ep.20 リリアの雫
少しずつ不穏な足跡がみえてきます。
王立薬館を後にし、馬車止めへ向かって歩いていた、その時だった。
「……っ」
視界の端に、一人の男性が石畳へ崩れ落ちる姿が映った。
「大丈夫ですか!」
リーンは反射的に駆け寄る。
男性は革鎧を身に着けた冒険者らしい風貌だったが、長い金髪が顔に掛かり、表情まではよく見えない。
肩で苦しそうに息をし、呼び掛けにも反応はない。
リーンは状態確認のために魔法診断をした。
「《ディアグノス》」
淡い光が男性の身体を包み込む
体内状態――異常無し。
魔力循環――異常。
呪毒反応――なし。
状態異常――魔力汚染(微々・未知)。
「……!」
(これは…魔力が乱れてる!)
リーンの胸がざわつく。
この乱れ方――。
王立薬館で感じた、あの嫌な魔力とよく似ている。
それに、レオン様と同じ反応!
(やっぱり……偶然じゃない?)
「アイリスさん、この方を支えてください!」
「承知しました」
リーンは腰に下げたクリスタル小瓶を取り出した。
淡い青白い薬液が、陽の光を受けて静かに揺れる。
(持っていてよかった……)
レオンハルトのために調合した際、念のため多めに作っておいた薬。リーンは小瓶を包み込むように両手を添え、静かに魔力を流し込んだ。
「どうか……」
蒼金色の光が薬液へ溶け込んでいく。
薬を男性へ飲ませると、数秒後――
「……っ!」
苦しそうだった呼吸が少しずつ落ち着いていった。
「よかった……」
リーンは安堵の息を漏らす。
しかし、男性はまだ目を覚まさない。
「呼吸は安定しています。ですが、このまま安静にした方が良さそうですね」
その頃には、周囲にも人だかりができ始めていた。
「誰か倒れたぞ!」
「冒険者じゃないか?」
一人の男性が腰に下げられた銀色の牙の徽章を見て目を見開く。
「紅狼の牙の紋章だ!」
その言葉に周囲がどよめく。
「早く冒険者ギルドへ知らせろ!」
「担架を!」
街の人々は慣れた様子で動き始めた。
リーンはその光景を見て、小さく息を吐く。
(すごい……。王都の人たち、連携が早い)
やがて担架が運ばれ、男性は冒険者ギルドへ運ばれることになった。
アイリスがリーンへ視線を向ける。
「リーンさん。どうしますか」
リーンは少しだけ迷った。薬の効き目を最後まで確認したい。
それに、この魔力の乱れも気になる。
「……すみません。症状が気になるのでギルドへ行ってもいいですか」
アイリスは静かに頷いた。
「では、公爵家には私から連絡を入れておきます」
「ありがとうございます!」
◇ ◇
――王都冒険者ギルド
重厚な扉が開くと、中にいた冒険者たちが一斉に振り返った。
「担架だ!」
「何があった!?」
騒然となるギルド内。受付の女性が駆け寄り、顔色を変える。
「まさか……!カインさん!?」
その名前に、リーンは小さく首を傾げた。
(カイン……?どこかで聞いたことがあるような……)
記憶の奥に引っ掛かる。
けれど、思い出せない。
その時だった。
「カイン!!」
ギルドの奥から、勢いよく飛び出してくる一人の女性。
燃えるような赤い長髪を揺らし、人混みを押し分けて駆け寄る。
「おい! しっかりしろ!」
さらにその後ろから、紫髪の女性と、大柄な男性が続いた。三人とも、心配そうな表情で担架を囲む。
そのまま医務室へ向かう光景を見て、リーンは思う。
(きっと、大切な仲間なんだ)
そして最後に、ゆっくりと歩いてきた大男が口を開く。
「……みな、仕事へ戻れ!あいつは大丈夫だ!」
落ち着いた低い声。
ギルド中が、その一言で動き始める。
リーンは自然と、その人物へ視線を向けた。
大男はリーンへ軽く一礼する。
「俺はこのギルド長のガイアスだ。君が助けてくれたそうだな。詳しい話は医務室で聞かせてもらえるか」
(この人が……冒険者ギルドのギルドマスター)
リーンも一礼を返した。
「はい」
久々の《ディアグノス》→魔力の流れや体調などの鑑定魔法です
すみません、朝にアップができれば7時に。
間に合わなかったらすみません、21時になります!




