ep. 11建前
実は幼馴染集合の回でもあります。まだまだ出したいキャラがいます。お楽しみいただければ嬉しいです。
レオンハルトの言葉を受け、カイエルは静かに頷いた。
「では、この件はひとまず終わりだ」
壮年の薬術師はなおも何か言いたげな表情を浮かべたが、王太子の裁定が下った以上、異を唱えることはできない。
「薬術院には私から説明しておく。お前たちは下がっていいぞ」
「……はっ」
青年薬術師と壮年の薬術師は一礼すると、静かに医務室を後にした。
侍医も空気を察したように一歩前へ出る。
「それでは、殿下。団長の診察結果は後ほど文書にてご報告いたします」
「ああ、頼む」
侍医が退室すると、アルヴィンもリーンへ微笑みかける。
「リーンさん、少しだけこちらの控室でお待ちいただけますか」
「アルヴィンさん…は、はい」
リーンは訳も分からないまま頷いた。
アルヴィンは扉を閉め、近衛騎士へ軽く合図を送る。
医務室には、カイエル、レオンハルト、アルヴィンだけが残った。
静寂が落ちる。
先ほどまでの王太子としての表情をふっと緩め、カイエルは苦笑した。
「……本当に、身体は大丈夫なんだろうな」
レオンハルトもわずかに表情を和らげる。
「不甲斐ない姿をお見せし、申し訳ありません、殿下」
「おいおい」
カイエルは肩をすくめた。
「二人きりなんだ。もういつものお前に戻ってくれよ、レオ」
レオンハルトは小さく息を吐く。
「……それじゃあ周りに示しがつかないだろう、カイ」
「ははっ、この場はいいじゃないか」
親友同士だけが見せる、束の間の空気だった。
しかし、その笑みはすぐに消える。
「例の魔力汚染の件は、後日あらためて聞く。緊急の知らせがあれば、特風で直接俺に飛ばせ」
「ああ」
短く返事をしたレオンハルトへ、カイエルは腕を組んだ。
「しかし……国の薬術師でも及ばない知識を持つ娘と、その師か。敵でないとしても、一体何者なんだろうな」
その言葉に、アルヴィンが一歩前へ出た。
「殿下。実は私は、彼女とその師に面識があります」
「ほう。どんな人物だった?」
「師のローウェン殿は、一見すれば年老いた薬術師です。ですが、なかなか食えない方でした」
アルヴィンは当時を思い出すように、わずかに目を細める。
「薬術師としての腕は確かです。それに、弟子であるリーン殿を何より大切にしているようでした」
「お前が“食えない”と言うほどか」
カイエルの瞳に、わずかな興味が宿る。
「それは一度、会ってみたいものだな」
「ええ。ただ――」
アルヴィンは苦笑した。
「何もかも見透かされているような、底知れぬ迫力を感じました」
「ますます普通の老薬術師には思えんな」
カイエルはそう呟くと、再びレオンハルトへチラリと視線を向けた。
「では、弟子の方はどうだ?」
「リーン殿の人柄につきましては、私が保証いたします。団長を五日五晩、ほとんど眠ることなく看病しておりました。しかも――」
アルヴィンの口元に、珍しく笑みが浮かぶ。
「相手が『氷蒼の黒騎士』だと知っても、態度は何一つ変わりませんでした」
「それだけか?」
カイエルが興味深そうに尋ねると、アルヴィンは笑いを堪えながら続けた。
「むしろ、薬術師として団長を叱っておりました」
一瞬、部屋が静まり返る。
「……」
「……」
レオンハルトは無言でアルヴィンを一瞥した。
カイエルは目を丸くしたかと思うと、
「……ふっ」
耐えきれず吹き出した。
「はははっ!まさか、お前を叱る娘がいるとは!」
レオンハルトは呆れたようにアルヴィンを見る。
「アル。余計なことまで話すな」
「失礼しました」
そう言いながらも、アルヴィンはまったく反省している様子がない。
カイエルはひとしきり笑うと、小さく息を整えた。
「なるほど。それは色々な意味で珍しい娘だ」
そして、真剣な表情へ戻る。
「レオ」
「お前がシロだと言うなら、俺は信じよう。だが、王太子としては、このままでは周囲に示しがつかん。あの精霊狂いも、興味を示した以上、いずれ必ず動く」
レオンハルトの瞳が細められる。
「……ああ」
「だから、表向きはお前が彼女を監視していることにする。保護だけでは、納得しない者も多い。監視という名目なら、誰も簡単には口を挟めん」
レオンハルトは静かに頷いた。
「分かった」
カイエルは、じっとレオンハルトを見つめる。
「それで?そこまで彼女を庇う理由は何だ?」
少しだけ沈黙が流れた。
やがてレオンハルトは、窓の外へ視線を向ける。
「あの娘には、人を欺く眼がなかった。それに、自ら危険を顧みず、人を救おうとする心がある」
しばし、間を開けたのち、
「彼女とその師がいなければ、今ここに俺はいない」
レオンハルトは思い出しているかのようにこぼした。
「……そうか」
カイエルは意味ありげに微笑んだ。
「お前がそこまで他人を評するとは珍しい」
レオンハルトは答えない。
カイエルはアルヴィンへ視線を向けた。
アルヴィンもまた、静かに視線を返し、小さく頷いた。
言葉はない。
それでも互いに思っていることは同じだった。
カイエルは口元に小さな笑みを浮かべると、踵を返した。
「じゃあ、俺は執務に戻る。頼んだぞ、レオ」
その背中に向け、レオンは短く答える。
「任せろ」
次はちょっと、2~3日空くかもしれません。飽きずに待っててくださいm(_ _)m




