ep.17 守るべきもの
レオンの兄一家、登場です。
やっとヴィを出すことができました。可愛い子の癒しは必要ですよね!
―夕食時
レオンが食器を置くと、リーンへ視線を向けた。
「今日はどうだった」
「えっ?」
「屋敷でのことだ」
リーンは少し考えたあと、ぱっと表情を明るくした。
「はい! 薬草園が本当に素敵でした!」
「育て方も見たことがない方法ばかりで……もう感動しました!明日も見に行ってもいいでしょうか?」
期待に満ちた瞳を向けられ、レオンは短く頷く。
「ああ。好きに使え」
「本当ですか!」
その一言だけで、リーンは花が咲いたような笑顔になった。
「ありがとうございます!」
その様子にエレノアは優しく微笑み、セドリックもどこか嬉しそうに目を細める。
「薬草がお好きなのですね」
「はい! 一日いても飽きないと思います!」
無邪気に答えるリーンを見て、レオンの喉の奥で、小さな笑いが止まった。
「そうか」
――その顔を、他の誰にも見せたことがない。レオン自身、そのことにまだ気づいていなかった。
その何気ない一言から始まった食卓での会話は、いつしか互いにその日の出来事を語り合う、二人の日課になっていくのだった。
そして、兄一家が戻れば『「ガーディナス様」では個人特定ができないだろう』というレオンハルトのもっともらしい理由で、リーンは「レオンハルト様」と呼ぶように言われるのであった。
内心、落ち着かない気持ちのリーンを置いて、エレノアを始め二人を密かに応援している使用人達は、心の中でガッツポーズをしていた。しかし、それを表情に出さないのは、さすが公爵家に仕える一流揃いならではであった。
―翌日の昼
馬車がゆっくりと正門をくぐり、ガーディナス公爵家の中庭へと入ってきた。
その様子を玄関ホールから眺めていたリーンは、小さく息を呑む。
「帰ってきた……」
昨日聞いていた通り、レオンハルトの兄、ルシアン一家が領地から戻ってきたのだ。
馬車の扉が開くと、最初に降り立ったのは、長い銀髪を揺らした青年。レオンハルトより幾分柔らかな雰囲気を纏いながらも、立ち居振る舞いには次期公爵としての風格が漂っている。
続いて、淡い桜色の髪を美しく結い上げた女性が姿を現した。
その後ろから、小さな女の子がぴょんと飛び降りる。
ふわりと揺れる銀色の髪。
ラピスラズリのように澄んだ青い瞳。
まるで妖精のような愛らしい少女だった。
「可愛い……」
「ヴィクトリア様です」
隣に立つアイリスが静かに教えてくれる。
ヴィクトリアは辺りを見回していたが、次の瞬間――
「あっ!」
ぱっと表情を輝かせた。
「レオおじさまーー!!」
小さな身体で一目散に駆け出していく。
レオンハルトは自然な動きでしゃがみ込み、その勢いのままヴィクトリアを抱き上げた。
「おかえり、ヴィ」
「ただいまです!」
ヴィクトリアは満面の笑みでレオンハルトの首へ抱きつく。
「おじさま、もういたいところない?」
「大丈夫だ」
「ほんと?」
「ああ」
レオンハルトはそう答えると、小さな頭を優しく撫でた。その表情は、城で見せていた騎士団長の顔とはまるで違う、柔らかく穏やかな笑み。
(えっ……。あのレオンハルト様が……笑ってる)
――でも、昨日食堂で見せた顔と、少し似ている。
リーンはそんなことを思いながら、思わず目を丸くした。
そんなリーンへ気付いたルシアンが歩み寄る。
「初めまして。私はルシアン・ガーディナス。レオンハルトの兄です」
リーンは慌てて頭を下げる。
「リーンと申します!この度は大変お世話になっております!」
ルシアンは穏やかに首を振った。
「こちらこそ。弟の命を救ってくださったと聞いております。ガーディナス家を代表して、お礼申し上げます」
そう言って深く一礼する。
公爵家次期当主自ら頭を下げる姿に、リーンは慌てて両手を振った。
「そ、そんな!私は薬術師として当然のことをしただけです!」
その様子を見ていた女性も、優雅に一礼する。
「初めまして。エミリア・ガーディナスと申します。主人から、お話は伺っております」
柔らかな笑みに、リーンの緊張も少しずつほぐれていく。
「よろしくお願いいたします」
その時だった。
レオンハルトの腕の中にいたヴィクトリアが、じっとリーンを見つめている。
「……?」
視線はゆっくりと下へ移り、
リーンの腰に下げられたクリスタルの小瓶で止まった。
「きらきら……」
ヴィクトリアは夢中になったように呟く。
リーンは小さく笑った。
「これ?」
腰から小瓶を外して見せる。
「ほうせきさん?」
「ふふっ。これは宝石じゃないの。薬術師のお仕事道具なんだよ」
ヴィクトリアは興味津々な様子で見つめる。
けれど勝手に触ろうとはせず、ルシアンを見上げた。
「お父さま。さわっても、いい?」
ルシアンは優しく微笑み、リーンへ視線を向ける。
「リーン殿。娘が興味を持ったようです。差し支えなければ、少し見せていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんです!」
リーンは笑顔で小瓶を手渡した。
ヴィクトリアは両手で大切そうに受け取る。
「わぁぁ……つめたい……きれい……」
まるで宝物を見るような瞳。
その姿に、リーンも自然と頬が緩む。
やがてヴィクトリアは、名残惜しそうに小瓶を返した。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる姿が愛らしい。
リーンはしゃがみ込み、目線を合わせて微笑んだ。
「ヴィクトリア様。今度、ヴィクトリア様用に小瓶を作ってきてもいいでしょうか?」
「ほんと!?」
ぱっと花が咲いたような笑顔になる。
「やったぁ!」
エミリアが苦笑した。
「ヴィクトリア。リーン様を困らせてはいけませんよ」
「いえ」
リーンは優しく首を振った。
「私が作りたいんです。よろしければ、受け取ってください」
ルシアンは嬉しそうに微笑む。
「それでは、お言葉に甘えよう」
「はい、お任せください」
ヴィクトリアは今度はレオンハルトの腕から降りると、リーンへぎゅっと抱きついた。
「やくじゅつししゃん、だいすき!」
一瞬驚いたリーンだったが、すぐに優しく抱き返す。
「ふふっ。私もヴィクトリア様が大好きですよ」
その光景を見つめるレオンハルトの目元が、いつもよりわずかに優しい
それに気付いたルシアンとエミリアは小声で交わし合った。
「……珍しいな」
「えぇ、これは…ふふふ」
そんな会話がされていることなど知らず、レオンハルトはただ、リーンとヴィクトリアの笑顔を静かに見守っていた。
◇ ◇
―夕食を終えた頃
ガーディナス公爵家、ルシアンの執務室にある応接間には、ルシアン、レオンハルト、そしてセドリックの三人が集まっていた。
ルシアンは紅茶を一口含むと、愛娘の姿を思い出したのか、ふっと口元を緩める。
「それにしても、不思議な子だ。ヴィが初対面で、あれほど懐くとは思わなかった」
セドリックも穏やかに微笑んだ。
「えぇ。それはもう、明日さっそくリーン様をお茶会へお招きしたいと、大変張り切っておいででした。エレノアも、朝から準備をすると申しておりました」
なにかを思いだすかのように、目を細めてセドリックは続けた。
「何と申しますか……私どもも、すっかりリーン様がお屋敷におられることに慣れつつございます」
ルシアンは思わず笑みをこぼす。
「セドリック、お前たちもか。まぁ、一番不思議なのは、レオ、お前が女性を連れて来たことだがな」
レオンハルトは小さくため息をつく。
「兄上。殿下から命じられた任務だと言ったでしょう」
「あぁ、もちろん分かっている。だが、それを差し引いても、お前が自ら屋敷へ連れて来るとは思わなかっただけだ」
どこか面白そうに笑う兄を見て、レオンハルトは肩をすくめる。
するとルシアンが続けた。
「エミリアもすっかりリーン殿を気に入ったようでな。監視任務とはいえ……事が済んでも、簡単には帰してやれんかもしれん。なぁ、セドリック」
「さようでございます。アレクシス様とセレスティア様も、お戻りになれば、きっとお会いになりたがるでしょう」
「……なぜ父上と母上まで出てくるんだ」
ルシアンとセドリックは顔を見合わせる。
そして、お互いに小さく笑っただけで答えなかった。
レオンハルトは諦めたように息を吐く。
「さて」
ルシアンの声が、不意に低くなった。
「本題に入ろうか」
窓の外で、風が止んだ。
ルシアンは嫡男のため、時期公爵家当主。
だけどすでに当主代行もこなせるほどに手腕を発揮しています。
レオンよりは笑顔を見せるものの、周りへの圧の切り替えを器用にこなします(笑)
補足)
アレクシス・ガーディナス・・・・ガーディナス公爵家当主。レオン達の父親。
セレスティア・ガーディナス・・・・ガーディナス公爵家夫人。レオン達の母親。
どこかで出せたら、とは思っています!




