第1話 桃園の誓い
俺の名前は、劉備玄徳。
母ちゃんから「中山靖王の末裔なのだから志を高く持つんだよ!」
と呪文のように言われるのがルーティンになっている現役の草履売りだ。
しかし、中山靖王の末裔といっても、
あまり自慢できるご先祖様ではねぇらしいんだ。
っつても、皇帝の血をひく家の生まれだからかも知れねぇが、
今、衰退している後漢王朝の何か役に立ちてぇなと思うようになった。
唐突だが。気になっていることが俺にはある。
それは最近、町全体が元気がねぇことだ。まあ、これだけ、
大飢饉や組織的な農民反乱が起こる世の中だ。
気持ちが沈んでも仕方がねぇよな、実際よ。
特に黄巾の乱。こいつがまた厄介な集団だ。
力を持たない連中に大層立派なことを言って、そいつらを仲間にしてやがる。
本当にそいつらのことを考えて、仲間に誘っているやつが何人いるだろう。
俺は、名前が売れているわけでもなく、
何をするにしても年齢的にはひよっこだし、
日々、俺自身が食いつなぐだけで精一杯の生活だ。
でもさ、みんなが楽しく、笑顔がいっぱいの暮らしが、
毎日送れた方がいいんじゃねぇか。って考えるんだよな。
そんな俺に運命の日が訪れた。
その日、町の掲示板には、国を守るための兵士募集の案内があった。
俺は、立ち止まり、しばらく案内の文字を見つめていた。
兵士か。剣の達人でもなければ、兵を指揮した経験もない。
こんな俺に何ができるっていうんだ。
でも、ここで何か一歩踏み出さなきゃ、
また今日と同じ明日しかやってこないよな。
その時だった。掲示板の前で、男が口を開く。
「世の中、こんな有り様なのに、黙って見過ごすなんて俺っちにはできねぇら。」
丸太と思わせる両腕を組んだ男は、町の端まで届きそうな大声でそういった。
どうやら自分の熱い思いを抑えることができなかったようだ。
そして、一緒にいた長いひげの大男に同意を求めた。
「そうだよな、雲長!」
すると、大男はよくとおる太い声で応じる。
「そうだな・・・見過ごす選択肢はない。」
俺は二人の目をしっかりと見れるとこまで少し近づいた。
目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。
その目は強い信念と意志に満ちあふれていた。
この若者たちの目を見た俺は、二人に話しかけずにはいられなかった。
「おめぇさん達、この兵士募集に参加するつもりかい?」
長いひげの男がうなずいた。
「民が苦しんでいる。見過ごせぬ。」
ガタイがよく豪快な男は、当然のように言い放つ。
「悪党どもをたたきのめせば、それで済む話ら。」
俺は正直、嬉しかった。
同じ気持ちのやつに、一日で二人も出会うなんて思ってもみなかった。
それから、俺は、二人を誘って近くの桃の木の下で話しこんだ。
長いひげの男は関羽雲長。
ガタイのよい豪快な男は張飛翼徳。
関羽は義にあつく、張飛は短気だが情に深い。
言葉を交わすうちに、それがわかった。
この二人となら、志を果たせる。そう思えた。
春風が桃の香りを運んできた。
それは、これから生まれる強い絆の気配を予兆させた。
張飛が言った。
「どうせやるなら、半端はなしら。世のために命をかける覚悟がいるら。」
関羽がうなずく。
「生まれた日はちがっても、志を同じくするなら、兄弟になろう。」
俺は二人の顔を見て、深く息を吸った。
「この乱れた世に知らないふりはできねぇ。たいした力はねえけど。
三兄弟として共に歩んでくんねえか。」
そこまで言うと言葉なんて必要なかった。
俺たちに必要なのは同じ志を持ってること。
三人の笑顔がすでに答えになっていた。
桃の花びらがまた一枚、足もとに落ちる。
俺が長兄、関羽が次兄、張飛が弟。
天地神明に誓った三人の姿がこの物語の幕開けだった。
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