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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

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ep.22 再会と消えない違和感

やらかしました!

先に23話を先に投稿してしまいました。(泣)

再度、どちらも読んでもらえると嬉しいです!


第2章も残りあと2話です。

カインが照れ隠しのように鼻を掻いたあと、場の空気が少し落ち着きを取り戻した頃。


 ジルがふと真剣な顔になり、リーンへ向き直った。


「なあ、リーン」


「はい?」


「カインが倒れた時、何かあったか教えてくれ」


 その一言に、和やかだった空気がすっと引き締まる。


 リーンは少し考え込むように視線を落とした。


「実は、カインさんを治療した時に、一つだけ気になったことがあるんです」


「気になったこと?」


「怪我自体は治せました。でも、ごく微かに……今まで感じたことのない魔力の残滓のようなものを感じました」


 言葉を選ぶように続ける。


「いえ……正確には、その前です」


「待て」


 リーンが続きを口にしようとした瞬間、ジルが片手を上げて制した。


「リーン」


 その表情から笑みは消え、真剣な眼差しが向けられる。


「お前は昔から勘が鋭い。しかも、お前が『何かおかしい』と言う時は、大体、核心に近い」


 部屋に緊張が走る。


 ジルは隣に立つ女性へ視線を向けた。


「セレナ、あれを」


「ええ」


 セレナは静かに頷くと、杖を軽く掲げた。


「──《サイレント・ドーム》」


 淡い光が部屋全体を包み込み、すぐに静かに溶けていく。


「これで外へは声は漏れないわ」


 セレナは優しく微笑んだ。


「リーンちゃん、ひとまず安心して。でも、話せる範囲でいいからね」


「……ありがとうございます」


 リーンはほっと胸を撫で下ろす。


「考えが及ばず、すみません。助かります」


 そう言って、そっとアイリスへ視線を向ける。

 アイリスは小さく頷いた。その仕草だけで十分だった。


 ――この範囲なら話しても問題ありません


 そう受け取ったリーンは、胸元のペンダントへそっと触れた。


ローウェンから「肌身離さず持っていろ」と言われた大切なペンダント。

その温もりを確かめるように握りしめると、不思議と心が落ち着いていく。


リーンは一つ息を吸い、静かに口を開いた。


「実は、その違和感を最初に覚えたのは、王立薬館だったんです」


その一言で、部屋の空気が凍りついた。


 ジルとガイアスが、無言のまま視線を交わす。


「……おいおい」


ジルが額に手を当て、小さく息を吐く。


「よりにもよって、一番厄介な名前が出てきたな」


 ガイアスも腕を組み、静かに頷いた。


「王立薬館は王家の認可を受けた薬だけを扱う機関だ。薬術院が絡んでいる。軽々しく疑える相手じゃない」


 リーンは驚いたように二人を見る。


「そ、そんなつもりじゃ……」


「分かってる」


 ジルは首を横に振った。


「だからこそ慎重になるんだ。もし、お前の感じた違和感が本物なら――この件は、王都全体を揺るがしかねない」


 重い沈黙が部屋を包み、リーンの言葉に、ジルとガイアスは互いに視線を交わし、ガイアスが神妙な顔で話しだした。


「これはお嬢ちゃんだから話すが…最近あちこちで急に倒れたり、命を落とすやつが現れている。密かに調査して、国に報告をあげる予定だったんだ。まさかこんな糸口が見つかるとはなぁ」


 やがてジルは大きく息を吐き、アイリスへ視線を向けた。


「……そろそろ聞いてもいいか?」


「はい」


「アンタは何者だ?」


 アイリスは一歩前へ進み、スカートの裾をつまんで優雅に一礼する。


「失礼いたしました。自己紹介が遅れました。私はガーディナス公爵家に仕えております、リーン様の専属侍女アイリス・フォルネストと申します」

その名を聞いた瞬間、ジルの目が僅かに見開かれた。


「アイリス……まさか、蒼風の――」


「わたくしには、要らぬ名です」


柔らかな声のまま、アイリスがその先を静かに遮った。微笑みは崩れない。だが、それ以上の追及を許さない響きがあった。


ジルは口を閉じ、一瞬だけ何かを察したように目を細めた。


「……そうか。悪かったな」


「いいえ」


 アイリスは変わらぬ笑みで一礼する。


「本日のお話をここまでお伝えしたのは、皆様がSランクパーティ《紅狼(こうろう)の牙》であり、リーン様が信頼を寄せる方々であること。そして、レオンハルト様より、いずれ皆様へご協力をお願いする可能性があると判断したためです」


 ジルたちは黙って耳を傾ける。


「そして、現在リーン様は保護対象となっております。これ以上の情報開示は、私の一存ではお答えできません」


 その声音には、侍女というより護衛としての厳しさが滲んでいた。


「なるほどな」


 ジルは腕を組み、小さく笑う。


「十分だ。それだけ聞けりゃ、こっちも動きやすい」


 ガイアスも静かに頷いた。


「依頼が来るなら、受ける準備だけはしておこう」


 アイリスは深く一礼する。


「ありがとうございます。詳細につきましては、後日改めて正式な依頼という形でご連絡させていただきます」


 その時――


 コンコン


 応接室の扉が静かに叩かれた。


「失礼いたします」


 ギルド職員が扉を開け、恭しく頭を下げる。


「ガーディナス家より、お迎えの馬車が到着しております」


 アイリスはリーンへ優しく微笑んだ。


「リーン様、お迎えが参りました」


「はい」


 アイリスに促され、リーンは迎えの馬車へ乗り込む。


 扉が閉まり、馬車がゆっくりと動き出した。


「おーい!」


 ジルが片手を大きく振り、豪快に笑った。


「氷蒼様にもよろしくな!」


 馬車の中には誰の姿も見えない。それでも、ジルの視線は馬車の奥まで見透かしているようだった。


「え……?」


 突然の言葉に、リーンは思わず振り返る。


 ジルは意味ありげにニヤリと笑い、それ以上は何も言わず手を振っていた。


首を傾げながら馬車の中へ視線を戻したリーンは、思わず息を呑む。


「……レオン様!?」


 向かいの座席には、腕を組んだレオンハルトが静かに座っていた。


 扉を開けた瞬間には、気配すら感じなかった。まるで、その場に誰もいないかのように。


「お帰り」


 短く告げるその声に、リーンは目を丸くする。


「今……全然気づきませんでした。どうして……?」


「気配を消す魔法だ」


 レオンハルトは淡々と答える。


「護衛や潜入任務では、珍しくない」


「そんな魔法があるんですね……」


 リーンは素直に感心したように呟く。


「便利だが、長時間は維持できない」


 そう言ってレオンハルトは肩をすくめた。


「こういう時くらいしか使わない」


 短く告げるその声に、リーンは目を丸くする。


「迎えに来てくださったんですか?」


「あぁ。街中で騒ぎになるから、この方法が一番都合がいいんだ」


 そう言って、レオンハルトはリーンの様子を一瞥する。


「……何事もなかったようだな」


「はい。ジル達とお話ししていただけです」


 隣ではアイリスが一礼した。


「レオン様。ジル様は何やら気づいていた様子でした。詳しくは正式に依頼した時に、とお伝えしてあります。」


「ああ、ご苦労」


 レオンハルトは小さく頷くと、ふと窓の外へ視線を向けた。


     ◇


 馬車が走り去る。


 建物の屋根の上、黒いローブの人物が一人、その様子を見下ろしていた。


「……」


 静かに馬車を見送る。


 ローブの下から覗く手には、古びた紙片が握られている。


 かすかに透けて見えるのは、幼い少女の似姿と、精霊を思わせる紋様だった。


「……十四年、か」


 低く呟く声には、感情の色がほとんどなかった。


「…ようやく見つけた」


その姿は、誰にも気付かれることなく闇へ消えた。

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