↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/84

ep.15 師匠からの手紙

朝食を終えたリーンは、アイリスに案内されながら屋敷の廊下を歩いていた。


昨夜は緊張して気づかなかったが、朝の屋敷はまた違う表情を見せている。


窓から差し込む柔らかな光。廊下を磨く使用人たち。遠くから聞こえる庭師たちの声。

公爵家でありながら、どこか穏やかな空気が流れていた。


「こちらでございます」


アイリスが一枚の重厚な扉の前で足を止める。


―コン、コン。


「レオン様、リーン様をお連れいたしました」


「入れ」


低く落ち着いた声が返る。

アイリスが扉を開くと、中ではレオンハルトとアルヴィンが待っていた。


「おはようございます!」


リーンは慌てて頭を下げる。


「おはようございます、リーンさん」


アルヴィンがいつもの穏やかな笑みを浮かべる。


「昨夜は眠れましたか?」


「はい! びっくりするくらいぐっすりでした」


「それは何よりです」


 レオンハルトも静かに頷く。


「座ってくれ」


勧められるままソファへ腰を下ろすと、アイリスがお茶を淹れ始めた。流れるような所作に思わず見入ってしまう。


(すごい……みんな動きが綺麗)


そんなリーンの様子を見て、アルヴィンは小さく笑った。


「まずはこちらを」


そう言って、一通の封筒を差し出した。

見覚えのある、少し癖のある字。


『リーンへ』


「師匠!」

 思わず声が弾む。 


「昨日、ローウェン殿から届きました。私が預かってまいりました」


リーンは両手で大切そうに封筒を受け取る。

封を開いた瞬間、ふわりと薬草の優しい香りが漂った。


「……」


懐かしい香り。胸の奥がじんわり温かくなる。

ゆっくりと便箋を広げた。


―リーンへ

 元気そうで何よりだ。

 こちらは心配しなくていい。村の連中も元気にしている。王都では気を張ることも多いだろう。無理だけはするな。 


 困ったことがあれば、いつでも帰ってこい。


 それと――

 『風はいつでも、お前の味方だ』




最後の一文を見た瞬間。

リーンは思わず笑みをこぼした。


(師匠……)


これはシルフィーのことだ。他の人には意味が分からない。

けれどリーンには十分伝わった。


「安心したか?」

レオンハルトが静かに尋ねる。


「はい」

リーンは嬉しそうに頷いた。


「師匠らしい手紙でした」


その笑顔を見て、アルヴィンもほっとしたように微笑む。


「では、本題に入りましょう」


 空気が少しだけ引き締まる。


「まず、リーンさんの立場についてご説明します」


リーンも姿勢を正した。


「王都では現在、一部の薬術院から根拠のない疑いを掛けられています。ですが、王太子殿下のご裁定により、しばらくはガーディナス公爵家で保護することとなりました」


「はい」


「そのため表向きには――」

 アルヴィンは少し苦笑する。


「レオンがあなたを監視している、ということになっています」


「やっぱり……」

 リーンは苦笑した。


 だが次の言葉は予想外だった。


「ですが、それは建前です」


「建前……ですか?」


「ええ。本当の目的は、あなたを守ることです」


 リーンは目を瞬かせる。


 レオンハルトが静かに続けた。

「屋敷の中では自由に過ごしていい。薬術の研究も調合も好きにしろ。必要な物があれば遠慮なく言え」 


「……え?」


リーンは思わず聞き返してしまった。


「本当に……いいんですか?」


「ああ。君が薬術師であることまで奪うつもりはない」


 短い言葉だった。だが、その一言には十分すぎるほどの誠意が感じられた。

リーンはこみ上げてくる涙をこらえながら、自然と頭を下げる。


「ありがとうございますっ」


するとアルヴィンが思い出したように言う。


「ああ、そうそう。この屋敷には薬草園がありますよ」 


 一瞬、部屋が静まり返る。 


「……え?」


 リーンの瞳がみるみる輝く。


「薬草園があるんですか!?」


「ええ。それもかなり立派なものですよ」


「見たいです!」


 勢いよく立ち上がってしまい、慌てて座り直す。


「あ……すみません」


 アルヴィンが吹き出した。

「ふふっ。そんなに嬉しいですか?」


「もちろんです! 王都の薬草なんて見たことありません!」


 その無邪気な反応に、レオンハルトの口元がわずかに緩んだ。


 それに気付いたのは、アルヴィンだけだった。彼は小さく笑みを浮かべる。


「それでは。アイリス」


「はい」


「リーンさんを薬草園へ案内して差し上げてください」


「かしこまりました」


 リーンは立ち上がると、嬉しそうにアイリスを見た。


「よろしくお願いします!」


「こちらこそ」


 そうして二人は執務室を後にする。 


扉が閉まる音を背に、リーンの足取りは弾んでいた。薬草園と聞いただけで、こんなにも心が軽くなる。

自分でも、少し可笑しかった。

次は明日の7時に更新します!

お楽しみにお待ちください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。