ep.47 師匠との再会
やっとローウェンとの再会です!良かったねリーン(*^^*)
その頃、リーンはガーディナス邸の窓辺に立って、遠く北東の空を見つめていた。
昨日からずっと、耳の奥に残っている。
『――たすけて』
あれは気のせいではない、そう思う。けれど、自分でも説明できない。
精霊の声とは少し違った、もっと大きな何か。
魔力そのものが泣いているような――そんな声だった。
そして、もう一つ。
窓の外では、小さな精霊たちが風に乗って飛んでいる。
以前なら、声だけで姿は見えなかった。
それが今は、髪のようなもの、小さな手。光の粒を纏った身体、その一つ一つが、はっきり見える。
「……師匠に会わなきゃ」
師匠なら、何か分かるかもしれない。
急に精霊の姿が見えるようになったことも、あの声のことも。
手紙ではなく、直接会って話したかった。
でも――
「今、出かけたいなんて言ったら……」
昨日のレオンハルトの顔が浮かぶ。
『勝手に森へ行くなよ』
「……森じゃなければいい、ってことにはならないよね」
自分で言って、自分で首を振る。
今の王都は警戒態勢だ。勝手に出歩けるような状況ではない。
「レオン様に相談してから――」
そう呟いた、その時。控えめなノックの音が響いた。
「リーン」
扉から顔を出したのは、アイリスだった。
「お客様がお見えです」
「私に?」
「ええ。ローウェン様とおっしゃる方です。リーンの師匠だと」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
次の瞬間。
「師匠!?」
「はい。今、応接室でお待ちです」
「行ってきます!」
「あ、リーン!」
勢いよく部屋を飛び出したリーンを、アイリスが慌てて追いかける。
「廊下は走らないでください!」
「ご、ごめんなさい!」
そう答えながらも、足はほとんど止まっていない。
「もう……!」
アイリスの呆れた声を背中に聞きながら、リーンは応接室へ急いだ。
扉の前でようやく足を止め、一度だけ息を整える。
そして、扉を開いた。
「師匠ー!」
「うるさい」
聞き慣れた声だった。椅子に腰掛けていたローウェンが、面倒そうにこちらを振り返る。
その姿を見た瞬間、リーンの顔がぱっと明るくなった。
「本当に師匠だ……!」
「偽物に見えるか」
リーンが駆け寄ろうとしたところで、そばに控えていたセドリックが穏やかに声をかけた。
「リーン様。こちらの方がローウェン様でお間違いございませんか?」
「はい!私の師匠です」
「承知いたしました。では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
セドリックは一礼し、静かに部屋をあとにした。
「だって、会いたいって思ってたから!」
「なら連絡しろ」
「うっ……」
その隣から、笑い声がした。
「ほら、連れてきたぞ」
「カイン!」
カインが椅子から立ち上がる。
「俺は戻る。これから打ち合わせなんだ」
「ありがとうございました」
「おう」
カインは軽く手を上げた。
「勝手に出歩くなよ」
「はい」
ローウェンが、ちらりとカインを見る。
「どうせ聞かんぞ、こいつは」
「師匠!」
カインが吹き出した。
「ははっ。爺さんも苦労してんな」
「誰が爺さんだ」
「そこかよ」
カインは笑いながら片手を上げた。
「じゃ、俺は行くわ。またな」
「はい。ありがとうございました」
カインが応接室を出て扉が閉まった途端、ローウェンがリーンを見る。
「何かあれば言えって言っただろうが」
「ぅぅ……」
「手紙の一つくらい寄越せ」
「だって……師匠も忙しいかなって」
「それで?」
「こんなことで呼んだら、悪いかなって……」
「こんなこと?」
ローウェンの眉がぴくりと動く。
「竜が出て、お前がそのど真ん中にいるのが?」
「……」
「どこが『こんなこと』だ」
「……ごもっともです」
しょんぼりするリーンを見て、ローウェンは深いため息をついた。
「お前は昔からそうだ。面倒を拾ってくるく
せに、拾った後で俺に迷惑をかけるのを気にする」
「だって師匠、いつも面倒だって言うじゃないですか」
「言うさ」
「ほら!」
「文句を言うのと、知らせなくていいのは別の話だ」
「……だったら、そう言ってくださいよ」
「今言っただろ」
「そういう意味じゃないです!」
リーンはむっとした顔でローウェンを見る。
ローウェンはしばらくそんな彼女を見ていたが、やがて表情を変えた。
「それで」
声が静かになる。
「何があった」
リーンも、すぐに真顔になった。
「……師匠。私、最近、精霊が見えるようになったんです」
ローウェンの動きが止まった。
「……いつからだ」
二人の間に流れた空気を察したのか、アイリスが静かに一礼した。
「リーン。私は外におりますので、ごゆっくりお話しください」
「あ……ありがとうございます」
「何かございましたら、すぐにお呼びくださいね」
「はい」
アイリスは一礼すると、静かに部屋を出ていった。
「少し前からです。最初は光みたいにしか見えなくて。でも今は、ちゃんと姿が――」
そこで、リーンの言葉が止まった。
気づけばローウェンの隣に、一人の女性がいた。
長い翠の髪。
透き通るような衣。
風そのものが形を取ったような、美しい姿。
リーンは息を呑んだ。
「……シルフィー?」
女性の目が見開かれる。
『リーン?』
その声は、何度も聞いたことがある。
でも、姿を見るのは初めてだった。
『……私が、見えるの?』
リーンはゆっくり頷いた。
「うん。ちゃんと見える」
『ほんとに!?』
シルフィーの顔がぱっと明るくなった。
『リーン! やっと私のこと見えるようになったのね!』
「うん……!」
リーンも思わず笑顔になる。
「ずっと声しか聞こえなかったから……なんだか、不思議」
『どう?どう?私、想像してた通り?』
「ふふ。もっと小さいと思ってた」
『ええっ!?』
「でも、すごく綺麗」
『……!』
シルフィーが嬉しそうにくるりと宙を舞った。
『ロー!聞いた!?綺麗だって!』
「はいはい」
『なによ、その反応!』
思わずリーンが笑う。けれど、ローウェンだけは笑っていなかった。何も言わず、リーンを見つめている。
「……師匠?」
「いや」
短く答え、それ以上は口にしなかった。
リーンは少し首を傾げたが、ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「……あ。それだけじゃないんです」
「何だ」
「……最近、変な夢も見るんです」
「夢?」
「はい。知らないはずの場所だったり、知らない人だったり……でも、なぜか懐かしいような気がして」
「……いつからだ」
「王都に来てから、何度か」
ローウェンは僅かに目を細めた。
「師匠?」
「いや。続けろ」
「それと昨日――あのドラゴンから、声が聞こえました」
ローウェンの目が細くなる。
「何だと?」
リーンは、昨日聞いた声を思い出す。弱く、苦しそうで、それでも確かに届いた声。
「――『たすけて』って」
部屋の空気が変わった。
シルフィーの表情からも、さっきまでの明るさが消える。
ローウェンは何も言わなかった。
「……師匠?」
「……そうか」
低く呟く。
その一言だけが、妙に重く響いた。
更新は明日です。
再び、ローウェンVSレオンがみれるかも?!笑
楽しみにお待ちください。




