結城愛莉珠
【結城愛莉珠視点】
『良いかい、アリスよ! 冒険者とはダンジョンに潜って資源を採ってくるだけではないんだよ。滅びに向かっていた世界をダンジョンを通して救ってくれている勇者達なのさ……だからね、アリスや……』
お祖父様……私は冒険者の人達を……
マジカルアドベンチャーはアリスのお祖父様が冒険者達を周りの悪より守るために組織した会社だと伺っています。だから、会社の代表の座を追われてもなお、冒険者達の心配をしていたお祖父様はアリスにとっても誇りなのです。
『冒険者とはダンジョンを通して世界を救ってくれている勇者達なのさ……だからねアリス、彼らに常に感謝と敬意を忘れてはいけないよ』
病床でそう語っていたお祖父様は、最期まで冒険者たちの身を案じながら息を引き取りました。
……ですが、お祖父様が亡くなった後の『マジカルアドベンチャー』は、すっかり変わってしまいました。
現社長や幹部の方々は利益ばかりを追求し、冒険者の方々をまるで使い捨ての道具のように扱い始めたのです。
私には何もできず、ただ悔しくて、申し訳なくて……。
そんな中、突然会社に警察の方々が踏み込んできました。
配信で暴かれた、東郷白哉さんと現経営陣による悪事の数々――。
お祖父様が始めた会社の危機に我慢できずに駆け出していました。
そこに警察から必死で逃げてきた東郷さんが血走った目で現れたのです。
「ひっ……東郷、さん……!?」
「ハハ……ハハハ! 使える……! こいつはまだ使えるぞ!!」
強引に手首を掴まれ、首元に冷たい剣を突きつけられました。
そのまま大勢の警察官の方々を脅し、私は恐ろしい『奈落』の大穴へと引きずり込まれてしまったのです。
「止めてください、東郷さん! 自首して……お願い……っ!」
私の叫びも虚しく、視界が真っ暗な奈落の底へと落ちていく恐怖。
お祖父様、ごめんなさい……私はここで死んでしまうのでしょうか。
――そう諦めかけた、次の瞬間でした。
「岩本ォォォォォォォォッ!!!!」
東郷さんが狂ったように叫んだ視線の先。
そこには、焚き火の明かりの下で能天気に鼻歌を歌いながらお肉を食べているおじさまと、可愛い女の子の姿がありました。
「……先代の、お嬢ちゃんか。キレイになったもんだな」
その声を聞いた瞬間、幼い頃の記憶が一気に蘇りました。
いつもお祖父様の傍にいて、優しく笑いながら私に手作りの木彫りのおもちゃを作ってくれた、あたたかい手。
「岩本……のおじさま……!?」
東郷さんは私を人質にして、おじさまに酷い言葉を投げつけ、命を絶てと脅迫しました。さらには私や女の子を売り払うとまで……。
ですが、おじさまは全く動じませんでした。
「おいおい白哉……お前に教えた『冒険者の心得』の中に、女の子を傷つけて逃げるなんてダサい項目は無かったはずだぞ」
「岩本! カッコいいなぁ〜! 今やお前はネット上でもヒーローだ。容姿も才能も頭も全て優れている俺が犯罪者だとおおぉぉーー!! 認めない。俺はお前を認めるわけにはいかない」
東郷さんは岩本のおじさまと向き合うと、私のことはどうでも良いと言わんばかりに放り出した。代わりに岩本のおじさまと一緒にいた女の子……確か冒険者アイドルの子だ。風間さん……だったかな?
「――――しー、こっちに避難しよ。おいで〜」
すごく綺麗な人だな〜。羨ましいな〜。
その風間さんの上にはドローン?
私はダンジョン配信とかよく分からないけど……多分、これがそうなんだよね?
「あっ、この子はセラフィムちゃんだよ。そして私は風間凛です。よろしくね」
「あっ、はい。私は結城アリスって言います。よろしくお願いいたします。風間さんとセラフィムさん?」
私の目の前まで来たセラフィムさんが私を映している? そう思ったら空中に文字が……
セラフィムちゃんが目の前でパチパチと点滅した瞬間、私の視界の隅に、まるでSF映画のようにたくさんの【文字】が流れてきました。
『美少女が増えた!!!』
『【朗報】人質ちゃん無事救出!!!』
『凛ちゃんナイス誘導! お嬢ちゃん怪我ない!?』
『てか東郷の奴、人質放り投げて自分からおっさんに挑みに行ったぞwww』
『「認めない」じゃねえよwww 逮捕状出てる犯罪者が何言ってんだwww』
『おじさまの「女の子傷つけて逃げるなんてダサい」がイケおじすぎる……!』
「え……? こ、これ……全部、地上の人たちの声……ですか……?」
「そうだよ〜! みんなアリスちゃんのこと心配してたんだから! ゲンさんが一瞬で助けてくれるからもう大丈夫だよ!」
風間さんが優しく私の手を握ってくれました。
その温かさに、胸の奥がじんわりと温かくなります。
ですが――目の前では、東郷さんがスキル『騎士の誓い』を発動し、全身に凄まじい闘気を纏って岩本のおじさまへ襲いかかろうとしていました。
「死ねぇぇぇぇ、岩本ォォォォッ!!」
東郷さんの豪華な装飾剣が、おじさまの首元へ迫ります!
「おじさま、危ない――!」
思わず悲鳴を上げそうになった私を、風間さんが「大丈夫だよ」と笑顔で制しました。
おじさまは慌てる様子もなく、腰のポーチから【古びた金づち】を取り出すと、ただ軽く一閃しました。
パンッ。
ドッ!!
次の瞬間、耳を刺すような甲高い音と共に、東郷さんの自慢の剣が、まるで繊細なガラス細工のように一瞬で粉々に砕け散ったのです!
「ヒッ……!? 俺の……俺の特注の剣がぁぁぁ!?」
「言ったろ白哉。見栄えと効率だけのゴミ剣じゃ、いざって時に何ひとつ守れねぇってな」
おじさまは静かに一歩を踏み出すと、動揺する東郷さんの腹部へ、容赦ない前蹴りを叩き込みました。
ドガァァァンッ!!
「ぐへぁっっ……!??!?」
白哉さんの身体は紙屑のように吹き飛び、数百メートル先の巨大な岩肌へ豪快に埋め込まれ、白目を剥いて動かなくなっていた!




