↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世に天才大魔導師と呼ばれた俺は苦労というものをしてみたい  作者: 藍染 迅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/27

第19話 サモンの要求――魔剣「兜割り」

「条件とは如何なるものか?」

「警戒するな。難しい話じゃない」


 新たな条件を出されると知り、ダーミアは思わず身構えた。相手は海千山千の冒険者だ。

 こちらが子どもだと見て、無理難題を吹っ掛けられるのではないか。


 ダーミアたちの緊張を見て取って、サモンは苦笑した。大げさな言い方をしてしまった自分を恥じて、頭をかく。


「報酬の話なんだがな? 金の代わりに魔剣をもらえないか?」

「む? 魔剣を所望と?」

「ああ。魔核の取り分も要らん。あんな物はいつでも取れるんでな」


 サモンの言葉に嘘はない。リビングストンのダンジョンは世間的には低級ダンジョンと呼ばれている。

 五階層までしか存在せず、出現する魔獣の強度も低い。サモンは実際に何度も最下層まで攻略していたのだ。


 魔核が欲しくなれば一人で潜ればよいことだった。


 それよりも――。


「お前が打つ魔剣が気に入った。というより魔剣などめったなことで手に入らんからな」


 サモンは魔剣士のスキルを持っている。しかし、魔剣を手に入れたことがない。


 魔剣は高すぎるのだ。ごくまれにダンジョンや古代遺跡で発見され、オークションにかけられることがある。

 そうでなければ、一流の鍛冶師か魔道具師が打ったものを入手するしかない。


「でもさあ、魔剣一本をただでよこせって図々しくない?」

「報酬として高すぎるか?」

「いや、待て」


 リノーとサモンが交渉のような会話を始めるのを、ダーミアは押しとどめた。腕を組んで考え始める。

 細めたその目がサモンの腰に留まった。


「それなる剣を……」

「うん? これか?」


 自らの腰に目を落としたサモンは、するりと剣を抜き、柄を先にしてダーミアに差し出した。


「人に自慢できるほどの業物ではない――と言ったら鍛冶師に申し訳ないが」


 やや卑下するような口ぶりで渡した剣は、武骨な両手剣だった。サモンの好みを反映してか、厚みの剣身はずしりと持ち重りのする武骨な造りだった。

 サモンの愛剣だが、もちろんこれは魔剣ではない。


「これを自在に振れるのであるな?」

「ああ。この剣ならば片手でも自由に使える」

「それは丁度よし」


 ダーミアはそう言うと、サモンに剣を返した。


「どういう意味だ?」

「しばし待て」


 ダーミアの言葉を図りかねたサモンは、剣を鞘に戻しながら首をひねった。

 質問に答えを与えることなく、ダーミアは奥の工房へと消えた。


「何をするつもりだ、あいつは?」

「ごめんなさい、気の利かない奴で。何か思いついたらしいわね」


 リノーはダーミアのこういう振る舞いに慣れている。また何か妙なことを始めるのだろうと、高みの見物を決め込むつもりになっていた。

 今回ダーミアに振り回されるのは、どうやらリノーではなくサモンらしい。


「待たせたなり」

「いや、大して待っちゃいないが――」


 サモンの両目はダーミアの手に引き寄せられた。正確に言えばダーミアがその両手に持つものに。


「それは?」

「打ちあがったばかりの魔剣なり」

「見ても……いいのか?」


 そう言いながら、サモンの両手は吸い寄せられるように魔剣へと伸びた。

 ダーミアは黙ってその手に魔剣をつかませる。


「さっきの剣より重いな。これはこれで――」


 独り言のように呟きながら、サモンはゆっくりと剣を動かした。


「属性は何だ?」

「土なり。堅(・)牢(・)、鋭(・)利(・)、重(・)撃(・)。それに専心した魔剣である」

「何だそりゃ? はは、泥臭いな」


 悪口を言うようでいて、サモンの頬は緩んでいた。いっそ楽しそうに魔剣とともに踊る。


「魔気を通すぜ? 《叩き切れ》!」


 ぶんと剣の柄から両手に振動が伝わった。魔剣が命を得たように手の内でうなる。


「そうか――そう来るか。切れるんだな? 折れねぇんだな?」


 サモンは唇を釣り上げて笑った。魔剣は風を切り、虚空を叩く。

 その度に笛のように鳴き、地鳴りのように響いた。


「ははは。何だこいつは? 最高じゃねぇか!」

「そこまで! それくらいにしておくがよし」


 我を忘れかけたサモンに、ダーミアは鋭く声をかけた。


「おおっ? 悪い。ちっとばかり熱くなった」


 サモンは動きを止め、剣身を持ち上げてじっくり眺めた。


「こいつもまた不細工だなぁ」

「口の割にうれしそうね」

「放っといてくれ。俺は不細工な剣が好きなんだよ」


 魔剣を返そうとするサモンを、ダーミアは手を上げて押しとどめた。持っていた鞘をサモンに突きつける。


「返却無用。ダンジョン攻略の武器として用いるべし」

「こいつを使わせてくれるのか?」

「十分な成果を挙げたる暁には報酬として遣わさん」

「本当か?」


 ダーミアから鞘を受け取りながら、サモンは改めて魔剣を眺めた。人工魔鉄の地金が黒々と光る。


「銘は――こいつに名前はあるのか?」

「『兜割り』。オオカブトの魔核より打ち出したる土属性の魔剣なり」

「くくっ。名前までダサいぜ。気に入った!」


 ダーミアが兜割りに付与した性質は、堅牢、鋭利、重撃。外に魔導を放つものではなく、剣そのものを強化する。

 サモンのような力に頼る剣士に似合う武骨な武器だった。


「リノーに持たせるべしと打ち上げたが、今の体力では持て余すなり」

「それで俺に使わせてくれるというわけか。ありがたいぜ」

「報酬はこれで決まりとす」


 応とうなずき、サモンは兜割りを鞘に納めた。


「じゃあ話が決まったところで、ダンジョンにはいつ潜る? ウチは後衛ってことでいいかしら」

「いや、必要ない。俺一人で十分だ」

「えっ?」


 そもそもサモンは一人でダンジョン攻略を繰り返してきた。今回はさらに兜割りという武器を得ている。


「実力が見合わないパーティーってのはかえって危ねぇんだ。悪く思わないでくれ」

「何よ? ウチだって戦えるって――!」

「リノー」


 むきになろうとするリノーに、ダーミアは静かに声をかけた。


「今はまだその時にあらず。体を鍛え、技を磨くべき時節なり」

「そう……かもね」


 リノーは若い。体の成長、技能の成熟はこれからだ。

 自分より幼いダーミアに諭されれば、リノーにもそれは理解できることだった。


「理屈はわかるけど、やっぱり悔しいわね」

「若者とは悔しさをばねにして成長する生き物なり」

「何よ。自分だって子どものくせに」


 悔し紛れに言い返せば、「まっこと然り」とダーミアは頭をかいた。

 

「話は決まったってことでいいか? それなら明日からダンジョンに潜りたい」

「結構。攻略にかかる期間は如何ほどと見る?」

「そうだな。余裕を見て二日ってところか」


 リビングストンのダンジョンは五階層までしかない。帰り道を考慮しても一泊二日で十分攻略できると、サモンは言った。


「ところで、魔核を集めるのは第三層以降にさせてもらうぜ? 一層、二層の雑魚を相手にしたら時間の無駄だからな」

「異存なし。第五層まで攻略してくれるならば、浅層階は流してよし」

「承知した。じゃあ、三日後に会おう」


 手にした魔剣兜割りを抱くようにして、サモンは店を出て行った。


「やれやれ。魔剣好きの冒険者に当たったのはついていたのかしら……」

「結果を見るまではわからぬことなり」

「それにしてもせっかく打った魔剣をあげちゃっていいの?」


 売れば大金が得られる。それだけの価値がある一振りだ。


「サモンが帰らねば大損とならん。されど、成果を挙げて戻るならば――」

「ああ。いい宣伝になるわね」

「そのことなり。サモンの行くところ兜割りあり」


 冒険者は武器にこだわる。自分の命を預けるのだから当然のことだ。

 剣士ならば誰もがあこがれる魔剣を、仲間の一人が手に入れた。それを知ったら、リビングストンの冒険者はじっとしていられないだろう。


「俺も、わたしも魔剣が欲しいって言いだすでしょうね」


 リノーは自らの魔剣スライム斬りをポンと叩いた。

 冒険者風情の稼ぎで手が届く魔剣など、出直し屋(この店)にしか置いていない。


「百聞は一見に如かず。百の悪評も一つの事実の前には沈黙す」

「そういうことね。風評被害の対策ができると考えたら、魔剣一本くらい安いものか?」

「まことそれなり」


 そう言うと、ダーミアは工房に向かった。


「スライム斬りをもう一振り打つべし。技量を磨く助けにならん」

「懐事情の助けにもなるわね」


 ダーミアの背中に笑い声を投げ、リノーは中庭へ向かった。家伝の大剣を自在に使うための鍛錬だ。

 

 その日は、二人それぞれに技を磨いて汗を流すのだった。


 ◇


「よう。無事戻ったぜ」

「うむ。大きな怪我もなきようにて祝着なり」

「サモンさん、お疲れー。そいつが魔核?」


 サモンの左手にはパンパンに膨れた布袋があった。


「おお。三層から下で拾った魔核だ。検分してくれ」

「ふむ。……わからんな。ギルドで品定めしてもらうべし」


 ダーミアには鑑定のスキルはない。それはリノーについても同じこと。

 何の魔獣から出た魔核かなど、見ただけでは判別できなかった。


 ただし、魔核には色の違いがあることだけは二人にもわかった。

 同じ黒に見えて、黒の深みが増した個体がある。


「色が濃くなるほど、魔獣の格が高い?」

「その通りだ。そして、その一回りでかい魔核がダンジョン・マスターのものだ」

「これがそうか」


 リビングストン・ダンジョンの主は「雷鬼(サンダー・オーガ)」という人型魔獣だった。巨体と怪力に加えて、体内に蓄えた雷気を体にまとうことができる。


「今回は兜割りのおかげで楽に戦えたぜ。なに、少々雷気を食らったがな。鉄の剣を使うより大分ましだった」


 魔鉄は雷気をほとんど通さない。

 兜割りの剣身を雷鬼につかまれる瞬間があったが、ビンタを食らった程度の衝撃しか両手に受けなかった。


「雷属性の魔核は貴重なものなり」

「よく知ってるな。雷気を帯びる魔獣ってのが少ねぇからな」

「これだけの魔核が集まれば、当分魔剣製作に苦労せぬ。依頼は達成と認め、兜割りを正式に譲るなり」


 サモンが仕事をやり遂げてくれたおかげでダーミアは魔剣作りを続けられる。感謝の気持ちを言葉に込めた。


「それなんだがよ。ちょっと状況が変わった」

「えっ? どういうことよ?」


 声を落としたサモンの様子に、リノーが警戒の声を上げた。難癖をつけて追加報酬をせびられることを警戒したのだ。


「リビングストンのダンジョンは五階層まで。そう思っていたんだが……」

「ぬ? 違ったのか?」

「続きがあった」

「何と?」


 さすがのダーミアもこれには意表を突かれた。


「ダーミア、どういうこと?」


 話の展開についていけないリノーは、ダーミアに問いかけた。


「隠し扉が開いた――そういうことか?」

「その通りだ」


 隠し扉――どういう理屈で生まれるのかはわからない。ダンジョンにはまれに秘密の部屋や通路が隠されていることがある。


「扉の先は?」

「第六階層への階段だ」

「それが『続き』なるか」


 本当なら未踏破の階層を発見したことになる。大発見だった。

 ダーミアの顔にも興奮の色が浮かんだが、すぐに腕を組んで考え込む。


「これまで開かなかった扉が開いた。何かの条件を満たしたか?」

「これまでも俺は第五層まで攻略していたからな。隠し扉が開く条件ってのは、いくつかの条件が組み合わさったものだろうぜ」

「面白きことなり。して、第六層の様子は如何に?」


 新たな興味に目を輝かせるダーミアに、サモンは顔をしかめて見せた。


「それがな。尻尾を巻いて逃げてきた」

「何と?」


 予想外の答えに、ダーミアは言葉に詰まった。


「こいつがまったく通用しなかったのよ」


 サモンは兜割りを叩いて渋面を作った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。