ep.14 新しい朝
ガーディナス家での日々は、リーンに温かい気持ちを与えてくれます。
平和って、何気ない時なんですよね、きっと。
頑張ってガーディナス家のお話は、
テンポよく行けたらと思います!!
柔らかな朝日が、白いカーテン越しに部屋へ差し込む。
小鳥のさえずりが聞こえ、窓の外では風が木々を優しく揺らしていた。
「……ん」
リーンはゆっくりと瞼を開く。
見
慣れない天井。
ふかふかの寝具。
鼻先をくすぐる木の香り。
「……ここ」
一瞬だけ考え――
「寝坊した!!薬鍋は!!」
勢いよく身体を起こした。
「そ、そうだった……ガーディナス公爵家だった」
昨日の出来事が次々と思い浮かぶ。
王太子の命令。
ガーディナス公爵家。
監視対象。
「うぅ……」
思わず布団へ顔を埋める。
「夢じゃなかったぁ……」
そんな自分が少しおかしくなり、小さく笑ってしまった。
すると、不意に昨夜のことが頭をよぎる。
◇
「申し遅れました」
夕食を終えた頃。
初老の男性が優雅に一礼した。
「私はセドリック・ウォーレンと申します。ガーディナス公爵家にて執事長を務めております。レオン様が幼い頃より、お仕えしております。」
続いて隣に立つ女性も、柔らかく微笑む。
「私はエレノア・ウォーレンでございます。屋敷の使用人をまとめる、メイド長を務めております。どうぞよろしくお願いいたします。」
リーンも慌てて立ち上がり、深く頭を下げた。
「リーンです! よろしくお願いします!」
その様子にエレノアは目を細める。
「どうぞ、そのように緊張なさらず。何かございましたら、遠慮なく私どもへお申し付けくださいませ。」
その言葉は、とても自然だった。
まるで監視対象ではなく、本当に客人を迎えているようで。
リーンは戸惑いながらも、小さく頷く。
「ありがとうございます」
その時だった。
セドリックがレオンハルトへ視線を向ける。
「レオン様。皆、大変ご心配しておりました。」
レオンハルトは静かに頷いた。
「心配を掛けた」
短い言葉だった。それでも、長年築いてきた信頼が伝わる。
エレノアはどこか安心したように微笑んだ。
「レオン様が女性を屋敷へお迎えになるのは初めてでございますね。こんなに可愛らしいお客様で、使用人一同、精一杯お仕えいたします」
リーンは思わず吹き出しそうになった。
(えっ!?)
ちらりとレオンハルトを見る。
本人は涼しい顔のまま答えた。
「説明しただろう、事情がある」
その様子を、少し離れた場所から見守っていたセドリックが、澄まし顔で口を挟む。
「もちろん承知しております」
レオンハルトはその笑みに、わずかに眉をひそめた。
「……分かっていない顔だな」
「気のせいでございます」
二人のやり取りに、エレノアがくすりと笑う。
リーンも思わず頬を緩めてしまった。
(なんだろう……家族みたい)
公爵家と聞いて想像していた空気とは、まるで違う。そこには、温かな時間が流れていた。
食後。
セドリックが静かに口を開く。
「ご報告がございます。レオン様のご無事を聞き、領地におられるルシアン様ご一家が帰還されます。おそらく明後日の午後には到着されるかと。」
「兄上が」
レオンハルトは短く頷く。
リーンは思わず姿勢を正した。
(ご、ご家族が帰ってくるんだ……)
エレノアが安心させるように微笑む。
「皆様、お優しい方ばかりですよ。どうぞご安心くださいませ。」
……その一言で安心できるほど、リーンの心臓は強くなかった。
そんな様子を見ていたレオンハルトが立ち上がる。
「今日は疲れただろう。今後のことは明日話そう。まずはゆっくり休め。」
「……はい」
その言葉に甘えるように、リーンは一礼した。
◇
――コンコン
控えめなノックの音で、リーンは現実へ引き戻された。
「リーン様。お目覚めでしょうか」
扉越しから聞こえる、落ち着いた女性の声。
「は、はい!」
慌てて返事をすると、静かに扉が開く。
そこに立っていたのは、二十歳ほどの女性だった。
艶やかな淡い青紫色の髪を上品にまとめ、上級侍女の制服を美しく着こなしている。その立ち姿には一切の無駄がなく、洗練された気品が漂っていた。
女性は完璧な所作で一礼する。
「おはようございます。本日よりリーン様のお世話を担当いたします、アイリス・フォルネストと申します。」
リーンも慌てて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
アイリスは柔らかく微笑む。
「どうぞ、そのように緊張なさらず。微力ながら、リーン様のお力になれれば幸いです。」
その穏やかな笑みに、リーンの肩から少しだけ力が抜けた。
扉を開けたまま、アイリスが一歩下がる。
その動きは滑らかで、けれど一瞬だけ、重心の移し方に侍女らしからぬ鋭さがあった気がした。
リーンが瞬きをした時には、もういつもの穏やかな所作に戻っている。
(……気のせい、かな)
「朝食のご用意が整っております。その後、レオン様とアルヴィン様がお待ちです。屋敷での生活について、ご説明くださるとのことです」
「アルヴィンさんも来るんですね!」
知った名前が出てきて、リーンはほっと胸を撫で下ろす。
アイリスは静かに頷いた。
「はい。どうぞ、ご案内いたします。」
そう言って優雅に扉を開ける姿は、まさに非の打ちどころのない侍女そのものだった。
リーンは、その背中をなんとなく目で追った。
完璧すぎる、と思った。
その理由が何なのか、自分でもうまく言葉にできなかった。
できる侍女、アイリス登場でした。




