ep.19 お揃いリボン
可愛いヴィちゃんに癒されてください。
すみません誤字で、「薬店」→「王立薬館」に修正しました。
「リーン姉さま!」
両手いっぱいにリボンを抱えたヴィクトリアが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「このリボンと、このリボン……どちらがダイアナに似合うと思いますか?」
王都でも評判の貴族御用達のブティック。色とりどりのリボンを前に、ヴィクトリアは目を輝かせていた。
黒猫のぬいぐるみ――ダイアナを抱きしめながら、嬉しそうにこちらを見上げてくる。
(……可愛い)
「うーん……私は、こっちの水色かな。ヴィちゃんの瞳にも似ていて、とっても素敵だと思うよ」
「ほんとう!?」
ぱっと花が咲くような笑顔。その笑顔を見るたびに、リーンも自然と頬が緩んでしまう。
(2〜3日前までは「ヴィクトリア様」だったのになぁ……)
そんなことを思い出し、リーンは小さく笑った。
◇
『リーン姉さまって呼んでもいいですか? わたくしのことも……ヴィって呼んでくださいまし』
昨日もお呼ばれしたお茶会で、おもてなしをしてくれた小さな主人から、可愛いお願いをされたのだ。
『それじゃあ……ヴィちゃん』
◇
「リーン姉さま?」
「あっ、ごめんごめん」
「あの、リーン姉さまとお揃いのも選んで欲しいの」
ちょっと照れながら、これまた可愛いおねだりだ。
「ふふふ、リーンさん。お揃いリボンはヴィの憧れなのよ。良かったら、私からこの子の願いを叶えるために、二人にプレゼントさせてくれないかしら」
ソファーに座って様子を見ていたエミリアから声をかけられた。
「こちらこそ、その、本当にいいのでしょうか?」
「もちろんよ。私も楽しいわ、可愛い娘二人を着飾れるなんて」
「ありがとうございます!」
社交界の華と称されるエミリアからの提案を、断れるはずもなかった。ヴィクトリアとお揃いになれることが、リーンには何より嬉しかった。
◇ ◇
「……つ、疲れた……」
街中で、最近人気があるというカフェにいた。
「大丈夫ですか? リーンさん」
「アイリスさん、大丈……夫じゃないかも。貴族の人って体力あるのね……」
遠い目をして、怒涛の三時間を振り返る。
ヴィクトリアとのお揃いリボン。楽しい気持ちで選んでいたはずのリボン選びが、いつの間にか自分の着せ替え人形タイムになっていた。
『まぁ、可愛いわ! でも……もう少し袖は膨らまないタイプがいいわね。リーンさんは細身だから、もう少し高い位置でのエンパイアシルエットの方が可愛らしいわ。それと――』
『リーン姉さま! 次はこっちよ』
気づけば、滞在用だといって数着のデイドレス、夜用のドレス、薬を作る作業用のエプロン、アクセサリー、靴……。現実逃避したくなるような買い物になっていた。
リボンは最初にヴィクトリアが持ってきた水色を選んだ。
青みがかった花の刺繍に、ラピスラズリ色の糸が美しく映える上品な一本。
気が付けば、リーンとヴィクトリアの手には、どこかよく似た二本のリボンがあった。
「おそろい……ですわ!」
澄ました声で言おうとしたのに、途中で我慢できなくなったのか、ヴィクトリアはぱっと顔を輝かせた。
「おそろい! ねえ、みて! おそろいなの!」
先ほどまでの淑女らしい話し方はどこへやら、すっかり無邪気な四歳児の顔になっている。
そのギャップに、リーンは思わず頬を緩めた。
(ふふ、可愛い……お揃いなんて、この世界で初めてだわ)
少し離れた場所では、エミリアが二人の様子を満足そうに見つめ、静かに微笑んでいた。
ガーディナス家では古くから、お揃いのリボンを贈る習わしがあるという。
そこには――
『大切な者を護る証』
そんな想いが込められている。
その意味を知るのは、もう少し先のことだった。
◇ ◇
エミリアとヴィクトリアは、茶会用の新しい食器の展示会を見に行くという。リーンは気後れすること間違いなしのため、遠慮させてもらった。もとよりそういう手はずだった。
「師匠に何か贈りたい」という名目のもと、王都でしかお目にかかれない王立薬館へ連れて行ってもらい、後で合流する予定になっている。
だが、想像以上の買い物で体力を使い果たしたリーンを見かねて、アイリスがカフェに寄ってくれたのだった。
「まぁ! それが例のリリアの雫? 素敵ね〜」
「そうなの! やっと手に入ったのよ」
店内の奥まった席で、声が大きくなってしまったのか、二人の女性がキラキラとした顔で話をしていた。
「リリアの雫?」
「あぁ、最近、王都で流行っているみたいですね。何でも飲み続けることで、健康になるとか。肌の張りが良くなったり、身体の動きを助ける働きがあると聞きました」
――さすが公爵家の侍女、事情通だ。
「そうなんですね、初めて聞きました」
(それにしても……そんな効果のある薬、聞いたことあったかな。成分は何なんだろう。師匠なら知っているかも)
薬草のことになると、とたんに考え込んでしまうリーンに、アイリスは苦笑しながら促した。
「薬というか、健康補助薬みたいなものですからね。さぁ、リーンさん、そろそろ店に向かいましょうか」
「はい、行きましょう!」
なんとなく気になって、もう一度、奥にいる二人をちらりと見てから、王立薬館へ向かった。
美容と健康にはお金がかかるのはなぜでしょう。
一つ言えるのは、「麦茶は最高」です。
熱中症にお気をつけください。




