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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

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ep. 11建前

実は幼馴染集合の回でもあります。まだまだ出したいキャラがいます。お楽しみいただければ嬉しいです。

レオンハルトの言葉を受け、カイエルは静かに頷いた。


「では、この件はひとまず終わりだ」


壮年の薬術師はなおも何か言いたげな表情を浮かべたが、王太子の裁定が下った以上、異を唱えることはできない。


「薬術院には私から説明しておく。お前たちは下がっていいぞ」


「……はっ」


青年薬術師と壮年の薬術師は一礼すると、静かに医務室を後にした。

侍医も空気を察したように一歩前へ出る。


「それでは、殿下。団長の診察結果は後ほど文書にてご報告いたします」


「ああ、頼む」


侍医が退室すると、アルヴィンもリーンへ微笑みかける。


「リーンさん、少しだけこちらの控室でお待ちいただけますか」


「アルヴィンさん…は、はい」


リーンは訳も分からないまま頷いた。

アルヴィンは扉を閉め、近衛騎士へ軽く合図を送る。


医務室には、カイエル、レオンハルト、アルヴィンだけが残った。


静寂が落ちる。

先ほどまでの王太子としての表情をふっと緩め、カイエルは苦笑した。


「……本当に、身体は大丈夫なんだろうな」


レオンハルトもわずかに表情を和らげる。


「不甲斐ない姿をお見せし、申し訳ありません、殿下」


「おいおい」


カイエルは肩をすくめた。


「二人きりなんだ。もういつものお前に戻ってくれよ、レオ」


レオンハルトは小さく息を吐く。


「……それじゃあ周りに示しがつかないだろう、カイ」


「ははっ、この場はいいじゃないか」


親友同士だけが見せる、束の間の空気だった。

しかし、その笑みはすぐに消える。


「例の魔力汚染の件は、後日あらためて聞く。緊急の知らせがあれば、特風で直接俺に飛ばせ」


「ああ」


短く返事をしたレオンハルトへ、カイエルは腕を組んだ。


「しかし……国の薬術師でも及ばない知識を持つ娘と、その師か。敵でないとしても、一体何者なんだろうな」


その言葉に、アルヴィンが一歩前へ出た。


「殿下。実は私は、彼女とその師に面識があります」


「ほう。どんな人物だった?」


「師のローウェン殿は、一見すれば年老いた薬術師です。ですが、なかなか食えない方でした」


アルヴィンは当時を思い出すように、わずかに目を細める。


「薬術師としての腕は確かです。それに、弟子であるリーン殿を何より大切にしているようでした」 


「お前が“食えない”と言うほどか」


カイエルの瞳に、わずかな興味が宿る。


「それは一度、会ってみたいものだな」


「ええ。ただ――」

アルヴィンは苦笑した。


「何もかも見透かされているような、底知れぬ迫力を感じました」


「ますます普通の老薬術師には思えんな」


カイエルはそう呟くと、再びレオンハルトへチラリと視線を向けた。


「では、弟子の方はどうだ?」


「リーン殿の人柄につきましては、私が保証いたします。団長を五日五晩、ほとんど眠ることなく看病しておりました。しかも――」


アルヴィンの口元に、珍しく笑みが浮かぶ。


「相手が『氷蒼の黒騎士』だと知っても、態度は何一つ変わりませんでした」


「それだけか?」


カイエルが興味深そうに尋ねると、アルヴィンは笑いを堪えながら続けた。


「むしろ、薬術師として団長を叱っておりました」


一瞬、部屋が静まり返る。


「……」


「……」


レオンハルトは無言でアルヴィンを一瞥した。


カイエルは目を丸くしたかと思うと、


「……ふっ」


耐えきれず吹き出した。


「はははっ!まさか、お前を叱る娘がいるとは!」


レオンハルトは呆れたようにアルヴィンを見る。


「アル。余計なことまで話すな」


「失礼しました」


そう言いながらも、アルヴィンはまったく反省している様子がない。

カイエルはひとしきり笑うと、小さく息を整えた。


「なるほど。それは色々な意味で珍しい娘だ」


そして、真剣な表情へ戻る。


「レオ」


「お前がシロだと言うなら、俺は信じよう。だが、王太子としては、このままでは周囲に示しがつかん。あの精霊狂いも、興味を示した以上、いずれ必ず動く」


レオンハルトの瞳が細められる。


「……ああ」


「だから、表向きはお前が彼女を監視していることにする。保護だけでは、納得しない者も多い。監視という名目なら、誰も簡単には口を挟めん」


レオンハルトは静かに頷いた。


「分かった」


カイエルは、じっとレオンハルトを見つめる。


「それで?そこまで彼女を庇う理由は何だ?」


少しだけ沈黙が流れた。

やがてレオンハルトは、窓の外へ視線を向ける。


「あの娘には、人を欺く眼がなかった。それに、自ら危険を顧みず、人を救おうとする心がある」


しばし、間を開けたのち、

「彼女とその師がいなければ、今ここに俺はいない」


レオンハルトは思い出しているかのようにこぼした。


「……そうか」


カイエルは意味ありげに微笑んだ。


「お前がそこまで他人を評するとは珍しい」


レオンハルトは答えない。


カイエルはアルヴィンへ視線を向けた。

アルヴィンもまた、静かに視線を返し、小さく頷いた。


言葉はない。

それでも互いに思っていることは同じだった。


カイエルは口元に小さな笑みを浮かべると、踵を返した。


「じゃあ、俺は執務に戻る。頼んだぞ、レオ」


その背中に向け、レオンは短く答える。


「任せろ」

次はちょっと、2~3日空くかもしれません。飽きずに待っててくださいm(_ _)m

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