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こんな所で……【ざまぁ回】

【マジカルアドベンチャー現社長・御剣慎也(みつるぎしんや)視点】


 ジリリリリリリリリリリリリリンッ! プルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!


「くそっ! 黙れ! 鳴りやめぇぇっ!!」


 社長室に備え付けられた何本もの電話が、ひっきりなしに不協和音を奏で続ける。銀行からの催促、マスコミの取材、役員からの怒号――受話器を叩き落としても、次のコールが途切れることなく室内を埋め尽くしていた。


「社長――取引企業より派遣業務の打ち切りを申し渡されました」


「社長――こちらは魔物素材関連の取引を中止だと……」


「社長――全国的に従業員の退職が続いています。そして私も……」


『退職届』と書かれた封筒が大量に段ボールに入れられた状態でテーブルに置かれ……

『辞表』と書かれた封筒が差し出される。


「なぜだ? それなりの報酬は……」


「社長、お金じゃないんです。マジアド社に勤めているというだけで息子はいじめに……」


 秘書は一礼して社長室を退室していく。


「クソッ、なんでこうなった? あの動画配信からおかしくなった」


 岩本源……元々は、俺の会社『マジカルアドベンチャー』で派遣先の会社に出向する派遣社員だった男だ。先代社長の子飼いで冴えない男で、実力も大したことのない……それこそ脅威になるような人物ではなかった。スキルの特殊性から珍しい部類で、寝れば傷を残さない便利な駒くらいの感覚だった。


 それが動画配信から流れてくるスキルの使い方を工夫して、有用なものにしていた。そして、神業のような品々を自らの手で生み出し……それを惜しげもなく公開している。秘匿して、その筋に売ればどれだけの利益になったことか――始めはバカなヤツだと高をくくっていた。しかし、ネット上ではヤツらを応援する声が多く、友好的に受け止められている。


 脅威を感じたのは東郷白哉が殺人未遂の容疑者になった時だ。本人はまだ奈落に岩本を殺害しに、先代の孫娘を連れて降りたきり……行方不明になっている。

 それを引き金にした株価の下落に、大株主でもある世界的大会社アメリカのアドバンスカンパニーのCEO、ジョニー・ラインハート氏による資本の引き揚げだ。


 それにマスコミも騒ぎ出し、警察にも疑われる。俺の会社に何度も家宅捜索が入る。それをネット上で騒がれ、またマスコミや警察などが動く。何という悪循環だ。

 そして資金も厳しくなり、銀行にも断られ……最近では上場廃止まで話が出ている。今年の決算では赤字確実で、株主総会では役員全員が吊し上げだろう。


 それならと思い――特別渉外課を奈落に派遣して、岩本を含む『アビス・シグナル』の抹殺を依頼したが……すべて失敗に終わっただけでなく、配信で特別渉外課の存在を全世界に向けて明かされてしまった。

 そして何より……あの黒猫(クロエ)だ。


 病気の妹を盾にして、完全に我が社の「忠実な暗殺者」として手中に収めていたはずの駒まで奪われた。

 苦労してダンジョンカビを培養し、病を装うことに成功したのに……


「社長! 大変です! 本社の周りにリスナーどもが押し寄せていて、車が出せません!」


「チッ、ノエルの方はどうなった!? 病院のシステムを無効化されたなら、直接人員を送り込んで力ずくで連れ戻せ!」


「それが……重課金貴族と名乗る大富豪のプライベートヘリで、厳重なセキュリティの医療施設に移送されてしまいました! 刺客の車も途中で警察に通報され、抑え込まれました!」


「な……なんだと!?」


 バァン! と机を叩いて立ち上がる。これ以上の失態は本格的にヤバい。


 なぜだ。なぜたかが一人の元派遣社員と、ネットの有象無象のリスナーごときに、この私がここまで追い詰められなければならない!?


『【緊急追撃】マジカルアドベンチャー社の違法労働および病原体悪用疑惑について、冒険者ギルド総本部が立ち入り調査を開始を表明』


 パソコンの画面に躍り出たプロフェッサー主導の告発ニュースを見つめながら、俺の手はガタガタと震え始めていた。


「クソッ……クソがぁぁぁっ! 私はマジカルアドベンチャーの社長だぞ! こんな、こんなバカなことで終わってたまるかぁぁぁっ!!」


 御剣の絶叫も虚しく、彼の王国が音を立てて崩れ去る瞬間は、すぐそこまで迫っていた――。


(ドン、ドン、ドンッ!!)


 重々しいノックの音が社長室に響き渡る。


「ひっ……!? な、なんだ、誰だ!?」


 返事も待たずに扉が叩き開けられた。

 入ってきたのは、警察の捜査官たちと、冒険者ギルドの重鎮――そして、どこかで見覚えのある人物だった。


「御剣慎也だな。冒険者法違反、拉致監禁・脅迫、ならびに危険病原体の違法所持・使用の容疑で逮捕状が出ている」


「な……警察だと!? 待て、俺はマジカルアドベンチャーの社長だぞ! 弁護士を、弁護士を呼べ!」


「無駄だ。大株主のアドバンスカンパニー、および提携銀行すべてから刑事告発が届いている。お前の会社はもう終わりだよ」


「ひ、ひぃぃぃっ……!? 誰か――あの動画配信を止めてくれー!!」


 手錠をかけられ、惨めな悲鳴を上げながら連行されていく御剣。

 彼が築いた悪の王国は、100万人のリスナーの団結と一人のドワーフ職人の手によって、完全に崩壊したのだった。

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