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白灰病

「じゃあ、ノエル嬢ちゃんを治すための素材を取りに行こう」


「そういえばノエルちゃんの病気って何か分かったの?」


「私も分かりませんでした……クロエちゃん。病名とかも分からないのですか?」


「――はい。色々な病院で診てもらいましたが……恐らくはダンジョンの何かではとのことでした」


 女の子が3人にもなるとワイワイ、キャーキャーすごいな。


「ああ、アレは俺が白灰病と呼んでいる。ダンジョンのカビが原因だ。恐らくマジカルアドベンチャーはそれを使って病気を装い、クロエ嬢ちゃんを言うことを聞かせる道具にノエル嬢ちゃんをしたんだ」


「な、なんですって……!? じゃあ、ノエルの病気は……事故じゃなくて、御剣たちが仕組んだものだったの……!?」


 衝撃の事実に、クロエが青ざめて拳を固く握りしめる。


「それにしてもゲンさんはよく知っていたね……流石だよ!」


「ああ、それは俺のスキル『ねる』のせいだな。ダンジョンで寝ているとカビてな……ノエル嬢ちゃんと同じ症状になるんだ……がっははは」


「笑えないよ……」


「もう、おじさまったら……」


「ターゲットとして知っていたけど……ある意味、凄い人ね」


 なぜか3人が呆れたような顔をしている。


「まぁ、それで身体の力が入らなくなって肌から白い粉が出てな……俺も危うく死にそうになったもんだ。寝ているとカビが着いていて気がついたんだ……」


「それで……何で治るの?」


 凛嬢ちゃんは俺の苦労話には興味ありませんと言わんばかりに話を促してくる。まったく、壮大なストーリーがあるのに……。


「おじさま、私も気になります」


「お願い! ノエルのためにも……」


 女の子たちは必死だ……そして、


『はよ!』

『焦らすなおっさん』

『ドワーフwww』

『おっさんキモいぞwww』


 リスナーも完全に女の子たちの味方だ……だからドワーフは悪口なのか?


「まぁ、いいや。ノエル嬢ちゃんを治すのは『酒』だ!」


『はい! 解散!』

『乙!』

『期待して損した!』

『ドワーフwww』

『プロフェッサー「イヤ、待て。確かカビにアルコールは有効だぞ! でもダンジョン産のカビか……研究してみたいものだ」』

『おお、流石はプロフェッサーだwww』


「おい待てお前ら! 勝手に解散するな! 冗談じゃねぇ、本当の『神酒』の話だ! 俺がそう呼んでるだけだけどな……」


 画面に向かって叫ぶ俺に、凛嬢ちゃんがジト目で詰め寄ってくる。


「本当なの、ゲンさん? ノエルちゃんはお酒が飲めるような年齢じゃないよ?」


「そうですよ。それに、ただのお酒で治るなら病院でも治せているはずですわ」


 不安そうなクロエ嬢ちゃんも俺の顔を覗き込んでくる。俺は腕を組んでフンッと鼻を鳴らした。


「ただの酒じゃねぇよ。奈落の深層にしか生息しない魔樹の樹液【メープル】の蜜と、激レアな【月光果】を、俺の『ねる』スキルで超高速発酵させた『アビス・ミード』だ!」


「「「アビス・ミード……!?」」」


「おう! カビの毒性を完全に分解・不活性化させる成分が凝縮された、奈落の秘伝酒だ。飲んでも美味いがカビにかけても使えるはずだ」


 俺の説明に、配信画面のコメント欄が再び激しく流れる。


『プロフェッサー「【アビス・ミード】……! それは是非地上へ持ち帰ってもらいたい」』

『プロフェッサーの物欲全開!!』

『おっさん疑ってごめんwww』

『メープルと月光果か!』


「そういうことだ! プロフェッサー嬢ちゃん、察しがいいな! ただ、両方とも運に左右される」


 俺は不敵に笑うと、背中の金槌を握り直した。


「運に左右されるって、どういうことなの? ゲンさん」


 凛嬢ちゃんが首をかしげて尋ねてくる。


「魔樹【アビス・メープル】は、怒らせると暴れる樹木型の魔物だ。だが、幹を傷つけずに優しく刺激してやると、ごく稀に甘い最高のメープルを垂らす。強引に倒すと樹液が濁って台無しになっちまうんだな」


「なるほど……力任せに倒すんじゃなくて、巧みな身こなしで樹液だけを回収しないといけないのですね」


 アリス嬢ちゃんが感心したように頷く。


「そうだ。そして【月光果】は、その存在自体が幻でなかなか見つからない」


 二つの素材の条件を聞いた瞬間、クロエ嬢ちゃんが一歩前に出た。


「――それなら、私に任せて」


 自分の胸に手を当て、力強い瞳で俺たちを見つめるクロエ嬢ちゃん。


「気配を消して樹木に忍び寄るのも……暗殺者の私の専門分野よ! ノエルのためなら、完璧にこなしてみせるわ!」


「ガハハ! 頼もしいじゃないか! さっそく新メンバーの大活躍だな!」


 俺が豪快に肩を叩くと、クロエ嬢ちゃんは照れくさそうに、でも誇らしげにニッコリと笑った。


 コメント欄も一気に盛り上がる。


『黒猫ちゃんの特技がドンピシャすぎるwww』

『完全にクロエちゃんのためのイベントで草』

『黒猫ちゃんの初仕事キターーー!!』

『重課金貴族「【赤スパチャ 500,000円】素材ハントの成功と無事の帰還を祈る」』


「よし! 凛嬢ちゃん! アリス嬢ちゃん! クロエ嬢ちゃん! 『アビス・ミード』の素材ハント、出発だ!!」


「「「はいっ!!!」」」


 元気な声を揃えた三人のヒロインと共に、俺たちは奈落の深層へと足を踏み出すのだった――。

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