逃亡の果てに
【冒険者パーティー『黄昏の盃』リーダー東郷白哉視点】
俺には才能があった。スキル『騎士の誓い』は魔法は使えないが身体能力を強化してくれて、剣技の上達も早い前衛に特化した才能だ。
俺は意気揚々と『マジカルアドベンチャー』へ入社して実力を認められていく。ただ1人の中年冒険者を除いて。先代社長に目をかけられていたそのおっさんは、事あるごとに俺に小言を言って邪魔をしてくる。
俺とは完全に合わない。実力もないくせに威張っているなんて。恥ずかしくないのかね……良い歳したおっさんが……それなのに――
俺はダンジョン探索を繰り返して実力をさらに伸ばしていく。逆におっさんはうだつの上がらないのは相変わらず……全く目障りだ。
そんな時に今の社長より「先代社長を追い出すのを手伝わないか?」と話を貰った。今の社長は俺を高く評価してくれ、逆におっさんはゴミ扱いしている所が気に入った。
俺は二つ返事で現社長の提案に乗った。
「バカな先代社長だったな……」
結果は大成功。先代社長は会社を追い出され、失意の中で病死したらしい。俺は若くして看板パーティー『黄昏の盃』のリーダーに抜擢されたのだ。
以降はエースパーティーとして会社の利益を上げていた。
ただ、あの目障りなおっさん――岩本ゲンだけは会社にしがみつき続けた。
先代の理念だか何だか知らんが、使えない肉壁のくせにいつまでも居座り、あろうことか先代の孫娘の世話まで焼いている。どこまでウザい奴なんだ。
だから、現社長から「勤続20年で発生する退職金を払いたくない。事故に見せかけて処理しろ」と命じられた時、俺は心底歓喜した。むしろ良く俺にその役目を任せてくれたと……
麻痺毒を塗り、背後から無防備な背中を斬りつけ、奈落へ突き落とした時のあの快感。今も残る感触に逝っちゃいそうになる。
「これで俺を苛つかせる奴は全員消えた」……そう確信していたのに。
――なんなんだ、あの配信は!? 誰も止められないのなら……
「くそっ! くそくそくそぉぉぉっ!!」
警察の緊急配備を破り、俺は街を疾走していた。現役のエース冒険者を舐めんな!
配信のせいで俺の逮捕状が出た。世間からは大バッシング、スポンサーは撤退、俺の輝かしいキャリアが……あの死んだはずのゴミおっさんのせいで全て台無しだ!
『おい東郷! 警察だ、大人しく投降しろ!』
背後からパトカーのサイレンが迫る。万策尽きた俺の目に飛び込んできたのは、殺到する警察官に俺の拘束に協力する冒険者達……そこに1人の少女が偶然に出くわす。
「ひっ……東郷、さん……!?」
先代社長の孫娘――結城愛莉珠。
「ハハ……ハハハ! 使える……! こいつはまだ使えるぞ!!」
俺は嫌がるアリスの細い手首を強引に掴み上げ、その首元に剣を突きつけた! その間に警察官や冒険者に囲まれた俺は……
「動くな警察や同業者! こいつの命が惜しくなければ下がれ!!」
「東郷! 人質をとっても逃げ切れんぞ!」
「うるさい! 俺は奈落へ行く! あのオヤジが生きているはずがない……生きていたら俺が困るんだよぉぉぉっ!!」
「止めて下さい、東郷さん! 自首して……お願い……」
俺は泣き叫ぶアリスを引きずりながら、最悪の無法地帯――『奈落』の巨大な大穴へと飛び込んだのだった。あのおっさんが生きていたんだ。そしてあの冒険者アイドルも……だから俺だって……
「きゃあああああああああっ!?」
暗闇を猛スピードで落下しながら、アリスの金切り声が鼓膜を刺す。
俺はスキル『騎士の誓い』で身体能力を極限まで引き上げ、壁面を蹴りながら落下速度を殺した。
落ちた先は、不気味な紫色の発光植物が群生する「奈落」の底。
着地の衝撃を覚悟したがヤケにフカフカな……そうだった。あのおっさんが地面をフカフカにしたとかで冒険者アイドルも助かったのだったな。
「ハァ、ハァ……見ろ、生きている! 俺は奈落の底に落ちても生きているぞ! ガハハッ!」
「ひっ……ひぐっ……おじいちゃん……助けて……」
地面にへたり込んで泣きじゃくるアリスの髪を掴み上げ、無理やり立たせる。
「泣くな、クソガキが! あのゴミおっさんが生きていたんだ、俺にできないはずがない! さあ探すぞ……どこだ、どこに隠れてやがる岩本ぉぉぉっ!!」
俺は半狂乱になりながら、暗闇の中を闇雲に突き進んだ。
……そして、大穴から少し離れた巨大な岩陰で、その『光景』を目撃した。
「〜〜♪」
焚き火の明かりの下、能天気に歌を口ずさみながら肉を頬張るあの男。
そして、その隣で「おいしい〜!」と頬を緩ませる冒険者アイドルの姿。
――本当に、生きてやがった。
「岩本ォォォォォォォォッ!!!!」
俺は怒脈を浮き立たせ、アリスの首元に装飾剣を突きつけながら叫んだ。
「ひっ……!? え……東郷、さん……?」
「嬢ちゃん、下がってろ。……おいおい、随分とご無沙汰だな、白哉! まだその剣を使っていたのか?」
おっさんの顔には焦りも恐怖もなく、ただ呆れたような、親が聞き分けのない子供を見るような目が向けられていた。
それが、無性に腹が立つ!! 俺の方が上なのに……
「ハハハ! 驚いたか岩本! 俺は警察を破り、この先代の孫娘を人質にしてここまで追ってきたんだ! お前のせいで俺の人生はメチャクチャだ! 責任を取って死ね! 今すぐ自分の首を撥ねろ、さもなくばこのガキの首を切り落とす!!」
白哉が狂気に満ちた叫びを上げ、剣に力を込めた――その瞬間。
「……先代の、お嬢ちゃんか。キレイになったもんだな」
岩本の目が、一瞬で冷たく研ぎ澄まされた。
「おいおい、岩本! 俺はここにお話しに来たんじゃねーよ! お前を殺してここから出るんだ。探して外国へトンズラしてやる。そうだな……この女達には俺の性処理と外国への手土産に……」
俺は言い終わる間際に空気が変わるのを確かに感じた。




