第2話 志に集う者たち
桃の木の下で義兄弟の契りを結んだ翌朝。
俺たちはさっそく動き出した。
とはいえ、言ってみればゼロからのスタートだ。
現実は俺達にとって甘いものではなかった。
金がねぇ。
兵もいねぇ。
武器も馬も、ロクに揃っちゃいねぇ。
張飛は腕を組んだまま、険しい表情だ。
「兄者、気合いは十分だが、これじゃ戦にならねぇら。」
関羽はうなずく。
「今の備えでは、民は救えぬ。」
劉備は、黙ったまま弟たちの話を聞いている。
「そうなんだよなぁ。」まったく、その通りだ。
わかっちゃいる。わかっちゃいるが、ねぇもんはねぇ。
それでも、この悲惨な状況をどうにかしたかった。
町には、子ども達が腹をすかせ、大人は希望を失った顔をしてやがる。
よしっ、決めた。今の俺にできることをやるしかねぇな。
俺は広場に立って、町の人々に向かって自分の思いをぶつけた。
「町の皆。聞いてくれ。
俺は、劉備玄徳ってもんだ。今はたいした名もねぇ。ただの草履売りだ。
できることなんざせいぜい知れている。そして、今は金も兵もねぇ。
・・・でもな、俺はみんなと笑いあえるような、
活気があって安心して暮らせるような街にしてぇんだ。
そんで、できることなら天子様のお役に立って、
今のこのどうしようもない世の中を変えたいと思ってんだ。」
いつの間にか広場には群衆が集まっていた。
劉備は頭を深々と下げた。そして、真剣なまなざしでみんなを見渡した。
「戦えるやつは力を貸してくれ。
戦えねぇやつも、どうか力を貸してほしい。
荷を運ぶこと。飯を炊くこと。
傷ついたやつを助けることだってできる。
ひとつの力は小さくても、集まればきっと、大きな力になる。」
広場はしんとしていた。
やっちまったか、と少し思った。
こんな青くせぇこと言って、笑われても仕方ねぇ。
すると、群衆の中から、ゆっくりとはっきりした口調で、
「戦は無理だが、わしは縄がなえる。荷をまとめるくらいならできるぞ。」
一人の老婆が口火を切った。
そのあと、ひとり。またひとり。
気づけば、あちこちから声が上がっていた。
張飛はうれしさあまって言った。
「ははっ!兄者の一言でこれだけ集まるら!
俺じゃ真似できねぇら!」
関羽は静かに一言。
「兄者の言葉が、皆の心を動かしたのだ。」
いや、俺はたまたま、それを口にしたにすぎねぇ。
顔を上げると、町の空気が昨日までと少し違って見えた。
重苦しいだけじゃねぇ。
まだ小せぇが、火がある。
消えかけていた火が、たしかにまた灯りはじめている。
その日、俺たちは兵を得たわけじゃなかった。
莫大な金が集まったわけでもねぇ。
けれど、もっと大事なものを手に入れた。
俺たちの志を、自分のこととして受け止めてくれる人たちだ。
前に出て戦う者だけが仲間じゃねぇ。
後ろで支える者もまた、この乱れた世と戦っている。
俺は、集まったみんなを見渡して言った。
「ありがとう。俺たちは、あんたたちの思いごと背負っていく。
だから必ず、みんなを守るために戦う。」
関羽が小さくうなずいた。
張飛は大きく笑って、拳を突き上げた。
こうして俺たち三人のまわりには、少しずつだが、
人が集まりはじめた。
名声があったからじゃねぇ。
金があったからでもねぇ。
ただ、この世を少しでもましにしてぇと願う気持ちが、同じだったからだ。
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