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アビス・シグナル

 奈落の底に静寂が満ちる。

 セラフィムのカメラの前で凛嬢ちゃんとアリス嬢ちゃんもぽかんと口を開け、画面の向こうのリスナーたちのコメントもピタリと止まっていた。


 一秒、二秒……そして。


『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』』』』』


 爆発した。


 画面を埋め尽くす弾幕の嵐! あまりのコメント速度に、配信画面が処理落ちしかけるレベルだ!


『マジかよぉぉぉぉぉぉ!!??』

『冒険者アイドルユニット爆誕きたあああああ!!』

『俺たちが伝説の第一目撃者!?!?』

『おっさんがプロデューサーで、ドローンがカメラマン、メンバーが覚醒した美少女二人……属性が渋滞しとるwww』

『推す!! 絶対推す!! 古参古参古参!!』

『プロフェッサー「待て、ユニット名だ! ユニット名は何なんだゲン殿ぉぉぉ!!!」』


「ガハハ! ノリがいいなリスナーども! ユニット名か? そうだな……いくつか候補がある。これは嬢ちゃん達にも聞かせたことはないぞ……がっははは」


 俺が顎髭をさすりながら二人に視線を向けると、凛嬢ちゃんとアリス嬢ちゃんはハッと我に返り、パッと顔を輝かせた。


「ゲンさん……! 私、全力で頑張る! もう夢を絶対に諦めたくないの!」


「はいっ……! おじさまがプロデュースしてくださるなら、私、どこまでもついていきます!」


 二人はしっかりと手を繋ぎ、セラフィムのカメラに向かって一歩前に踏み出した。


「決まりだな! 奈落の底から世界をひっくり返す、俺たちのユニット名は――【大衆酒場】か【酔いどれ靴下】か【アルコール依存症】とか考えた。嬢ちゃん達はどれがいい? リスナーどもも選べ!」


「「……………………」」


『『『…………………………』』』


「がっははは、やっぱり選べないよな。全く、自分の才能が怖い。俺もここまで絞り込むのに……」


「「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!???」」


 凛嬢人とアリス嬢ちゃんの悲鳴のようなツッコミが奈落にこだました!


「ダサい! ダサすぎるよゲンさん!! なんで全部お酒関係なの!? 私たちアイドルだよ!? 近所の居酒屋じゃないんだよ!? それじゃあ演歌の歌詞だよ……」


「お、おじさま……っ! わ、私たち、まだお酒も飲めない年齢です……っ!」


 二人が必死に手を振って全力拒絶する横で、配信画面のコメント欄も凄まじい勢いで復活・爆発した。


『『『ダッサ!!!!!!wwwwwwww』』』

『おっさんの酒癖が出とるwwwww』

『大衆酒場は草』

『酔いどれ靴下ってなんだよwwww』

『アルコール依存症っておっさんじゃんwwww』

『やっぱりドワーフじゃん!』


「えっ……ダメか? 渋くて格好良いと思ったんだがなぁ……」


 ガリガリと頭を掻く俺に、凛嬢ちゃんがジト目で迫り、アリス嬢ちゃんも苦笑いしながらそっと手を重ねる。


「もうっ! ユニット名は私たちが決めるからね! えーっと……『ホイップハニートースト』か『シュガーナッツチョコレート』か『バターカスタードクッキー』なんてどうかな?」


「うへっ! カロリー高そう。胸焼けしそうだ!」


 凛嬢ちゃんが思案するように顎に指を当てると、アリス嬢ちゃんがぽんっと手を叩いた。


「凛さん……それは甘すぎるかと……私なら『引き返せない道』とか『恨み坂』とか『割られた皿』とかでしょうか?」


「怖い! 幽霊が出そう」


「うん、アリスちゃん。それは私も……」


『『『『『ネーミングセンスは壊滅』』』』』


「おいおい……二人とも、俺のセンスを笑えないじゃないか!」


 俺のツッコミに、凛嬢ちゃんは頬を膨らませ、アリス嬢ちゃんは顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。


『『『全滅wwwwwwww』』』

『プロデューサーもメンバーもネーミングセンス死んでて草』

『スイーツ、怨念、居酒屋の地獄絵図wwww』

『三コンボ! 誰かまともなやつはおらんのかwwww』


「う、うぅ……だってカワイイ名前にしたかったんだもん……!」


「わ、私は……印象に残る名前にしようかと……」


 二人ともすっかり落ち込んで縮こまってしまった。

 このままじゃラチが明かない。俺は頭をガリガリと掻き回し、セラフィムのカメラをチラリと見た。


「埒があかんな……プロフェッサー、なんかない……!?」


『奈落からの配信……深淵からの止められない信号という意味で【アビス・シグナル】でどう? 悪人に地獄から送られる呼び声だよ』


「「「………………」」」


 奈落の現場と画面の向こうが一瞬静まり返る。


「……めちゃくちゃ格好良いじゃねえか!! 【大衆酒場】の次に……」


『『『『『プロフェッサーが一番優秀だったぁぁぁぁぁ!!!!!』』』』』


『プロフェッサー天才wwww』

『リスナーが一番まともなセンス持ってるの腹痛いwww』

『【アビス・シグナル】決定だろこれ!!!』


「すごーい! プロフェッサー格好良い! 『アビス・シグナル』、私すごく気に入ったよ!」


「はい……! 奈落の底より伝わる信号……私たちにピッタリの素敵な名前です……!」


 二人がパッと笑顔になり、手を取り合って喜んでいる。


「むぅ……まぁ、今回は【大衆酒場】にして予備で【アビス・シグナル】という事にしておこう! ガハハハ!」


『『『お前は黙っとけwwwww』』』


 人類未踏の場所、奈落の底で伝説のアイドルユニット【アビス・シグナル】が正式に誕生した瞬間を、俺とメンバー以外にリスナーと共に立ち会った。

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