お風呂の誘惑
「う〜ん? 不思議なんだよな〜」
東郷白哉が奈落の底にまで復讐に来た。俺にとっては完璧に逆恨みだったわけだけど……この奈落からの配信で犯罪がバレてのことらしい。
全く迷惑なヤツだな。
「おじさま。不思議とは?」
マジカルアドベンチャーの先代社長の孫娘である結城アリスだね。見た目は日本人形みたいに黒髪ロングの清楚美人で、見た目と同じで落ち着いている。それに似合わないポヨ〜ンとしている。
「奈落に来ても逃げ場なんてないのに……ってことでしょ?」
彼女は冒険者アイドルのセンターをしていた風間凛。仲間から追放されてこの奈落へ落とされた子だ。
金髪のツインテールで天真爛漫の元気娘。アイドルだけありスタイルも良い。
ジー、ジー。
風間凛の上空を旋回するように追従する配信ドローン『セラフィム』がすぐに結城アリスにも懐いたようで、凛とアリスの間を行ったり来たりしている。
「きゃー、この子カワイイ。よろしくお願いいたします。セラフィムさん」
「でしょ? 凄く良い子なんだよ。アリスちゃん」
こっちも不思議。なんで女の子って初対面ですぐに仲良くなるんだろう。凛嬢ちゃんもアリス嬢ちゃんもセラフィム? も仲良さそうだな。俺は? もちろん出遅れて蚊帳の外さ……1人だけ男でしかもおっさんだからな。あの空気で中に入るのはキチイよ。
「……まあ、女の子同士で仲良くなれるのは良いことだ」
そう思っていたらアリスがモジモジしだした。
「おう、アリス嬢ちゃんも今回は災難だったな。それで……どうした?」
「……いえ……その……ゴニョゴニョ……」
ん? なんだ? 分からないと凛嬢ちゃんの方を見ると、アリスの所に駆け寄って小声で話をしていた。
「……ふんふん、なるほど。そうだよね。やっぱり……」
「うん……恥ずかしくて……」
なんだ? 女の子の内緒話って妙に気になるよね……
「どうした? ハッキリ言わないと伝わらんぞ!」
「うんうん、分かった。私からお願いするね……ゲンさん」
おっ、改まった感じだな。
「アリスちゃんが水浴びしたいって!」
「お、おう。なんだ? あっ、そうか! 奈落の穴から落ちてきたんだから漏らしたのか? ガハハハ、アリス嬢ちゃんも大人になったと思っていたらまだまだ子供だな〜!」
「もう! おじさまは……ばかばか!」
俺の胸をポカポカ叩くアリス嬢ちゃんに……
「ゲンさん、女の子にそんな事を言っちゃダメよ!」
プリプリと怒る凛嬢ちゃん。生きてるなら普通の事だろ? なんでそんなに怒るのかね……
俺の近くにまでセラフィムがやって来て……あっ、配信してる。そこに現れたコメントは……
『おっさん、デリカシー無さすぎ!』
『アリスちゃんに謝れ!』
『クソオヤジ〜!』
『美少女のお漏らし……ハァハァハァ――』
「ほら見ろ! コメント欄の視聴者さんたちもみんな怒ってるよ! 女の子に『お漏らし』なんて言ったら傷つくに決まってるでしょ!」
「がはは、すまんすまん! だがな凛嬢ちゃん、奈落の大穴から落ちて無傷だったんだ、生きてるだけで上等だろ! えーっと、アリス嬢ちゃん、からかって悪かったな!」
俺は頭をかきながら、胸をポカポカ叩いてくるアリス嬢ちゃんの頭をポンポンとなだめた。
「うぅ……おじさまの意地悪……。私はただ、東郷さんに引きずり回されて汗や泥がついちゃったから、綺麗になりたいなぁって……本当だよぉ?」
アリス嬢ちゃんが、涙目で頬を膨らませながらポツリと呟く。
クンクン……そういう事にしてやるかぁ。
「フフフッ、嬢ちゃん達は勘違いしてるぞ。コメントしてる視聴者を味方にしていると勘違いしてる。それを証明する為に俺は今から状況をひっくり返すぞ」
「「えっ?」」
嬢ちゃん達は優勢になった気でいるが、俺がある事を言えばそれだけで状況は180度変わるんだぞ――
「2人の美少女が入れるお風呂を作ろうかな〜? でも俺はさっきのコメントで傷ついたからな〜!」
セラフィムちゃんを通して見ていた視聴者は……
『『『すいませんでした〜!』』』
ほらね……
『ゲンさん様、大変申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!』
『調子に乗ってクソオヤジとか言ってすみません! お願いだからお風呂作ってください!!』
『全裸土下座するので何卒……何卒美少女二人のお風呂配信を……!』
『手のひら返しが光の速さで草wwwwww』
セラフィムの画面を埋め尽くす猛烈な謝罪コメントの嵐。
「な……なにこれ……!? みんな一瞬で謝ってるの!?」
凛嬢ちゃんが画面を見て目を丸くしている。
「がはは! 見ただろ? これが『お風呂』という絶対的権力の力よ! 女子には分かるまい!」
「もう、おじさまたら意地悪なんだから……。でも、本当にお風呂作ってくれるの……?」
アリス嬢ちゃんが、涙目をうるうるさせながら期待のこもった視線を向けてくる。そんな顔されたら、おじさん断れるわけないだろ。
「おうよ! 素材集めからだけど材料が集まり次第魔道具風呂を作ってやるからな!」
「「魔道具風呂……!?!?」」
二人の声がハモる。
「それにはいくつか必要だからついて来て!」
俺達は風呂の事で東郷の存在をすっかりと忘れていた。それは動画を見ていた視聴者も……




