ep.48 竜の声
ローウェンVSレオン、っファイ!(≧∇≦)/
「師匠……?」
リーンが呼んでも、ローウェンはすぐには答えなかった。
やがて、隣にいるシルフィーへ視線を向ける。
「シルフィー。向こうから逃げてきた連中は、何か言ってなかったか」
『……言ってたわ』
シルフィーの表情が曇る。
『こわいって。それから、いたいって』
「痛い?」
『うん。いろんな力がぐちゃぐちゃになってるって。あの竜の中で、喧嘩してるみたいだって』
ローウェンの目が細くなった。
「……やっぱりか」
「師匠、何か知ってるんですか?」
「来る途中で聞いた。あの竜は、炎、水、風、土――四つの属性を同時に纏ってるそうだな」
「はい。アルヴィンさんは、エレメントドラゴンだって」
「……エレメントドラゴン、か」
ローウェンが小さく呟く。
「少なくとも、俺の知ってる竜にそんなものはいない」
「え……?」
「自然に生まれた竜なら、普通は一つの属性に強く寄る。四つもの力を同時に抱えるなんて、まずあり得ん」
「じゃあ、あのドラゴンは……?」
「分からん」
ローウェンは短く答えた。
「ただ、シルフィーの話を聞く限り、四つの力を使いこなしているわけではないようだ」
「……喧嘩してる?」
「ああ。互いに反発してるんだろうな」
リーンは昨日見た竜を思い出した。
炎、水、風、土。
次々と異なる力を放ちながら、空で暴れていた巨大な竜。
けれど――
『たすけて』
あの声だけは、今も耳から離れない。
「それって……苦しいんでしょうか」
「可能性はある」
ローウェンの表情から、いつもの気怠さが消える。
「四つの力が一つの器の中で反発し続けてるなら、ひどく不安定な状態だ。今は動いてないだけで、均衡が崩れれば、いつ暴れ出してもおかしくない」
「もし、暴れたら……?」
「王都どころじゃ済まん」
「……」
「最悪、この国全体が巻き込まれる」
リーンが息を呑む。それほどの力を持った存在が、助けを求めている。
「師匠」
「何だ」
「……助けられないんですか?」
ローウェンはすぐには答えなかった。
「分からん」
「でも――」
「だから、見に行く」
「え?」
「俺が直接、竜を見てくる」
「だったら私も――」
「駄目だ」
「まだ最後まで言ってない!」
「言わなくても分かる」
「師匠!」
その時、扉の向こうから足音が聞こえた。
ほどなくして扉が開く。
「リーン。レオンハルト様がお戻りになりました」
アイリスが告げ、その後ろから騎士団の制服姿のレオンハルトが現れた。
室内にいるローウェンを見て、僅かに目を見開く。
「……ローウェン殿」
「久しぶりだな」
「いつ王都へ?」
「ついさっきだ」
レオンハルトは一度ローウェンを見たあと、リーンへ視線を移した。
「何かあったのか?」
「え?」
「村にいるはずのローウェン殿がここにいる。何かあったのかと思ったが」
「あ……」
リーンが答えようとした、その時。
「竜を見に行く」
「師匠!」
また先に答えられた。
レオンハルトの表情が険しくなる。
「……どういう意味です」
「そのままの意味だ。放っておく方が危険だからな」
ローウェンは、竜の内に四つの属性が一つの器の中で反発している可能性と、その危険性を簡潔に説明した。
「……最悪、この国全体が巻き込まれる可能性があると?」
「ああ」
レオンハルトは黙り込んだ。
やがて、ローウェンを見る。
「ですが、あなたが行って何ができるんです」
「……」
ローウェンはレオンハルトを見た。
少しの間、値踏みするように目を細める。
そして一度だけ、リーンへ視線を向けた。
「まあ、当然の質問だな」
小さく息を吐く。
「仕方ないか……ここだけの話にしろ」
その声音が変わった。
「俺には精霊が見える」
「……精霊?」
「声も聞こえる。俺は薬術師だが――精霊魔導師でもある」
「精霊魔導師……」
「今じゃほとんど残ってないがな」
レオンハルトは驚いたようにローウェンを見る。
その時だった。
――ォォォォォォン……
遠く、森の奥から、低い咆哮が響いた。
「……!」
窓硝子が、微かに震える。
リーンは胸元を押さえた。怒っているようには聞こえなかった。
むしろ――
「……苦しそう」
思わず、そう呟いていた。
ローウェンがリーンを見る。シルフィーも、不安そうに森の方角を振り返った。
『……ロー。やっぱり、あの子おかしいよ』
「ああ」
ローウェンはしばらく考えたあと、低く言った。
「精霊があれだけ怯えてる。それに、リーンに声が届いた」
レオンハルトの眉が僅かに動く。
「……声?」
「ああ」
ローウェンはそれ以上説明せず、話を続けた。
「ただの竜とは思えん。もし精霊に近い何かが関わってるなら――俺の術が通じる可能性はある」
レオンハルトは一瞬リーンへ視線を向けたが、今は話を遮らなかった。
「助けられるのですか?」
「分からん」
ローウェンは即答した。
「だから、直接見る必要がある」
レオンハルトはしばらく黙っていたが、ふとローウェンの視線を追った。
そこには何も見えない。
「……先ほどから、何を見ているんです」
「シルフィーだ」
「師匠!」
「……シルフィー?」
「風の精霊だ。ここにいる」
ローウェンが自分の隣を指した。
レオンハルトの目が僅かに見開かれ、そして、リーンを見た。
「……リーンには見えるのか?」
「あ……」
リーンは言葉に詰まった。ちゃんと自分から言うつもりだったのに。
「最近見えるようになったらしい」
「師匠!!」
「何だ」
「それ、私から言おうと思ってたんです!」
「今言っただろ」
「師匠がね!」
「同じだろ」
「全然違います!」
「待て」
レオンハルトの低い声に、二人が黙る。
「……順番に説明しろ」
「はい……」
リーンは小さく肩を落とした。
「前から声は聞こえていたんです。でも、姿は見えなくて……最近になって見えるようになりました」
「なぜ黙っていたんだ」
「黙ってたわけじゃ……ちゃんと話そうと思ってたんです」
「いつ」
「……近いうちに」
「リーン」
「ごめんなさい」
即座に謝ると、ローウェンが小さく鼻で笑った。
「相変わらずだな」
「師匠は黙っててください!」
レオンハルトは何か言いたそうだったが、今はそれ以上追及しなかった。
「その話は後で聞く」
「……はい」
リーンは一度息を吸った。
「それより、レオン様。私も行きます」
「「駄目だ」」
「また!?」
今度はレオンハルトとローウェンの声が綺麗に重なった。
「どうしてですか!」
「危険だからだ」
「でも、あの子の声が聞こえたのは私だけです」
レオンハルトの眉が寄る。
「……さっき言っていた『声』か」
「あ……はい」
「何が聞こえた?」
「それは――」
「竜から『たすけて』って聞こえたらしい」
「師匠!」
「どうせ言うだろうが」
「私から言います!」
リーンはレオンハルトへ向き直った。
「本当に聞こえたんです。『たすけて』って。だから確かめたい」
レオンハルトの表情が変わった。
「……竜が、助けを求めたのか?」
「分かりません。でも、私にはそう聞こえました」
「リーン」
「レオン様も言ってくれましたよね」
昨日交わした言葉を思い出す。
「確かめるって」
レオンハルトが黙る。
「あの子が本当に苦しんでいるなら、何が起きているのか知りたいんです。私なら、また声が聞こえるかもしれない」
「だが――」
「お願いします」
リーンはまっすぐにレオンハルトを見た。
「危ないのは分かってます。でも、聞こえたのに……何もしないままにはできません」
長い沈黙が落ちた。レオンハルトは険しい表情のままリーンを見つめる。
やがて、諦めたように小さく息を吐いた。
「……俺から離れるな」
リーンの顔が明るくなる。
「はい!」
「勝手に動くなよ。戻れと言ったら必ず戻れ」
「守ります」
「俺からも離れるな」
横からローウェンが口を挟む。
「師匠からも?」
「当然だ」
「じゃあ、どっちのそばにいれば――」
「「両方だ」」
「無理です!」
その時。
「でしたら、わたくしも参ります」
アイリスが静かに告げた。
「アイリスも?」
「はい」
「でも、ドラゴンがいる森だよ?」
「存じております」
「危ないよ?」
「ですから参ります」
「……え?」
アイリスはいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「侍女ですし、ついて行きます」
「侍女って、そこまでしなきゃいけないの?」
「それに、わたくしはリーンの護衛も兼ねておりますので」
「……護衛?」
「はい」
「誰の?」
「リーンのです」
「…………私の?」
「はい」
リーンはゆっくりとレオンハルトを見る。
「レオン様。私、初めて聞いたんですけど」
「……言ってなかったか?」
「聞いてません!」
今度はアイリスを見る。
「アイリスも!」
「申し上げておりませんでしたね」
「なんで!?」
「特に必要がありませんでしたので」
「あるよ!?」
ローウェンが呆れたように言う。
「お前、自分が護衛されてることにも気づいてなかったのか」
「師匠まで呆れないでください!」
リーンはふとアイリスを見る。
「でも……護衛ってことは、戦えるの?」
「はい」
「どのくらい?」
アイリスは少し考えて、いつもの控えめな笑みを浮かべた。
「わたくし、こう見えて強いんですよ」
「……そうなの?」
リーンがレオンハルトを見る。
「アイリスなら問題ない」
「そんなに?」
「そんなにだ」
「ええ……」
アイリスは楽しそうに微笑んでいた。
◇ ◇
動くのは夜と決まった。森の周辺には騎士や冒険者が配置されている。
大人数で近づけば竜を刺激する可能性があるうえ、ローウェンが精霊魔導師であることを知られるわけにもいかない。
「俺が――つーか、シルフィーに案内させる」
『私?』
「精霊の通り道なら分かるだろ」
『もう。仕方ないなぁ』
リーンが小さく笑う。レオンハルトには、その声も姿も分からない。
「……何と言っている」
「仕方ないから案内してくれるそうです」
「そうか」
レオンハルトはまだ少し複雑そうだった。
「アルヴィンにだけは伝えておく。夜明けまでに戻らなければ、捜索隊を出させる」
それだけを決め、それぞれ準備へ向かった。
◇ ◇
――夜
月明かりの下、四人は人目を避けて北東の森へ向かった。
ローウェンの傍らにはシルフィー。
その後ろにリーンとアイリス。
最後尾をレオンハルトが警戒しながら進む。
『こっち』
シルフィーが、人の通らない細い道へ入っていく。
森が深くなるにつれ、リーンは違和感を覚えた。
「……精霊が少なくなってる」
ローウェンが足を止める。
シルフィーの表情も強張った。
『ロー』
「ああ」
その時。
――ォォォォ……
遠くから、大気そのものを震わせるような低い音が響いた。
レオンハルトの手が剣へ伸びる。アイリスの表情からも、いつもの柔らかさが消えた。
ローウェンが森の奥を見据える。
「……ここから先は、気を抜くなよ」
四人は静かに、さらに森の奥へと足を踏み入れていった。
リーンの話したかったことを、すべて横から攫うローウェン(笑)大人げない…
ローウェン)
( ¯﹀¯ )ドヤッ
レオン)
なんで、あの爺さんが先に知ってるんだ…!
毎日会ってたのは俺なのに!!(´・ω・)σ゛ イジイジ
という気持ちだったかもしれませんね。(^o^;)
ここからはバトル回が増えるので、しばらくは毎日、夜に更新を頑張ります!
宜しくお願いします。




