ep.18 異変の足跡
まだまだ続きます。
楽しみにしていただけたら嬉しいです(*^^*)
ルシアンの一言で、応接間の空気が張り詰めた。
そして、ルシアンが手元に置いた魔道具に魔力を通すと、部屋全体に漏洩防止の魔法陣が展開された。
「実は、まだ城へは正式な報告を上げていない」
レオンハルトは静かに頷く。
「何があったのです」
ルシアンは机の上に一冊の報告書を置いた。
「領地で、原因不明の体調不良が相次いでいる。症状は様々だ。魔法が上手く使えなくなる者、身体に力が入らない者、歩くことすら困難になる者、高熱も咳もない。それなのに、日に日に衰弱していく」
レオンハルトの眉が僅かに動く。
「病ではないと」
「ああ」
「医師も薬術師も首を傾げている」
ルシアンは報告書を一枚めくった。
「さらに重症者になると――」
その声が少しだけ低くなる。
「身体中の水分を奪われたように干からびた状態で発見される」
セドリックの表情が曇る。
「そのような症例は聞いたことがございません」
「俺もだ」
ルシアンは静かに頷いた。
「そこで、お前の件を調査していた者にも確認させた。結果は―」
チラリと報告書に目を向けた。
「お前と同じ……汚染された魔力反応が検出された」
レオンハルトは息を呑む。
「やはり……」
「まだ断定はできない。だが、偶然とは思えん」
応接間に静寂が落ちる。
その沈黙を破ったのはレオンハルトだった。
「兄上。こちらも殿下にしか奏上していない内容があります。ガーディナス家として動く可能性があるため、殿下より共有の許可はいただいております」
ルシアンは静かに頷く。
「聞こう」
「俺を襲った魔物は」
一呼吸置いて、レオンハルトはルシアンと目を合わせた。
「レッドウルフの変異種でした」
ルシアンが目を見開く。
「……何だと」
セドリックも思わず息を呑んだ。
「レッドウルフの変異種など……文献でも見た記憶がございません」
レオンハルトは静かに続ける。
「戦闘能力だけなら問題ありませんでした。ですが、一太刀受けた瞬間から異変が起きました」
レオンハルトは己の手を見ながらつぶやいた。
「魔力が……身体から吸い上げられていくような感覚でした」
部屋が静まり返る。
「動こうとしても動けない。剣を振るたびに身体が重くなる。アルヴィン達へ緊急救援魔法を送るのが精一杯でした」
「よく生きて帰れたものだ……」
ルシアンが小さく呟く。
レオンハルトは首を横に振った。
「帰れてはいません。リーンと出会わなければ、俺はあの森で命を落としていました」
セドリックが静かに目を閉じる。
あの少女が、王国最強の騎士を救った。
その事実の重さを改めて噛み締める。
ルシアンは腕を組み、しばらく考え込んでいた。
そして再び報告書へ目を落とす。
「実はもう一つ、奇妙な共通点が見つかった」
「共通点……?」
「ああ」
「倒れた者たちは、皆ある健康薬を服用していた」
レオンハルトが顔を上げる。
「健康薬……」
「王都で近頃評判になっている薬だ。薬術院も推奨しているらしい」
ルシアンはゆっくりと言葉を続けた。
「その名は――リリアの雫」
レオンハルトの瞳が鋭く細められる。
「リリアの雫……」
「もちろん、それだけで断定はできん。服用しても何ともない者も大勢いる、だが―」
ルシアンはすっと目を細めた
「他に共通点が見つからない以上、調べる価値はある」
ルシアンはレオンハルトを真っ直ぐ見つめた。
「そして、大きな声では言えんが……この薬を広めたのは、薬術院ではないかと見ている」
「!!」
応接間を、重苦しい沈黙が包み込んだ。
王国の民を救うはずの薬術院。
その名が疑惑として浮かび上がるなど、誰一人として望んでいなかった。
次回、本日の21時予定です。
宜しくお願いします。




