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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

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ep.17 守るべきもの

レオンの兄一家、登場です。

やっとヴィを出すことができました。可愛い子の癒しは必要ですよね!




―夕食時


レオンが食器を置くと、リーンへ視線を向けた。


「今日はどうだった」


「えっ?」


「屋敷でのことだ」


リーンは少し考えたあと、ぱっと表情を明るくした。


「はい! 薬草園が本当に素敵でした!」


「育て方も見たことがない方法ばかりで……もう感動しました!明日も見に行ってもいいでしょうか?」


期待に満ちた瞳を向けられ、レオンは短く頷く。


「ああ。好きに使え」


「本当ですか!」


その一言だけで、リーンは花が咲いたような笑顔になった。


「ありがとうございます!」


その様子にエレノアは優しく微笑み、セドリックもどこか嬉しそうに目を細める。


「薬草がお好きなのですね」


「はい! 一日いても飽きないと思います!」


無邪気に答えるリーンを見て、レオンの喉の奥で、小さな笑いが止まった。


「そうか」


――その顔を、他の誰にも見せたことがない。レオン自身、そのことにまだ気づいていなかった。

その何気ない一言から始まった食卓での会話は、いつしか互いにその日の出来事を語り合う、二人の日課になっていくのだった。


そして、兄一家が戻れば『「ガーディナス様」では個人特定ができないだろう』というレオンハルトのもっともらしい理由で、リーンは「レオンハルト様」と呼ぶように言われるのであった。


内心、落ち着かない気持ちのリーンを置いて、エレノアを始め二人を密かに応援している使用人達は、心の中でガッツポーズをしていた。しかし、それを表情に出さないのは、さすが公爵家に仕える一流揃いならではであった。



―翌日の昼


馬車がゆっくりと正門をくぐり、ガーディナス公爵家の中庭へと入ってきた。

その様子を玄関ホールから眺めていたリーンは、小さく息を呑む。


「帰ってきた……」


昨日聞いていた通り、レオンハルトの兄、ルシアン一家が領地から戻ってきたのだ。

馬車の扉が開くと、最初に降り立ったのは、長い銀髪を揺らした青年。レオンハルトより幾分柔らかな雰囲気を纏いながらも、立ち居振る舞いには次期公爵としての風格が漂っている。


続いて、淡い桜色の髪を美しく結い上げた女性が姿を現した。

その後ろから、小さな女の子がぴょんと飛び降りる。


ふわりと揺れる銀色の髪。

ラピスラズリのように澄んだ青い瞳。

まるで妖精のような愛らしい少女だった。


「可愛い……」


「ヴィクトリア様です」


隣に立つアイリスが静かに教えてくれる。


ヴィクトリアは辺りを見回していたが、次の瞬間――


「あっ!」


ぱっと表情を輝かせた。


「レオおじさまーー!!」


小さな身体で一目散に駆け出していく。


レオンハルトは自然な動きでしゃがみ込み、その勢いのままヴィクトリアを抱き上げた。


「おかえり、ヴィ」


「ただいまです!」


ヴィクトリアは満面の笑みでレオンハルトの首へ抱きつく。


「おじさま、もういたいところない?」


「大丈夫だ」


「ほんと?」


「ああ」


レオンハルトはそう答えると、小さな頭を優しく撫でた。その表情は、城で見せていた騎士団長の顔とはまるで違う、柔らかく穏やかな笑み。


(えっ……。あのレオンハルト様が……笑ってる)


――でも、昨日食堂で見せた顔と、少し似ている。

リーンはそんなことを思いながら、思わず目を丸くした。


そんなリーンへ気付いたルシアンが歩み寄る。


「初めまして。私はルシアン・ガーディナス。レオンハルトの兄です」


リーンは慌てて頭を下げる。


「リーンと申します!この度は大変お世話になっております!」


ルシアンは穏やかに首を振った。


「こちらこそ。弟の命を救ってくださったと聞いております。ガーディナス家を代表して、お礼申し上げます」


そう言って深く一礼する。


公爵家次期当主自ら頭を下げる姿に、リーンは慌てて両手を振った。


「そ、そんな!私は薬術師として当然のことをしただけです!」


その様子を見ていた女性も、優雅に一礼する。


「初めまして。エミリア・ガーディナスと申します。主人から、お話は伺っております」


柔らかな笑みに、リーンの緊張も少しずつほぐれていく。


「よろしくお願いいたします」


その時だった。


レオンハルトの腕の中にいたヴィクトリアが、じっとリーンを見つめている。


「……?」


視線はゆっくりと下へ移り、


リーンの腰に下げられたクリスタルの小瓶で止まった。


「きらきら……」


ヴィクトリアは夢中になったように呟く。


リーンは小さく笑った。


「これ?」


腰から小瓶を外して見せる。


「ほうせきさん?」


「ふふっ。これは宝石じゃないの。薬術師のお仕事道具なんだよ」


ヴィクトリアは興味津々な様子で見つめる。


けれど勝手に触ろうとはせず、ルシアンを見上げた。


「お父さま。さわっても、いい?」


ルシアンは優しく微笑み、リーンへ視線を向ける。


「リーン殿。娘が興味を持ったようです。差し支えなければ、少し見せていただいてもよろしいでしょうか」


「もちろんです!」


リーンは笑顔で小瓶を手渡した。


ヴィクトリアは両手で大切そうに受け取る。


「わぁぁ……つめたい……きれい……」


まるで宝物を見るような瞳。


その姿に、リーンも自然と頬が緩む。


やがてヴィクトリアは、名残惜しそうに小瓶を返した。


「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げる姿が愛らしい。


リーンはしゃがみ込み、目線を合わせて微笑んだ。


「ヴィクトリア様。今度、ヴィクトリア様用に小瓶を作ってきてもいいでしょうか?」


「ほんと!?」


ぱっと花が咲いたような笑顔になる。


「やったぁ!」


エミリアが苦笑した。

「ヴィクトリア。リーン様を困らせてはいけませんよ」


「いえ」


リーンは優しく首を振った。


「私が作りたいんです。よろしければ、受け取ってください」


ルシアンは嬉しそうに微笑む。

「それでは、お言葉に甘えよう」


「はい、お任せください」


ヴィクトリアは今度はレオンハルトの腕から降りると、リーンへぎゅっと抱きついた。


「やくじゅつししゃん、だいすき!」


一瞬驚いたリーンだったが、すぐに優しく抱き返す。


「ふふっ。私もヴィクトリア様が大好きですよ」


その光景を見つめるレオンハルトの目元が、いつもよりわずかに優しい


それに気付いたルシアンとエミリアは小声で交わし合った。


「……珍しいな」


「えぇ、これは…ふふふ」


そんな会話がされていることなど知らず、レオンハルトはただ、リーンとヴィクトリアの笑顔を静かに見守っていた。



      ◇ ◇


―夕食を終えた頃


ガーディナス公爵家、ルシアンの執務室にある応接間には、ルシアン、レオンハルト、そしてセドリックの三人が集まっていた。


ルシアンは紅茶を一口含むと、愛娘の姿を思い出したのか、ふっと口元を緩める。


「それにしても、不思議な子だ。ヴィが初対面で、あれほど懐くとは思わなかった」


セドリックも穏やかに微笑んだ。


「えぇ。それはもう、明日さっそくリーン様をお茶会へお招きしたいと、大変張り切っておいででした。エレノアも、朝から準備をすると申しておりました」


なにかを思いだすかのように、目を細めてセドリックは続けた。

「何と申しますか……私どもも、すっかりリーン様がお屋敷におられることに慣れつつございます」


ルシアンは思わず笑みをこぼす。


「セドリック、お前たちもか。まぁ、一番不思議なのは、レオ、お前が女性を連れて来たことだがな」


レオンハルトは小さくため息をつく。


「兄上。殿下から命じられた任務だと言ったでしょう」


「あぁ、もちろん分かっている。だが、それを差し引いても、お前が自ら屋敷へ連れて来るとは思わなかっただけだ」


どこか面白そうに笑う兄を見て、レオンハルトは肩をすくめる。


するとルシアンが続けた。


「エミリアもすっかりリーン殿を気に入ったようでな。監視任務とはいえ……事が済んでも、簡単には帰してやれんかもしれん。なぁ、セドリック」


「さようでございます。アレクシス様とセレスティア様も、お戻りになれば、きっとお会いになりたがるでしょう」


「……なぜ父上と母上まで出てくるんだ」


ルシアンとセドリックは顔を見合わせる。

そして、お互いに小さく笑っただけで答えなかった。


レオンハルトは諦めたように息を吐く。


「さて」

ルシアンの声が、不意に低くなった。


「本題に入ろうか」


窓の外で、風が止んだ。


ルシアンは嫡男のため、時期公爵家当主。

だけどすでに当主代行もこなせるほどに手腕を発揮しています。

レオンよりは笑顔を見せるものの、周りへの圧の切り替えを器用にこなします(笑)


補足)

アレクシス・ガーディナス・・・・ガーディナス公爵家当主。レオン達の父親。

セレスティア・ガーディナス・・・・ガーディナス公爵家夫人。レオン達の母親。

どこかで出せたら、とは思っています!


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