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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

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ep.16 薬草園

新たな出会いの回です。

薬草園と聞いてから、胸の奥にあった重苦しさが少しずつ薄らいでいくのを感じた。


(我ながら現金かも……ハハ)


リーフェ村では本の中でしか見たことのない薬草を、この目で見られる。

そう思うだけで、期待と胸の高鳴りを抑えきれなかった。


少し前を歩くアイリスの後についていくと、ほどなくして屋敷の東側にある緑豊かな一角へと辿り着く。美しく手入れされた庭園を抜けた先には、まるで森のように木々が生い茂る景色が広がっていた。その木々を背に、ひときわ大きなガラス張りの温室が静かに佇んでいる。まるで別世界へ足を踏み入れたような、不思議な感覚だった。


「わぁ!!」


思わず声を漏らす。


その声に反応したのは、温室の横で剪定作業をしていた一人の老人と、一人の少年だった。

二人は手を止め、こちらへ歩み寄ると丁寧に頭を下げる。


それを見たアイリスが、リーンへ紹介した。


「リーン様、こちらはガーディナス家の庭師、バルト老。そして孫のニコルです」


「初めまして。リーフェ村で薬術師をしております、リーンと申します。しばらくこちらでお世話になります。よろしくお願いいたします」


「これはこれは、ご丁寧に。ワシはバルト・ハーウェルと申します。こちらは孫のニコルです。よろしくお願い──」


「先生! 薬草教えてください!」


「この、バカもんっ!!」


――ゴンッ!


バルトの拳が、ニコルの頭へ見事に落ちた。


(ひぇぇ……痛そう……)


「いってぇーー!! ひどいよ、じぃちゃん!」


よほど痛かったのだろう。ニコルは涙目になりながら頭を押さえ、バルトへ抗議する。


「お前が悪い! リーン様、誠に申し訳ございません。まだ教育中ゆえ、甘やかしてしまったようです。どうかご容赦ください」


姿勢を正したまま深々と頭を下げるバルトを見て、慌てたのはリーンだった。


「あ、あの! 大丈夫です、気にしていません。それに私は平民ですし、もっと気楽に接してください。王都の薬草にはとても興味があるので、色々見せていただけると嬉しいです」


「バルじぃ。昨夜お伝えした通り、リーン様はレオン様の大切なお客様ですから」


「あぁ、分かっておるとも。じゃが……優しい方で安心した。リーン様、これからもレオン坊……いや、レオン様をよろしくお願いいたします」


「えっ!? い、いや、お世話になっているのは私のほうなので!」


慌てて首を横に振るリーンを見て、ニコルが申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません……。僕、昔、薬術師の方に助けてもらったことがあって、それからずっと憧れていたんです。つい興奮してしまいました。失礼しました! アイリス様も申し訳ありません!」


「そういうことだったんですね」


リーンは柔らかく微笑む。


「私で教えられることがあれば、お伝えしますよ。私も薬術師に憧れて、この道を選びましたから。その気持ちはよく分かります」


「リーン様、本当によろしいのですか? 大切な知識では……」


「いいんです」


リーンは穏やかに微笑んだ。


「師匠も言っていました。『知識を得ようとするのは良いことだ。症状ではなく、人を診ろ。』

それに──『教えたところで、身につくかどうかは本人次第だ。』って」


そう言って苦笑するリーンに、バルトは静かに目を細めた。


「そうでしたか……。素晴らしい師匠ですね。ではレオン様にも話を通しておきます。リーン様は先ほどお伝えした通り、ご自由にお過ごしください。」


「アイリス様、ありがとうございます!」


その一言は、リーンの胸をじんわりと温めた。


「ではまず、温室をご案内しましょう。バルじぃ、よろしいですか?」


「もちろんです。ワシよりニコルのほうが詳しいので、案内させましょう。ニコル、頼むぞ。」


「はい!リーン様、こちらへどうぞ!」


「お願いします!」


今度こそ、リーンは弾むような足取りでニコルの後についていく。

その後ろ姿は、小動物が森を駆け回るように愛らしかった。


(……不思議な方。レオン様の氷のような心が溶け始めるわけですね)


アイリスは小さく微笑み、二人の後をゆっくりと追いかけた。




――この出会いこそが、のちに王都一と称される薬術師「ニコル」誕生の始まりだった。

もっとも、その物語が語られるのは、まだずっと先のことである。



ガーディナス家での出会い、新たな縁によってリーンの道がひらいていきます。次は本日の21時に。

宜しくお願いします(*^^*)

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