↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/3章 封じられていた記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/86

ep.29 救出

「近い」


 レオンハルトが手綱を引いた。

 馬が速度を落とし、荒い息を吐く。


 王都西門を抜け、街道から外れた林の奥。 木々に隠れるように、古びた石造りの建物が建っていた。


「……ここですか」


 隣で馬を止めたアルヴィンが、建物を見上げる。


 かつて使われていた旧王立魔道具工房。十年以上前に閉鎖され、今では使われていないはずの施設だった。

窓は板で塞がれ、外から見れば完全な廃墟にしか見えない。


「反応は?」


「中だ」


 レオンハルトは馬から飛び降りた。

 後続の騎士たちも次々と馬を降りる。


「騎士を裏へ回します。逃げ道を塞ぎましょう」


 アルヴィンが手綱を騎士へ預けながら指示を飛ばす。


「二手に分かれてください。裏口と周囲を固めます」


「はい!」


 騎士たちが散っていく。


「レオン。罠の可能性もあります」


「分かっている」  


そう答えながら、レオンハルトはすでに入口へ向かっていた。


「……分かっている人の動きではないんですよね」


アルヴィンは小さく息を吐き、その背を追った。


     ◇ ◇


 扉を蹴破る。


「――!」


 中にいた男たちが一斉に振り返った。  

地上階には壊れた作業台と、埃を被った古い魔道具が並んでいる。だが、人の気配は少ない。


「……違う」  


レオンハルトが眉を寄せる。


 リーンのリボンに仕込んだ追跡術式。その反応は、さらに下から伝わってくる。


「下だ」


「地下ですか?」  


アルヴィンが床へ視線を落とす。


「そんなものがあるとは聞いていませんが……」


「探せ」


 騎士たちが動き出す。ほどなくして、壁際の棚の奥に隠された鉄扉が見つかった。


「こちらです!」


 扉を開けば、地下へ続く石造りの階段が現れる。


 その奥から――


 ――キィィィン!


 耳を刺すような音が響いた。


 続いて、魔物の咆哮。


「リーン……!」


 レオンハルトが階段を駆け下りた。


     ◇ ◇


 地下へ降りた瞬間、空気そのものが震えていた。


 魔道具が明滅し、棚の薬瓶が次々と割れていく。檻の中ではレッドウルフをはじめとした魔物たちが暴れ、鉄格子が激しく軋んでいた。


 その中央に――リーンがいた


「いや……いや……!」


 両手で頭を押さえ、床に膝をついている。  

その身体から溢れ出した魔力が、波のように周囲へ広がっていた。


少し離れた場所には、血を流して倒れている若い男。


 そして、その前にロブが立っていた。


「近づくな! こいつは十四年前の――」


「リーン!」


 レオンハルトの声が響いた。


「……っ」


 リーンが顔を上げる。

 だが、その瞳には焦点が合っていない。


「来ないで……!」


「俺だ!」


「いや……いやっ……!」


 魔力が弾け、壁際の魔道具が吹き飛んだ。


「レオン!」  


アルヴィンが後ろから声を上げる。


「無理に近づけば巻き込まれます!」


「構わん」


「無茶なことはやめてください!」


 だが、レオンハルトは止まらなかった。


 一歩。また一歩。

 荒れ狂う魔力の中へ入っていく。


「来ないで……お願い……」


 リーンの声が震える。


「痛い……もう、やだ……」


 レオンハルトの表情が変わった。


 これは今だけの言葉ではない。

 なぜか、そう直感した。


「リーン」


「……」


「俺を見ろ」


 ゆっくりと近づく。


「いや……」


「リーン」


 今度は、はっきりとその名を呼ぶ。


「俺だ。ここにいる」


 リーンの瞳が僅かに揺れた。荒れ狂っていた魔力が、ほんの一瞬だけ静まる。


「……レオン、様……?」


 確かめるような呟き。


「ああ」


 レオンハルトはまっすぐ彼女を見つめ返した。


 あと一歩。手を伸ばし、リーンの手を掴む。


「……っ」


 その瞬間、荒れ狂っていた魔力が大きく揺らいだ。


「大丈夫だ」  


 強く、その手を握る。


「もう大丈夫だから安心しろ」


 リーンの指が、微かに震えた。


「……よかっ……」


 その一言を言い切る前に、身体から力が抜ける。


「リーン!」


 倒れる寸前、その身体をレオンハルトが抱き止めた。


 腕の中に収め、すぐに呼吸を確認する。

 息はある。生きている。


「……」


 張り詰めていたものが、僅かに緩んだ。


 そこで――気づいた。


 リーンの白い頬が、赤く腫れている。

 口元には、乾いた血の跡まで残っていた。


「……」


 それを見て、レオンハルトの表情が消えた。


 その背後では、アルヴィンの指揮のもと、騎士たちがロブを取り囲んでいた。


「な、何をする! 私は薬術院の人間だぞ!」


「抵抗しないでください」  


アルヴィンが冷ややかに告げる。


「事情は王城でゆっくり伺います」


「触るな!」


 ロブが騎士を振り払い、杖を振り上げた。


 その瞬間――


 ――ズドッ!


「ぎゃあああああっ!」


 氷の刃がロブの足を貫き、そのまま床へ縫い止めた。絶叫が地下に響き渡る。


「レオン」


「暴れたから取り押さえただけだ」


 レオンハルトは平然と言った。それは静かな声だった。それなのに、周囲の温度まで下がったような錯覚を覚える。


「……そうですか」  


 アルヴィンはレオンハルトを見る。


 その腕には、気を失ったリーン。そして、腫れた頬。アルヴィンの視線がロブへ移った。


「まあ……抵抗したのは事実ですからね」


「き、貴様ら……!」


 レオンハルトは答えない。


 視線が、ロブの手にある杖へ落ちる。

 その先端には――僅かに血がついていた。


「……お前がリーンを殴ったんだな」


「わ、私は知らん!」  


ロブの顔色が変わる。


「そいつが勝手に暴れたのだ!私はただ研究を――」


 レオンハルトの周囲に、再び冷気が集まり始めた。空気中に、小さな氷の粒が浮かぶ。


「レオン」  


アルヴィンの声が落ちた。


「そこまでです」


「……」


「お気持ちは分かりますが、この男には色々なことを吐いてもらわなければなりません」


 ロブの額から、冷や汗が流れ落ちる。


 数秒の後――レオンハルトの周囲に浮かんでいた氷が消えた。


「……そうだったな」


 ロブが僅かに息を吐く。


 その様子を、レオンハルトは冷たい目で見下ろした。


「安心しろ」


「……?」


「死なせるつもりはない…お前には、聞きたいことが山ほどある」


 ロブが息を呑む。


「十四年前とはなんのことだ――彼女についても」


「……っ」


 明らかに、ロブの表情が変わった。

 だが、口を閉ざしたまま何も答えない。


「連れていけ」


「はっ!」


 騎士たちがロブを拘束する。レオンハルトはもう興味を失ったように背を向けた。


「それから、あの男もだ」


 床に倒れているライへ視線を向ける。アルヴィンが傍らへ膝をつき、首筋へ指を当てた。


「……まだ息があります。急げば助かるかもしれません」


「運べ」


「はい!」


 騎士たちがライの救護へ走る。


 レオンハルトは意識のないリーンを抱き上げた。  

 腕の中には確かな温もりがある。


 腫れた頬へ視線を落とす。

 触れようとして――やめた 


「……帰るぞ」


 レオンハルトはリーンを抱く腕に、僅かに力を込めた。


     ◇ ◇


 ――王城、医務室


「命に別状はありません」


 リーンの容体を確認した侍医の言葉に、レオンハルトはようやく息を吐いた。


「魔力がかなり乱れています。ただ、原因は断定できません」


「何か術を受けたのか」


「その可能性もありますが……本人の魔力が急激に暴走したようにも見えます」


「……そうか」


「今は休ませることです。目を覚ましたとしても、無理はさせないように」


「ああ」


 侍医が部屋を出ていく。


 静かになった室内で、レオンハルトは眠るリーンへ視線を戻した。


(あの魔力量……それに、周囲の魔道具まで共鳴させるほどの力か)


 これまでリーンが見せてきたものとは、明らかに違う。


 そして――


『こいつは十四年前の――』


 ロブが叫びかけた言葉が、耳から離れない。


 十四年前。リーンは、五歳。

 何かがあったとしか思えない。


 レオンハルトは眠るリーンへ視線を落とした。


「……お前に、何があったんだ」


 当然、答えは返ってこなかった。



次回は明日の夜です。

宜しくお願いします。(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。