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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第1章 運命の一番星

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ep.6 緊急信号※アルヴィン視点

レオンハルトが所属する黒曜騎士団の副団長、アルヴィン・アステリオス視点です。黒髪のインテリ眼鏡枠です!

王都にある王国黒曜騎士団本部。


その一角に設けられた副団長執務室で、アルヴィン・アステリオスは届いたばかりの報告書に目を通していた。


 窓の外では、傾き始めた陽が王都の白い街並みを淡い金色に染めている。室内には、紙をめくる音だけが静かに響いていた。


その静寂を破ったのは、アルヴィンが首から提げた銀色のアミュレットだった。


小さく震えた直後、中央の黒曜石が鋭い光を放つ。

黒曜の剣をかたどった紋章が、宙に浮かび上がった。


「……団長」

アルヴィンは椅子から立ち上がった。


間違えるはずがない。


このアミュレットは、あらかじめ魔力を登録した者からの緊急信号だけを受信する。しかも今届いたのは、通知先を限定した秘匿信号だった。


レオンハルト・ガーディナスが限定信号の受信者として登録しているのは、黒曜騎士団副団長アルヴィン、第一師団副隊長のグレン、そして王太子カイエル。この三名のみ。

 

通常の救援要請ではない。

現在地と発動者を示す最低限の情報だけを、信頼する者へ送るためのものだ。

 

紋章の下に、細い光の筋が伸びていく。

王都の西方。アルバリーの森。


だが、その光はひどく不安定だった。

発動者の魔力が著しく弱っている証拠だ。


「アルバリーの森……」


 団長が単独で周辺の異変を調査していることは、アルヴィンも把握していた。

 とはいえ、レオンほどの人物が緊急信号を使う事態など、そうあるものではない。ましてや、秘匿行動を維持したまま助けを求めている。

 

アルヴィンは机上の呼び鈴を鳴らした。

ほどなく扉が開き、騎士が姿を現す。


「グレンに伝えなさい。団長から限定信号が入りました」


「団長から……!?」


「声を抑えなさい。第一師団を待機状態へ。ただし、現時点では大人数を動かしてはいけません」


「はっ」


「私は先行します。アルバリー周辺の魔力調査が可能な者を、蒼星魔戦団から一名。それから追跡と救護に長けた騎士を数名、至急」


騎士が走り去ると、アルヴィンは再び宙に浮かぶ紋章を見つめた。


 光は今にも消えそうなほど弱い。


「どうか、ご無事で」

銀縁の眼鏡を押し上げる、その表情はいつもと変わらない。


 だが瞳からは、いつもの柔らかさが消えていた。

   


 ◇   ◇   ◇


 


アルバリーの森へ到着した頃には、陽は西へ大きく傾いていた。


アルヴィンは馬を降り、残された光の指し示す方向へ足を進めた。同行するのは黒曜騎士団の精鋭三名と、蒼星魔戦団所属の魔導士一名。


信号が秘匿指定であった以上、いたずらに人員を増やすことはできない。


 森の中は不自然なほど静かだった。

魔物の気配はある。だが、それだけではない。何かが淀んだような空気が漂っている。


「副団長」

魔導士が足を止めた。

まだ若いが、魔力感知を専門とする実力者だ。


「どうしました」


「この森……魔力の流れが乱れています」


「魔物の瘴気ですか?」


「それもあります。しかし、それだけではありません」

 

男は地面へ手をかざす。青白い光が指先から広がり、細い糸のように走った。


「二つ……いえ、三つ以上の異なる魔力が混ざっています。うち一つは、団長のもので間違いありません」


「残りは?」


「判別できません。少なくとも、王都で登録されている術者の魔力とは一致しません」


 アルヴィンは森の奥へ視線を向けた。


「先へ」


やがて、一行は激しい戦闘の痕跡へたどり着いた。

 

なぎ倒された木々。地面に刻まれた深い爪痕。

数体の魔物が倒れ、周囲には乾き始めた血が黒くこびりついている。


アルヴィンは、切り裂かれた魔物の傷口を確認した。

 

一閃。迷いのない剣筋。硬い外皮の継ぎ目を正確に断ち切っている。


「団長です」

 同行の騎士が息をのんだ。


「この剣筋は間違いありません」


「こちらにも血痕が」

 別の騎士が地面を指す。


「魔物のものより色が薄い。人間の血です」

 血の跡は、倒れた大木のそばまで続いていた。膝をついたような跡もある。


アルヴィンは静かに周囲を調べた。

戦闘の規模。倒された魔物の数。剣を振るった角度。血が飛び散った方向。


 レオンは深手を負いながらも、最後まで一人で戦っていた。


そして、ここで倒れた。


だが、レオンの姿はない。


「ここから先の足跡は?」


「ありません」


「血痕も、ここで途切れています」

 同行の騎士たちの表情に緊張が走る。


 負傷者が自力で移動すれば、必ず跡が残る。誰かが背負っても同じだ。ましてこれほどの重傷者を運べば、草木や地面に痕跡が残らないはずがない。

 

それが、何もなかった。

まるで、レオンだけが突然その場から消えたかのように。


「調べられますか」


 魔導士が頷き、血痕の途切れた場所に膝をついた。両手をかざすと、淡い光が地面を覆う。


 しばらくして、その表情が驚愕に変わった。

「……信じられない」


「何が残っていますか」


「空間干渉の痕跡です」


「転移魔法ということですか」


「おそらくは。しかし……」

 魔導士は何度も地面を確認し、困惑したまま続けた。


「これほど精密な転移術を使える者が、王国にいるとは思えません」


「蒼星魔戦団にも?」


「団長閣下であっても、これほど痕跡を残さず、人ひとりを安全に転移させるのは困難です。しかも残された魔力には、術式特有の歪みがほとんどない」

 

男は首を振った。

「まるで、術式そのものを介していないような……」


「そんなことが可能なのですか」

 騎士の一人が尋ねる。


「現代の魔法理論では不可能です」

 

男は半ば呆然としたまま、冗談とも本気ともつかない調子で呟いた。

「もはや、千年前の賢者でも生き残っていない限りは――」


「その話はあとに」

 アルヴィンの静かな声に、魔導士は我に返った。


「失礼しました」


「転移先は」


「完全には分かりません。ですが、術者の魔力がごく薄く残っています。追跡をかけてみます」

 魔導士が立ち上がり、感知魔法を広げる。


 すぐに追えるほど明瞭な痕跡ではない。森の魔力に紛れ、今にも消えそうなほど淡い。

 それでも、注意深く探れば、見慣れない魔力がかすかな道筋を作っていた。


「こちらです」

 一行は魔力の残滓を追い、森を抜けた。

 街道へ出る頃には陽がさらに傾き、空が赤みを帯び始めている。

 

未知の魔力は途中で何度も途切れかけた。それでも、街の外れに近づくにつれ、レオン本人の魔力がわずかに感じ取れるようになった。


「団長の反応です!」

 魔導士の声に、同行者たちが一斉に顔を上げる。


「弱いですが、間違いありません。生きています!」


 アルヴィンは小さく息を吐いた。

(…レオン、無事でいてくださいよ)


 安堵するには、まだ早い。それでも、最悪の事態ではなかった。

 

反応をたどった先には、小さな建物があった。


街の喧騒から少し離れた、古びているが手入れの行き届いた店。軒先には、葉をかたどった看板が揺れている。


 ――リーフェ薬店。

 

窓からは灯りが漏れ、薬草の香りが漂っていた。

 アルヴィンは店の前で立ち止まる。


「ここですか」

一説明一

リーン達がいる国は魔法国家レイガルドです。


この国を支えるレイガルド王国 三大機関

◎王国黒曜騎士団

治安維持・魔物討伐・護衛・戦闘の要

団長:レオンハルト・ガーディナス


◎王国蒼星魔戦団

魔法戦闘・結界・対魔獣戦・大規模魔法

王国最強の魔導師が所属


◎王国翠樹薬術院

治療・薬術・薬学研究・薬術師育成

王国内の薬術師の最高機関

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