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前世に天才大魔導師と呼ばれた俺は苦労というものをしてみたい  作者: 藍染 迅


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第17話 ダンジョン攻略――魔導盾ファイアシールド

「強い魔核を得るために強い魔獣を倒したいですって?」

「然り。ダンジョンへの行き方を知りたし」


 町周辺の草原や森では強い魔獣は見つからない。スライムのような最弱魔獣か、動物系、虫系など特徴に乏しい魔獣しか分布していなかった。

 強い魔獣は魔気の濃いダンジョンに住んでいる。


「行きたいというなら止めませんが……危険ですよ?」

「元より承知。我ら冒険者を志す者なり」


 八歳のダーミアが言っても一向に締まらないが、危険を覚悟していることは彼(・)女(・)にも理解できた。

 冒険者ギルドの受付嬢はため息をつき、カウンターの下から地図を引っ張り出した。


 それを示して、ダーミアにダンジョンまでの道順を説明した。


「かたじけなし。魔核が余れば売りに参ろう」


 悠揚たる態度でダーミアは踵を返した。その自信がどこから来るのか釈然としないながら、受付嬢は無事を祈って見送るのだった。


「本当にキミってマイペースね」

「人間が自分のペースで動くのは当たり前であろう」


 あきれ顔のリノーにダーミアは当然だと返す。

 ダーミアにしてみれば他人のペースに合わせるつもりなど、はじめからない。リノーもそれがわかってきた。


 胸を張って歩くダーミアは八歳としても小柄だ。往来を行き来する人々の目にはほとんど映らない。

 その人たちがちらちらと視線を向けて来るのは、隣を歩くリノーの方へだった。


「うーん。キミに渡されたコイツなんだけど……。ちょっと目立ちすぎじゃないかな?」


 火炎魔剣の火力不足を補う新しい道具としてダーミアが作り出したのは、武器ではなく盾だった。

 その見た目が奇抜であるために、黙っていても人目を引く。


「系統としてはラウンド・シールドだよね?」


 肘から先を覆うような円形の盾だ。ただそれだけなら珍しくないのだが……。


「でも、この形のものは初めて見たわ」


 リノーが背負っているそれには盾の表面にスパイクが植えられていた。

 通常なら「スパイク・シールド」と呼ばれる盾だ。


「盾に植えるスパイクって、普通は一本じゃないのかなぁ」


 リノーが見たことのあるスパイク・シールドは、円形盾の中央に一本の大きな杭がそびえ立つものだった。

 それに対して、リノーの背中にある盾には何十本もの杭が植えられている。


「徹夜して四十九本植えたなり」

「よく頑張ったわねぇ」


 淡々と告げるダーミア。いささか辟易した体のリノーはしらけた表情でそれをいなした。

 皮肉のつもりで言ったのだが、ダーミアには伝わらない。


 リノーが気にしているのは奇抜な見かけのことではない。それも気にはなるが、それより自分がこの盾を使いこなせるかどうかだった。

 これまでリノーは盾を持って戦ったことがない。


「説明した通り、使い方は単純なり」


 魔獣の攻撃をとにかく盾で受ける。敵が武器を振るってこようと、手足で攻撃してこようとやる事は同じだ。

 盾で受ける。それが防御であり、攻撃の起点となる。


 敵の攻撃を止めたら、盾を押し立てて前に出る。そうすれば盾がそのまま武器になる。

 そのためのスパイクだ。

 

 実に武骨な防具だった。


「理屈はわかるけどさぁ。こんなに単純な作戦でいいのかなぁ」

「単純こそ尊し。複雑なことをすれば、たやすく破綻するなり」


 リノーはまだまだダンジョン攻略の初心者だ。複雑な攻防などできない。

 それを考えれば、「受けて押す」というシンプルな作戦は理にかなっていた。


「今は仕方ないか。うー、しっかり修行して、いずれはまともな武器を使える剣士になるぞ!」

「向上心は尊きかな」


 孫を見る祖父のような温かい目で、ダーミアはリノーの意気込みを眺めていた。


 ◇


 一時間半歩いて二人は迷宮ダンジョンにやってきた。

 ここは大昔岩山に掘り抜かれた牢獄だった。後年、その廃墟に魔気が溜まってダンジョンが発生した場所だ。


 岩肌に黒々とした闇が口を開けていた。


「扉もなく、何だか無防備な入口ね。中にいる魔獣が地上に出てきたりしないのかな?」

「そういうこともあるらしい。が、特に考える必要もなし」


 一階にいる魔獣は地上を徘徊している魔獣と強さに差がない。多少漏れ出てくる魔獣がいても、地上で発生する魔獣よりもはるかに少なかった。

 ダンジョンでは魔獣は一つの階に留まる。階と階の間に「魔気の濃さ」という大きな環境差があるためだ。


 このダンジョンでは階を下るほどに、充満する魔気が濃くなる。

 魔気が濃い環境ではより強い魔獣が生まれるため、深い階へ進むほど強い魔獣と出会うことになった。


「一階の魔獣は外と変わらないのね」

「さもありなん。一階の空気は外気と変わりなし」


 ダーミアは手首のブレスレットを見ながら、そう言った。薄いピンクに染まった糸で編まれたそれは、自らの手で作り上げたものだ。

 強い魔気に当たるほど、ブレスレットの色は濃くなる。


「魔(・)染(・)糸(・)の色は変わってない?」

「ダンジョンの外と同じ色なり」


 ダーミアは、魔気に反応して花色の濃さが変わる魔示彩(まじさい)の花を絞って、染料を作った。それで染めた糸をブレスレッドに仕立てたのだ。


「前方に魔気の反応あり。警戒すべし」

「任せて!」


 魔針盤を見ていたダーミアが警告を発した。遭遇戦に備え、リノーは腰に帯びた魔剣に手を伸ばす。


 この魔剣にも手が加えてある。そのままでは魔剣が発する魔気に魔針盤が反応してしまうので、その鞘に魔気を通さない鉛の薄板を張りつけてある。

 リノーが手にする魔導盾も裏側を鉛で覆ってあった。


「魔気の反応は小さし」

「了解。魔導盾の試運転に丁度いいわ」


 リノーはぐっと唇を引き締めた。油断なく盾を前面に構えて、ゆっくり進む。

 相手が弱いからと言ってなめてかかったりはしない。弱くても相手は魔獣。死は簡単に訪れるのだ。


 やがて岩陰から姿を現したのは、見慣れたスライムだった。


「スライムか。盾が必要な相手じゃないけど……」

「強引であるが、盾で叩き潰すなり」


 火炎魔剣を使えば一撃で倒せる。しかし、それでは魔導盾の試運転ができないので、ここはあえて魔剣を温存する。


 ゆっくりスライムに近づいたリノーは、飛びかかろうと体を縮めたスライムを上から魔導盾で押しつぶした。

 四十九本のスパイクがスライムの体に穴を開ける。それだけではスライムにダメージは入らない。


「これならどうよ?」


 リノーは腰から短い金属棒を引き抜き、魔導盾の縁に叩きつけた。


 ぎんっ!


 金属音を発して火花が飛び、一瞬遅れて魔導盾のスパイクから青い炎が吹き上がった。


 ぼぼっ――。ドンッ!


 地面に押しつけられた魔導盾の周りから勢いよく炎が噴き出した。盾をどかせば、スライムの体はそこになく、魔核だけが残されていた。


「おー。思ったより火の勢いが強いね」

「スライムに引火して爆轟したなり。足回りを強化しておいて正解であった」


 リノーは燃えにくい革製の長靴で足元を守っていた。長靴は歩きにくい岩場などで足首を守ってもくれる。冒険に適した足回りだ。ダーミアもおそろいの長靴をはいていた。


 ダーミアはリノーが地面から持ち上げた魔導盾を点検した。幸いどこにも異常がない。

 スライム相手の試運転は上々の首尾だった。


「まずは設計通り火炎魔導を発動したなり。威力についてはもう少し強い魔獣を相手に検証すべし」


 スライムであれば「スライム斬り」で倒せる。もっと強い敵を相手にしたときの火力不足を補うことができるか?

 魔導盾の真価はそこにある。


 ダーミアの設計思想は「数の暴力」だった。火炎魔剣一本では火力不足に陥る。ならば本数を増やしてやればいい。

 そのために四十九本ものスパイクを盾の表面に植えたのだった。


 ダーミアの計算では、ダンジョン三階層目まではこの魔導スパイクシールドが通用するはずだ。


「む。次の魔獣が現れた」

「今度は人型ね……って、トカゲ鬼か」


 二足歩行の人型魔獣だが、トカゲ鬼には知性がない。二本足で歩くトカゲと言った方が早い。

 身長は二メートル前後で力も強いが、動きはさほど早くない。


 魔導盾と火炎魔剣を装備したリノーなら、十分相手ができる。ダーミアはそう見積もっていた。


「相手は素手だ。盾で抑えて剣で斬る。人型である分戦いやすいなり」


 相手が人型であれば対人戦を想定した武術が通用する。四足動物や虫の形をした魔獣は、戦いなれていないリノーのような初心者には扱いにくいものだ。

 しかもトカゲ鬼は素手で向かってくる。両手の爪にさえ気を付ければ、不意を突かれる心配は薄かった。

 

 自分より大きな敵にひるむことなく、リノーは落ち着いてトカゲ鬼を相手にした。上からのしかかろうとするトカゲ鬼を魔導盾で押し返すと、敵の両腕が炎に包まれた。


「ぐぎゃっ!」


 灰色の舌を見せて悲鳴を上げるトカゲ鬼を、リノーは斜めに斬り下げた。肩から胸に走った傷口が青い炎を噴き上げる。

 たまらずよろけるトカゲ鬼を盾で殴りつけながら、リノーは背中に回り込んだ。


 バスッ、バスッ!


 トカゲ鬼の背中に大きな「×」が描かれ、炎に包まれた。


「ぎゃっ!」


 のけ反るトカゲ鬼にリノーは魔導盾を叩きつける。腰の上に突き刺さった数十本のスパイクは、トカゲ鬼の内臓にまで達して高熱の炎を発した。

 ついにトカゲ鬼は倒れ、地面で動きを止めた。


 やがて形が崩れ、黒い霧となって消えて行く。後には黒い魔核が残された。


「ふう。スライムに比べると手間がかかるわね」

「魔獣が持つ属性の差なり。トカゲ鬼は水属性の魔気を帯びるゆえ、燃えにくし」

「そういうことね。でも、魔導盾のおかげで危なげなく戦えたわ」


 一対一であれば第一階層の魔獣には余裕を持って勝てる。ダーミアはリノーの戦力をそう分析した。

 魔獣は連携することが少ないので、この先に進んでも大丈夫であろうと。


 偶然挟み撃ちに会うことがないように警戒するのはダーミアの役割だった。


「下り口を見つけたら二階層に進むべし。二等級の魔核を狙うなり」

「了解。問題ないわ」


 リノーは魔導盾の扱いに慣れ、自信をつけていた。

 第二層の魔獣はここより強さを増すだろうが、まだまだ自分は戦える。


「強い魔核を手に入れれば強い武器、防具を作れるんでしょ? だったら頑張るわよ」


 リノーは白い歯を見せて笑った。

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