お風呂への渇望
「お風呂〜♪ お風呂〜♪」
「凛さん……楽しみですよね……まさか奈落の底でお風呂なんて……」
ルンルン気分の美少女2人を後ろから眺める俺達。
そう、俺達なんだ。それは……
『テンションMAXのリンちゃん……カワユス』
『おお、神々しい!』
『ああ、もう1人の黒髪ちゃんもな……』
『確かアリスちゃんだったか?』
『2人でアイドルユニットを……おっさんはマネかな?』
俺よりも盛り上がる視聴者達。
「言っておくけど2人のヌードは見せんぞ! それは俺だけ……」
『うおー! なんということだ』
『悪魔だ! この悪魔ドワーフ!』
『おっさん、1人ジメとは……情けない、見損なった!』
『バカ、アホ、スケベ、ドワーフ!』
おい、ドワーフって何人か言ってるが悪口なのか? ドワーフは違うだろう?
『お前も見るなやぁぁぁぁぁ!!』
『「それは俺だけ……」じゃねぇんだよ独占欲丸出しのドワーフおやじ!!』
『警察! 警察呼んで! 奈落の底で盗撮予定犯がいます!!』
『ドワーフは悪口じゃなくて種族だろwww そこに食いつくなwww』
セラフィムの画面を埋め尽くす猛烈な怒号と悲鳴のコメント。
「ガハハ! 冗談に決まってるだろ! 俺だって乙女の肌を覗くような野暮な真似はせんわ! 着替えの時はセラフィムのカメラに布でも被せておくさ!」
『『『神ドワーフ様ァァァ!!』』』
『手のひらドリル回転で草www』
『一瞬で手のひら返すネット民好き』
コメント欄の騒ぎを余所に、前を歩いていた凛嬢ちゃんとアリス嬢ちゃんが足を止めた。
「ゲンさん、アリスちゃんと一緒に入れるような大きいお風呂が良いなぁ!」
「そうですね。楽しそうです。おじさまも一緒に……」
そう、アリス嬢ちゃんが言うとセラフィムがアリスと凛の所に飛んでいき……
『それはダメだぁ!』
『おお、神よ〜!』
『俺は今からでも奈落へ落ちるぞ』
『俺もだ。死んでも死にきれん!』
阿鼻叫喚の地獄がそこにはあった。奈落だけに……
「えっ、アリスちゃん? ゲンさんとお風呂に入る気なの?」
「えっ、はい。小さい頃はお風呂に一緒に入った事も……あれ? おかしいですか?」
アリス嬢ちゃんの答えに凛嬢ちゃんは……
「ダメダメ! アリスちゃんはカワイイんだから自分を安売りしちゃダメ! 女の子の肌は好きな人だけに……」
「あっ、はい。私はおじさまを好きですよ?」
「イヤイヤ、その好きじゃなくてね……いい、そもそも女の子は……」
凛嬢ちゃんも大変だな。アリス嬢ちゃんはお嬢様だったからだろうか? かなりの世間知らずだ。常識が抜けている。地上に置いてきたのか?
『悪は滅ぶべし!』
『アリスちゃんに手を出すなよ! ここにいる視聴者が証人だからな!』
『このエロドワーフ!』
『俺と代われ! 今すぐに代われ!』
「ガハハ! アリス嬢ちゃん、昔と変わらず素直で結構だが、凛嬢ちゃんの言う通りだぞ。もう立派な年頃の娘さんなんだから、男とお風呂はご法度だ!」
「むぅ……おじさままでそんなこと言うんですか……?」
アリス嬢ちゃんが、不満そうに頬をぽこっと膨らませる。
危ない危ない、視聴者の血圧が上がりすぎて配信画面が爆発するところだったわ。
『おっさん、ナイス理性!』
『一瞬だけドワーフをリスペクトした』
『アリスちゃんの「むぅ……」が可愛すぎて死亡』
『てかゲンさん、本気で一切ブレないの草』
「なら水着も一緒に作るか? それなら一緒でも良いし、配信に映っても大丈夫だろ?」
そういうと……時が止まった。凛嬢ちゃんやアリス嬢ちゃん達はもちろん、あれだけコメントが凄かった視聴者達も……
「それなら……まぁ。ゲンさんがそうしたいなら――――カワイイのを作ってね!」
「まぁ、おじさま。さすがです。それなら一緒に入れるのですね?」
女の子達は概ね納得してくれたみたい……それよりも
『俺はおっさんを信じていた!』
『おっさんの冴えに身震いした!』
『おっさん無双!』
『ドワーフ……』
『まさに盲点だった!』
コイツら、一番扱いやすいかも……
ヒュオォォォォ……ッ!
肌を刺すような強烈な蒸気が立ち込め、暗闇の奥から重厚な地響きが響いてくる。
「っ……!? ゲンさん、何か来たよ!」
「お、おじさま……! この恐ろしい気配は一体……!?」
凛嬢ちゃんが武器を構え、アリス嬢ちゃんが怯えたように俺の服の裾をギュッと掴んだ。
暗闇から姿を現したのは、全身から蒸気が出る岩で覆われた、体長10メートルを超える巨体――奈落のSランク魔物【スチーム・ゴーレム】だ。
地鳴りのような咆哮をあげ、岩の巨腕を持ち上げる怪物。
普通なら国家規模の討伐隊が組まれるレベルの絶望的な威圧感だ。
『出たぁぁぁ! Sランク魔物!』
『ヒッ……画面越しでも寒気が……!』
『おっさん! 美少女二人を守って逃げろ!!』
コメント欄が恐怖で埋まる中、俺は腕を組んで満足げに頷いた。
「おうおう! いい蒸気を出してるなぁ! ゴーレムのコアもガンガンに熱してる!」
「よし! ゲンさん、あのコアでお風呂を沸かすんだよね! 岩は浴槽の壁材にしちゃおう!」
「おうよ! 最高のジャグジーのために、逃がさず全部解体するぞ!」
そう言ってハンマーを構える俺と、物陰に隠れるためにアリス嬢ちゃんの手を引き誘導する凛嬢ちゃん。
逃げるどころか、巨大なSランク魔物を『お風呂のパーツ』として品定めする俺たちの姿に、アリス嬢ちゃんの常識が完全にフリーズしたのだった――。




