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アイドル達の活躍

 魔樹【アビス・メープル】の場所は分かっている。メープルを定期的に取るために討伐はしないのだ。


「がっははは、メープル製造機として【アビス・メープル】を利用している俺のこの頭脳プレイを……」


『ブブー、酒が飲みたいだけじゃねーかwww』

『完全に飲兵衛の理論やwww』

『ドワーフwww』


 まぁ、俺が取れば早いんだけど……ここはリスナーの前だから新メンバーのクロエ嬢ちゃんに任せる。俺は『ねる』でアビス・メープルを寝かせるだけで取れる……とは言わない。


「ふんっ! リスナーどもは分かってねぇなぁ! 職人たるもの、素材の持続可能な供給ルートを確保するのは常識だ!」


 画面に向かって堂々と開き直ると、俺たちは巨大な洞窟の開けたエリアへと到着した。


 そこにあったのは、巨大な幹に顔のような模様が浮かび上がり、不気味に枝を蠢かせている真っ黒な大樹――魔樹【アビス・メープル】だ。


「さあ、着いたぞ。クロエ嬢ちゃん、あいつの幹の根元にある『蜜孔』から、濁らせずに樹液を採取するのがお前の初任務だ!」


「……ふぅ……分かったわ」


 クロエ嬢ちゃんは小さく深呼吸をすると、すっと瞳の光を変えた。


 暗殺者『黒猫』のスイッチが入った瞬間だ。

 彼女の足音が、気配が、空気の揺らぎすらも完全に消え去る。


(ほう……大したもんだな。完全に気配を殺してやがる)


 暴れ狂う枝の隙間を、まるで影が滑るように、音もなくスルリと抜けていくクロエ嬢ちゃん。

 魔樹【アビス・メープル】は、自分が接近されていることすら気づいていない。


『うわっ、黒猫ちゃんマジで消えた!?』

『すっご……これが暗殺者の身のこなし……!』

『完全に気配ゼロやんけ!』

『プロフェッサー「驚いたわ。魔導センサーの反応すら一瞬見失うレベルの隠密スキルね」』


 枝の隙間を軽やかに跳び移り、一瞬で幹の根元へと辿り着いたクロエ嬢ちゃん。

 彼女は腰の小瓶を取り出すと、魔樹を刺激しないよう、優しく、そして的確に蜜孔へ差し込んだ。


 とろり――と、黄金色に輝く極上のメープル樹液が小瓶へ満たされていく。


「……とれた……! ゲンさん、取れたわよ!」


 小瓶を掲げて振り返るクロエ嬢ちゃんの笑顔に、配信画面のコメント欄が『うおおおお!』『有能すぎる!』『黒猫ちゃん大勝利!』と大爆発するのだった。


「よし! よくやった。最初なのに……優秀だな」


「フフフッ、ありがとう。でもリスナーさんは褒めてくれたけど、3人とも私の行動が見えていたでしょ? そもそも、私が本気で暗殺をしようとした時もすぐに感知していたもの……冒険者アイドルと侮れないわね」


「ガハハ! 暗殺者の身のこなしを間近で見られるなんて、俺たちも良い目の保養になったぜ!」


 俺が豪快に笑い飛ばすと、凛嬢ちゃんがちょっと誇らしげに胸を張った。


「ふふん、私だって伊達に奈落で修行してないよ! クロエちゃんの足音のクセ、ちゃんと耳で追ってたんだから!」


「ええ、私のスキル『光の支配者』は少しズルいですわね。でも、本当に無駄のない美しい動きでした……見とれてしまいましたわ」


 アリス嬢ちゃんも笑顔で拍手を送る。自分たちの実力をサラリと示しつつも、クロエへのリスペクトを忘れない二人を見て、クロエ嬢ちゃんは照れくさそうに耳を赤くした。


「みんな……すごいんだね。私、追いつけるように頑張らなきゃ」


『おいおい、アビス・シグナル層が厚すぎだろwww』

『黒猫ちゃんの超隠密を見切るアイドルたち何者だよww』

『さすが奈落組、全員スペックがバグってる』

『重課金貴族「【赤スパチャ 1,000,000円】見事な連携だ。最高の素材採取だったぞ」』


「よし! 1つ目の素材【アビス・メープル】は確保完了だ!」


 俺はクロエから受け取った小瓶を大事に懐に仕舞うと、背中の大槌を力強く叩いた。


「次は……幻の果実【月光果】だ! 運と直感が試される素材探しだが……」


「――ゲンさん! 実はちょっと試したいんだよね」


「おじさま、私もです」


 ◆◆◆◆


 幻の果実【月光果】……月が輝く時にだけ採れる果実で、同じ場所では採れない不思議な果実。

 その場所を探るだけでも、この広い奈落では至難の業だ。それを……


「クロエちゃんのためにも……ノエルちゃんのためにも……見つけてみせます。お願い【光の支配者】……月光果を探し当てて」


 おお、そうか。光の支配者なら広域探索ができる。それこそレーダーなんかの原理だろうね。


「見つけた……でも……」


「ありがとう、アリスちゃん。今度は私の番だよ。案内して……」


 2人で手を取り合い月光果のある所まで来たが……既に萎んでいる。


「ああ、そんな〜。これじゃあ、ノエルは……」


「大丈夫だよ。私に任せて。スキル『テーブル・表』……よし、リストアップ……」


 凛嬢ちゃんが月光果に触れてスキルを発動すると……萎んでいた果実がみるみるうちに瑞々しい果実へと変わる。いや、それ以上の状態になっている。


「嬢ちゃん? これは……」


「へへ〜ん。アリスちゃんやクロエちゃんにだけ活躍を譲れないよ。私の『テーブル・表』のリストアップで、瑞々しい果実を選んだんだよ」


 おお、凛嬢ちゃんの『表』の効果だったのか……

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