第3幕 冬
「寒っ」
冷たい風で俺は目を覚ました。あたりには見慣れた景色が広がっている。
ところどころ霜のできている石畳、裸になった木、古びた神社ここにあるものといったらそのくらいだ。ここにきてからどのくらい経つのだろうか。時々違う季節の場所へ行けることもあるがここに来てからほぼずっとこの景色だ。俺はこの世界が嫌いだ。何より暇なのだ。一度一方向に歩き続けるということもしてみたのだがいくら歩いても景色が変わらなかったので諦めた。今日も特にやることがないので二度寝しよう、そう思っていると聞き慣れた足音が聞こえてきた。あぁ、またこいつか。
俺の前に現れたのは狐の面をした女だ。
「やっほ〜。どう?冬の世界、楽しんでる?」
テンションの高い声でそいつはそう聞いてきた。
「楽しめるわけねぇだろこんな世界。なんもねぇじゃねぇかよ。」
「そんなこと言わないでよ。せっかく私が作った世界なのに。悲しいなぁ。」
こいつと話すといちいちストレスが溜まる。
「君は死ぬまでここから出られないんだから、この世界を楽しんでいかないとね。」
楽しそうにこいつはそう言って俺に背を向けて歩き出す。俺はその背中を黙って見ているなんてことはできなかった。地面を蹴る。拳を振りかぶってそいつに向かって叩きつける。
拳がこの女に当たる、、、、、はずだった。
「ガハッ、、、」
気づけば俺は神社の壁にめりこんでいた。こいつの攻撃をくらった、のか?
あまりにも一瞬の出来事で俺は状況が飲み込めなかった。
「だめだよぉ、暴力は。」
そういって笑いながら俺の方へゆっくり近づいてきた。1歩、また1歩とこちらへ向かってくる。俺は壁と衝突した衝撃で動けずにいた。
「せっかく君には優しくしてたのに、そういうことするんだ。そんな悪い子には痛い目を見てもらわないとね。じゃ、おやすみ。」
女がそういうと同時に俺の目の前が闇に染まった。
目が覚める。俺は見知った顔の人たちに囲まれていた。
「お、お母さん!」
俺がまだ小学生の時、お母さんは道路に飛び出した俺を庇ったせいで他界した。
お母さんの方へ走る。本当に、幻じゃない。お母さんだ。そう認識した時
「イッ。」
「あんたなんか助けなければよかった。あんたが死ねばよかったのよ。あんたのせいで私の人生が台無しになったじゃない。ほんと、産まなければよかった。」
なんで、なんで。お母さんは誰よりも俺のことを大切にしてくれた。俺は小さいときから少し変わった子だった。他の人が当たり前にしていることも俺はできなかった。そんな俺を一番近くで応援してくれた。怒られたこともなかったしこんなことも言われたことがなかった。なのに。
「なん、で、、、」
「ちっさいときから思ってたけどほんと失敗作よね、あんた。どこでまちがえたのかしら。」
お母さんはこんなこと言わない、言わないはずだ。そう自分を洗脳する。これはきっと悪夢だ、そうに違いない。頬をつねってみるけど痛いだけだった。だったらこれは現実なのか?いや、そんなはずない。俺は頭をフル回転させてこの悪夢みたいな状況から逃れる方法を考え続けた。
ドンッ。
後ろから頭を鈍器で殴られたような衝撃が俺を襲う。衝撃の割に意識は鮮明だった。いっそ意識がなくなってしまえばいいのに。そう思いながら後ろを振り向く。
「俊介、、、?」
「よぉ。久しぶりだな冬弥。」
そこにはハンマーのようなものを持った俊介がゴミを見るような目で俺を見ていた。
「なんでそんなことするんだよ俊介。俺たち幼馴染だし、親友だったじゃないか。」
「幼馴染?親友?人殺しと仲良くする気はないなぁ。」
そう言って後もう一度そのハンマーが俺に振り下ろされた。痛みはもう感じなかった。
「俺は誰も殺してない。誰を殺したっていうんだよ。」
「自分のお母さんを殺しといてよく言うよ。お前みたいな子どもが生まれてきてさぞ大変だっただろうね。もしかしたら死ねて嬉しかったりしたんじゃないかな。」
「俊介、、、」
俺がそう言うと同時にまたそのハンマーが振り下ろされた。もう何を言ってもだめなのかもしれない。俊介はお母さんが死んだ時俺のことを励ましてくれたし、中学も、高校も同じだったがいろんなことができない俺に優しく接し続けてくれた。なのに、そんなこと言うなんて、、、俊介はそんなこと言わない、そう頭では分かっている。だけど、だとしたら今を俺が見聞きしているのは何なんだろうか。その後もお父さん、学校の先生、友達など、15人近くに罵詈雑言を浴びせられ続けた。罵詈雑言を浴びせられ始めてから、叩かれ殴られされ始めてからどのくらい時間が経っただろうか。俺の意識は段々と薄れていく。意識が落ちる直前、みんなの顔が狐の面に変わったのを俺は見逃さなかった。
寒い風とともに俺はまた目を覚ました。相変わらず壁にめり込んでいて身体が痛むが動けるようにはなっていた。探しても探してもあの女は見つからなかった。絶対に許さねぇ、あいつだけは。心のなかでそういった時、いつの間にかいつの間にか夜になっていた空が突然明るくなった。輝きを放っていたのはベテルギウスだった。




