↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/3章 封じられていた記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/84

ep.27 消えたリーン


   ◇ ◇


「……まったく。手間をかけさせやがって」


 倒れたリーンを見下ろし、侍女が小さく呟いた。


 周囲を確認する。人影はない。すぐ近くには、あらかじめ用意しておいたワゴンが置かれていた。

 上段には使い終えた茶器。布巾と菓子の残り。


 どこから見ても、茶会の片付けを終えた侍女のワゴンにしか見えない。

 だが、その下部には人一人を隠せるほどの箱が仕込まれていた。


 侍女はリーンをその中へ押し込む。蓋を閉め、その上から布をかければ、中に人がいるとは分からない。侍女は何事もなかったかのように、ワゴンを押し始めた。


     ◇ ◇


「あら?」


 王城の回廊を歩いていた一人の令嬢が、足を止めた。カイエルの婚約者、エステリーゼだった。


 向こうから侍女がワゴンを押してくる。侍女はエステリーゼの姿に気づくと、廊下の端へ寄り、深く頭を下げた。エステリーゼはその横を通り過ぎながら、ふとワゴンへ目を向けた。


「……お茶会?」


 茶器が載っている。


「この時間に、どなたかお茶会をなさっていたかしら……」


「エステリーゼ様?」


 後ろを歩く侍女に呼ばれ、我に返る。


「……いいえ。なんでもないわ」


 今日は城内で会合も多い。自分の知らない予定の一つや二つ、あってもおかしくはない。

 エステリーゼは再び歩き出した。


 けれど――


 ほんの小さな違和感だけが、胸の片隅に残った。


     ◇ ◇


「――どういうことだ」


 低い声が、控室に響いた。レオンハルトが戻ってきた時、そこにリーンの姿はなかった。


「私が聞きたいですよ」


 アルヴィンの顔からも、いつもの笑みが消えている。


「薬術院から書類の確認を頼まれ、ほんの数分、隣室へ行きました。戻った時には、リーンさんはいませんでした」


 アルヴィンは、控室の扉を警備していた兵士へ視線を向ける。


「私が不在の間、誰が来た?」


「は、はい! 殿下からの言付けだと、侍女がやってきました。団長の執務室へ来るよう、リーン殿の案内を頼まれたと」


「なんだと」


「レオン。さらに、おかしなことが」


 アルヴィンの声が低くなる。


「隣室へ行ってみれば、我が黒曜騎士団への納品書類ではなく、兵団用の書類でした。何者かが、なぜか私を名指しして、署名をもらうよう指示したそうです」


 その口調には、してやられたことへの一抹の悔しさが滲んでいた。


「……」


 レオンハルトの顔から、表情が消えた。


「薬術院へ確認を」


「すでに」


 アルヴィンが答える。


「そのような指示は出していないそうです」


 空気が変わった。


「城門を閉じろ」


 レオンハルトの声が響く。


「グレン。今すぐ指示してこい」


「はい!」


 執務室から同行していたレオンハルトの従者、グレンが部屋を飛び出していく。


「城内にいる騎士を動かせ。侍女服の女を探せ。リーンを見た者も全員洗い出せ」


「了解!」


 同行していた騎士たちも、一斉に走り出した。


 レオンハルトは拳を握る。


 ――あの時、胸をよぎった、あの感覚。


『……リーン?』


 気のせいではなかった。


 あれは――リーンだった。


「……くそっ」


「レオン」


 アルヴィンの声にも、レオンハルトは振り返らなかった。


 その時だった。


「何事だ」


 王太子カイエルが姿を現した。その隣には、婚約者であるエステリーゼもいる。


「殿下」


 レオンハルトが振り返る。


「リーンが消えました」


「何?」


 短く事情を説明すると、カイエルの表情が険しくなった。


「待て。私はお前に聴取の報告を求めたが、その後、リーンを呼ぶような指示は出していない」


「承知しています」


「それから、その薬の書類とやらも――」


「薬術院側は用意していないとのことです」


 アルヴィンが答えた。


「最初から、我々をリーンから引き離すために……」


「……待って頂戴」


 エステリーゼが声を上げた。全員の視線が集まる。


「私、おかしなものを見たわ」


「おかしなもの?」


「少し前に、侍女がワゴンを押しているのを見ましたの。茶器が載っていたから、お茶会の片付けだと思ったのだけれど……」


 そこまで言って、エステリーゼの表情が変わった。


「てっきり何か予定が変わったのかと思いましたが、この時間、王城でお茶会の予定なんてありまして?」


 カイエルが眉を寄せる。


「……ないな」


 レオンハルトが即座に問う。


「ワゴンはどちらへ」


「西回廊の方よ」


「西門……」


 アルヴィンが呟く。レオンハルトはすでに歩き出していた。


「レオン!」


「追うぞ」


「待ってください。西門を出たとしても、その先のどこへ向かったかまでは――」


「――分かる」


「……何?」


 アルヴィンが聞き返すもレオンハルトは答えず、意識を集中させた。


 微かだが――繋がっている。城へ来る前。リーンの髪を結ぶリボンに、念のため仕込んでおいた術式。

その反応が、確かに西へと動いている。


「西だ」


「なぜ分かるんです?」


「あとで話す」


「……分かりました」


 アルヴィンも、それ以上は追及しなかった。


「急ぐぞ」


 レオンハルトが駆け出そうとして――ふと、足を止めた。


「……?」


 無意識に剣の柄へ手を伸ばす。指先に触れたのは、今朝、リーンから贈られたばかりの飾り紐。


『私も、レオン様には無事でいてほしいです』


 なぜ今、その言葉を思い出したのか、分からない。


 ただ――


 リーンどこだ、どこにいる。無事でいろ。


 その瞬間。


「――っ!」


 魔力が、微かに脈打った。

 レオンハルトが眉を寄せる。


 追跡のために仕込んだ術式とは、何かが違う。

 ほんの一瞬だけ、自分の中から何かが伸びていくような、不思議な感覚があった。


 そして――


 剣の柄に結ばれた飾り紐が、僅かに温かいような気がした。


「レオン?」


「……いや」


 今は考えている場合ではない。術式の反応は、まだ西へ向かっている。


「西門へ向かう。馬を用意させろ」


「すぐに」


 アルヴィンが近くの騎士へ指示を飛ばす。


「急ぐぞ」


 レオンハルトは西門へ向かって駆け出した。


 ――守ると誓ったんだ。必ず、助ける!


リーンの奪還へ向かうレオン。

色々なものが紐付かれていきます。


次回は明日か、明後日の夜になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。