を設けて輪皇軍の兵力を分散させ、攪乱させる手法をとっていた。


「どうする伊織。第三部隊(俺たち)が出るか?」

「そうやな。沈丁花の尻尾掴んだのはそっちやし。――あ」


 そこで伊織は何か思いついたように、桜夜を一瞥してはにやりと口の端を吊り上げる。


「せっかくやし、ここで桜夜ちゃんの初任務といこか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ