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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/4章 守りたいもの

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プロローグ 知らないはずの景色

第4章スタートです。

引き続き、宜しくお願いします(*^^*)


 ――約二十年前


 雨が降っていた。

 朝から降り続く雨が、窓を静かに叩いている。


 男の前には、冷めきった紅茶が二つ置かれていた。


 一つは自分のもの。

 もう一つは――もう、飲む者のいないもの。


 数日前、妻が死んだ。

 病だった。薬も、魔術も、できることはすべてやった。


 それでも、救えなかった。


「……また、守れなかった」


 口から零れた言葉に、男は眉を寄せた。


 ――また?


 なぜ、そんな言葉が出たのか。

 分からない。


 その瞬間


「……っ!」


 激しい痛みが頭を貫いた。


 雨音が遠ざかる。


 代わりに聞こえてきたのは――鐘。


 カァン――


 カァン――


 景色が変わる。


 燃える森。押し寄せる魔物。

 血に濡れた剣を握る、自分の手。


『西門を閉じろ!』


『まだ村人が残っています!』


 違う。まだ人がいる。

 

 助けなければ。


 守らなければ。


 次の瞬間、天を覆うほど巨大な樹が現れた。


 ――世界樹


「……?」


 なぜ、その名を知っているのか。


 考える間もなく、景色が移り変わる。

 無数の精霊が舞う、その根元。


 一人の少女が立っていた。


「……誰だ?」


 顔だけが見えない。


 それなのに、知っている。

 そんな気がした。


 誰よりも大切だった。守りたかった。


 理由も分からないのに、そんな感情だけが胸の奥から溢れてくる。


『――――』


 少女が何かを言った。


「聞こえない……」


 手を伸ばす。

 少女もこちらへ手を伸ばした。


 あと少しで触れる。


 その瞬間――


 真っ赤な血が見えた。


「――っ!」


 男は目を開けた。


 窓から見える景色は雨だった。

 そして、冷めた紅茶。


 元の部屋だった。


「……今のは……」


 夢だったのか。


 それにしては、あまりにも鮮明だった。

 剣を握った感触。血の匂い。魔物の咆哮。


 そして、世界樹の下にいた、顔の見えない少女。


「……誰なんだ」


 名前も、顔も、声さえも分からない。


 なのに、あの少女を失った痛みだけが、胸の奥に残っている。


「俺は……なんでこんなにも気になる?」


 口にした瞬間。

 理由の分からない震えが走った。


     ◇


 それから男は、時折見る不可思議な光景を書き留めるようになった。


 魔物との戦い。


 精霊。


 世界樹。


 見たことのない場所。


 知らないはずの術式。


 それが何なのかは、分からない。


ただ夢として片づけるには、あまりにも鮮明だった。


 ある夜、男はその光景を頼りに一つの術式を紙へ描いていた。


「……こうか?」


 円を重ねる。


 その中央へ一本の線を引く。


 男の手が止まった。


「……」


 どこかで見た気がした。


 だが、あの不可思議な光景の中ではない。

もっと最近だ。男は立ち上がり、本棚から一冊の研究資料を取り出した。


 ページをめくる。


 精霊との親和性。


 魔力への干渉。


 人工的な魔力変質。


 そして二つの円を、一本の線が貫く奇妙な紋様。


「……似ている」


 まったく同じではない。だが、そこにある考え方は、あまりにもよく似ていた。


 さらにページをめくる。やがて、一つの文字で指が止まった。研究の名なのか、組織の名なのか。

 れすら分からない。


 ――《アルケイア》


「アルケイア……」


 知らない名だった。それでも、なぜか、その文字から目を離せなかった。


 ふと、あの少女の姿が脳裏をよぎる。


 巨大な樹の下、無数の精霊に囲まれて笑う少女。

 顔だけが、どうしても見えない。


「……お前は、誰なんだ」


 答えはない。


 ただ机の上で《アルケイア》と記された研究資料と、知らないはずの景色を頼りに描いた術式が静かに重なっていた。

続きは明日の夜いけそうです!

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