↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第5章 在りし日の精霊たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/84

ep.49 竜の慟哭

ローウェンの本気、チラ見の回

「――リーン!!」


 身体を強く引かれた。


「きゃっ――」


 気づいた時には、リーンはレオンハルトの腕の中にいた。


 そのまま背後へ庇われる。


「伏せろ!」


 次の瞬間、森の奥が、真っ赤に染まった。


 ゴォォォ――!


 巨大な炎が木々を呑み込みながら、こちらへ迫ってくる。


「――氷壁《アイス・ウォール》」


 レオンハルトが片手を突き出す。


 地面から一気に氷がせり上がり、分厚い氷壁となって四人の前を覆った。


 直後、炎と激突する。


 ――ドォン!!


 白い蒸気が爆発した。熱風が吹き荒れ、リーンは思わず顔を伏せる。


「レオン様……!」


「動くな!」


 炎は止まらない。氷壁の表面がみるみる溶けていく。


 ピシッ。亀裂が走った。


「まずい!」


 アイリスがリーンの前へ出る。だが、その直後。


 ――バキン!


 氷壁が砕けた。弱まったとはいえ、残った炎が一気に押し寄せる。


 レオンハルトが剣を抜くと、刀身を青白い魔力が包む。


 一歩、踏み込む、横薙ぎの一閃。


 青白い斬撃が炎を切り裂き、残った炎が左右へ弾け、そのまま霧散した。


「……」


 リーンは言葉を失った。熱を帯びた風の中、剣を構えたまま、こちらを守るように立つ銀髪の背中。


「……すご……」


 思わず声が漏れた。


 ――格好いい


 こんな時なのに、思わずボーと見てしまった。


「感心してる場合か」


「!」


 ローウェンの声に我に返る。


「し、してません!」


「顔に出てる」


「出てません!」


「そうか?」


「そうです!」


 レオンハルトが振り返った。


「リーン、怪我は?」


「ありません!」


「ならいい」


 フッと少し笑顔を見せてそれだけ言うと、再び森の奥へ視線を向ける。その横顔を見て、やっぱり格好いいと思ってしまう。


 (みんな、この氷蒼の黒騎士様にやられるのね…!!気持ちが分かったわ)


「だから感心してる場合じゃないと言ってるだろ」


「してません!」


 ローウェンは呆れたように息を吐いた。だが、その表情はすぐに険しくなる。


「それより、今ので安心するな」


「え?」


「あれは俺たちを狙った攻撃じゃない」


 レオンハルトがローウェンを見る。


「どういう意味だ?」


「そのままだ」


 ローウェンは炎が通り過ぎた森を見つめた。


「制御できなかった魔力が漏れただけだ」


「……今のが?」


「ああ」


 リーンは息を呑んだ。少し赤くなっていた顔も、ローウェンの話を聞いて、一気に冷めた。


レオンハルトが作り出した巨大な氷壁。それでも防ぎきれず、剣まで使ってようやく消し去った炎。


 それが、攻撃ですらない。


「こんなのが……漏れただけ……?」


「だから言っただろ。ひどく不安定だって」


 ローウェンの声が低くなる。


「竜の中で四つの力がぶつかってる。自分でも抑えられてないんだ」


 その時だった。


『――いたい』


「……!」


 リーンが顔を上げる。


「どうした」


 レオンハルトがすぐに気づいた。


「今……」


 耳を澄ませる。


 聞こえた!今度は、はっきりと。


『いたい』


 弱く、苦しそうな声。


『……いたい』


「……あの子」


 胸の奥が締めつけられる。


「泣いてる」


「竜が?」


「はい」


 リーンは森の奥を見つめた。


「『いたい』って……」


 その瞬間


 ――ォォォォォォォ……!


 森全体が震えた。先ほどとは比べものにならないほど大きな咆哮。木々がざわめき、足元の大地まで微かに震える。


「……違う」


「何がだ」


「あの咆哮は怒ってるわけじゃない」


 リーンは胸元を押さえた。


「苦しんでる」


 ローウェンの表情が変わる。


『リーン』


 シルフィーが不安そうに寄ってきた。


『風の子たちも、ずっとそう言ってる』


「……うん」


「何て言ってる?」


 レオンハルトに尋ねられ、リーンは答える。


「シルフィーも……精霊たちがずっと、あの子が苦しんでるって」


「……」


 レオンハルトは剣を握ったまま、森の奥を見据えた。


「進むか」


 ローウェンが問う。


「ああ」


 短く答えたレオンハルトに、ローウェンは頷くそしてリーンを見る。


「リーン。今なら戻れるぞ」


「行きます!」


「即答か」


「ここまで来て帰れません」


「……だろうな」


 ローウェンはため息をついた。


     ◇ ◇


 それから先は、まるで別の森だった。


 焼け焦げた木々、凍りついた地面。根元から抉られた巨木。そして、何もない場所から吹き荒れる風。


 一つの場所に存在するはずのない景色が、入り乱れている。


「……ひどい」


 リーンが呟いた。ローウェンはしゃがみ込み、地面へ手を触れる。


「ここは炎……いや、下に水の魔力も残ってるな」


「二つ同時に?」


「ああ」


 少し先では、大地が不自然に隆起し、その表面だけが凍りついていた。


「属性が完全に混ざってる」


 ローウェンが立ち上がる。


「想像してたより悪いな」


「あなたの術で何とかなりそうか?」


 レオンハルトが尋ねる。


「まだ何とも言えん。まず本体を見ないとな」


 再び歩き出そうとした、その時、リーンは足を止めた。


「……待って」


「どうした?」


「何か……」


 感じる、声ではない。胸の奥を、何かに引っ張られるような感覚。無意識に一歩踏み出した。


「リーン」


 すぐにレオンハルトの手が腕を掴む。


「あ……」


「勝手に動くなと言っただろう」


「……ごめんなさい」


「何があった?」


「分からないんです。でも……呼ばれてる気がする」


 ローウェンがリーンを見る。


「方向は?」


 リーンは森の奥を指した。


「あっちです」


 ローウェンがシルフィーを見る。


『……同じ』


 シルフィーも頷いた。


『あっちから、すごく強い力を感じる』


「なら行くぞ」


 ローウェンが森の奥へ視線を向ける。


「ただし、ここからは絶対に俺たちより前に出るな」


「はい」


     ◇ ◇


 やがて、木々が途切れた。その先に広がっていたのは、大きく抉れた大地。


 そして――


「……っ」


 リーンは息を呑んだ。


 いた。


 巨大な竜。


 黒ずんだ鱗の隙間から、赤、青、緑、黄褐色の光が脈打っている。


 炎が漏れる。次の瞬間には、その場所が凍りつく。風が渦を巻き、大地が低く震える。


 まるで四つの力が、一つの身体を奪い合っているようだった。


「……これが」


 レオンハルトが低く呟く。


「エレメントドラゴン……」


 アイリスも、いつもの穏やかな表情を消して竜を見つめている。


 ローウェンだけが、一歩前へ出た。


「師匠?」


「動くな」


 短く告げ、金色の瞳が、竜を捉える。シルフィーがローウェンの横へ並んだ。


『ロー……』


「ああ。見えてる」


「何が?」


 リーンが尋ねる。


 ローウェンは答えず、竜の身体をじっと見つめた。


「……なるほどな」


「師匠?」


「やはり四属性を持ってるんじゃない」


「え?」


「無理やり、一つに押し込まれてる」


 リーンの目が見開かれる。


「それって……」


「自然にこうなったんじゃない」


 ローウェンの表情から、完全に笑みが消えた。


「こいつは――誰かに、こうされたんだ」


「……!」


 その瞬間、竜の瞼が、ゆっくりと開いた。濁った金色の瞳。その視線が、真っ直ぐリーンを捉える。


「リーン!」


 レオンハルトがすぐに前へ出た。


 けれど、リーンには、聞こえていた。


『――いたい』


『――たすけて』


「……っ」


 リーンは唇を噛んだ。


「師匠」


「何だ」


「助けたいです」


「……」


「この子を、助けたい」


 ローウェンは竜を見つめたまま、しばらく黙っていた。


 やがて


「ああ」


 静かに答える。


「そのために来た」


 ローウェンが片手を上げた。


 周囲の空気が変わる。風が止まり、シルフィーの翠の髪がふわりと浮かび上がった。


 淡い光が、ローウェンの足元へ集まり始める。


 金色の瞳が鋭く光る。


「――《還りの詩(レクイエム)》」


 竜の慟哭が、夜の森を震わせた。

続きはまた明日✩

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。