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薬術師リーンは騎士団長の監視対象です ~隣国のスパイ容疑をかけられましたが、なぜか最強騎士に囲われています~  作者: 空乃葉
第一部/第2章 王都の波紋

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ep.10 騎士団長の決断

何とか間に合いました!


そして、熊本の地震被害にあわれた皆様につきましては、心よりお見舞い申し上げます。

医務室の扉が静かに開いた。

入ってきたのは、翠樹薬術院の薬術師二人。


一人は三十代ほどの青年。

もう一人は白髪混じりの壮年だった。


青年はレオンへ一礼する。


「団長、お目覚めとの知らせを受け、診察に参りました」


対照的に壮年の薬術師は、レオンよりも先にリーンへ視線を向けた。その目には、値踏みするような色が浮かんでいる。


「始めてくれ」

レオンが短く告げる。


青年薬術師は胸元へ手をかざした。

淡い緑色の魔法陣が広がり、ゆっくりとレオンを包み込む。


静かな光が消えた。


「……これは」


青年薬術師が息を呑む。

何度も魔法陣を確認し、信じられないというようにレオンを見る。


「驚きました……魔力循環は正常域まで回復しています。傷の治癒も極めて良好です」


青年は驚きを隠せないまま続けた。

「報告書の状態から考えれば……奇跡と言って差し支えありません」


アルヴィンも報告書へ目を落とす。

「やはり、そこまでですか」


「ええ」

青年薬術師は素直に頷いた。


「団長ほどの魔力量を持つ方だからこそ助かったのでしょう。ですが――」


 視線がリーンへ向く。


「ここまで回復させた技術は、本当に見事です。正直、私は感服しました。」


リーンは慌てて首を振る。


「そ、そんな……私はできることをしただけです」


青年薬術師は穏やかに微笑む。

「その"できること"が容易ではありません」


「薬術院でも同じ治療ができる者は多くありませんから」


その言葉を遮るように、壮年の薬術師が鼻を鳴らした。


「甘い」

部屋の空気が変わる。


「地方の薬術師が扱える技術ではない」


 リーンが困ったように顔を上げる。


「……え?」


「その症状を知っていたからこそ、治療できたのではないのか」


青年薬術師が慌てて口を開く。

「先生、それは――」


「黙りなさい」

壮年の薬術師が一喝すると、青年は言葉を飲み込んだ。何か言いたげに口を開きかけ――結局、そのまま視線を伏せる。


壮年の薬術師はリーンから目を逸らさない。


「答えなさい。君は、この症状を以前から知っていたのではないか」


リーンは静かに首を横へ振る。


「知りません」


「では何故治療できた」


「診たからです」


 壮年の薬術師が眉をひそめる。


 リーンは真っ直ぐ相手を見た。


「傷を診て、魔力の流れを診て、その場で一番助かる方法を師と一緒に考えました。それだけです」


「馬鹿なっ」


 壮年の薬術師は吐き捨てる。


「薬術とは経験と知識の積み重ねだ。その場の思いつきで人を救えるものではない。ある噂によると、隣国で似たような症状が出ていたらしい。隣国近くの村に住む君なら、何らかの方法でその元凶を知っていたのではないかね?」


 アルヴィンが一歩前へ出た。


「現場は私が確認しております。夜を徹して治療を続けた痕跡も。彼女が命を救ったことは事実です。」


「それは君の感想だ、副団長」


 壮年の薬術師は冷たく返す。


「薬術院としては、この娘に詳しく聞く必要がある」


 青年薬術師は申し訳なさそうにリーンを見る。


「……じつは、院長であるエヴァルト卿も、この件に強い関心を示されています」


 リーンの表情が曇る。


「院長様が……?」


「ええ」


「そのため、薬術院で事情を――」


「断る」


レオンハルトがきっぱりと発言した。

空気が張り詰めた、その時――



―コン、コン


医務室の扉が叩かれ、近衛騎士が静かに扉を開いて入ってきた。


「失礼します。王太子殿下がお越しです」

その一言で、医務室にいる全員が息をのんだ。


(えっ!!王太子殿下!どうしよう!)


思わぬ大物の登場に、一瞬で冷や汗をかくリーンだった。


程なくして、この国の象徴とも言える、世界樹の加護の証である翠色の髪と瞳を持つ王太子、カイエル・ヴァン・レイガルドが入室してきた。


アルヴィン、侍医、薬術師たちは一斉に胸元へ手を添え、頭を垂れた。


「尊き治世を司る、緑翠(りょくすい)の王太子殿下に謹んでご挨拶申し上げます」


レオンも寝台から立ち上がろうとした、その瞬間――

「あぁ、いいから」


穏やかな声が遮り、レオンハルトの動きを手で制した。


「病人は大人しくしていろ」


レオンは片眉をあげながらも胸元へ手を添え、軽く頭を下げた。

「……このような出で立ちで申し訳ございません、殿下」


カイエルは肩をすくめる。

「傷口が開いたら、せっかく助けてくれた薬術師達、特にリーン殿に申し訳が立たないだろう」 


「えっ、わ、私ですか?」

突然、自分の名前を呼ばれて驚くリーン。


「君がリーン殿だね」

にこやかにリーンと目を合わせながら、カイエルが声をかけた。

その後、カイエルが全員を見渡して言った。


「話は廊下まで聞こえていた」


壮年薬術師が頭を下げる。

「発言を、お許しください殿下。この娘には不審な点が――」


「しかし、団長の快癒にはリーン殿の、助力が必要でした!間違いなく、腕を持ってる方です」

遮るように青年薬術師は発言し、壮年薬術師から睨まれていた。


(同じ組織と言えど、1枚岩じゃないのかも。睨まれちゃって大丈夫かな、あの人)


自分が疑われてるのに、人の事を心配するリーンはある意味、大物だった。


カイエルは静かに頷く。

「発言を許した覚えはないがね。まぁ、今回は非公式だから不問にしよう。双方の話しは理解した」


にこやかな笑みでありながら、その翠色の瞳の奥は冷え冷えとした空気が漂っていた。


カイエルの発言を聞いた瞬間、薬術師の2人の顔がみるみる青ざめていく。


(ひえぇ〜! 絶対怒ってるよね!? 私、ちゃんと挨拶できてた!? 師匠〜っ!)


自分が言われたわけでないのに、再び、全身から冷や汗が流れているような感覚がしたリーンだった。


そんな脳内パニックになっていることなど、周りは気にする余裕などもなく、カイエルの声に気が集まっていた。


「ならば、こうしよう」


カイエルは静かにレオンを見据えた。


「レオンハルト」


「はっ」


「真実が明らかになるまで、彼女の身柄は君に預ける」


医務室に緊張が走る。

壮年の薬術師が思わず顔を上げた。


「殿下、それでは――」


カイエルは視線だけを向ける。


その一瞬で、壮年の薬術師は言葉を失った。


「私の裁定に異論があるのか」


「……いえ」


「ならば、この件は決まりだ」


静かな声だった。

だが、その場にいる誰も逆らえる者はいなかった。


「レオンハルト。彼女の安全は、お前に一任する。責任をもって保護せよ」


レオンは迷うことなく胸元へ手を添えた。


「承知いたしました」


カイエルは小さく頷くと、今度はリーンへ優しく視線を向ける。


「リーン殿」


「は、はいっ!」


急に名前を呼ばれたリーンは、慌てて返事をする。


「急な話で戸惑うだろう。だが、これは君を守るためでもある。しばらくの間、不自由をかけるが協力してほしい。」


その穏やかな口調に、リーンは少しだけ肩の力を抜いた。


「……はい」


小さく頷いた、その時だった。


レオンがリーンへ向き直る。


「リーン殿」


「はい?」


「準備が整い次第、俺の屋敷へ同行してもらう」


「……え?」


思考が止まる。


屋敷?


誰の?


まさか。


「俺の屋敷だ」


さらりと言われ、リーンの頭は真っ白になった。


(えっ……えっ!?)


(王都で有名な、あのガーディナス公爵家!?)


(む、無理無理無理っ!!)


「えぇぇぇぇぇっ!?」


リーンの悲鳴だけが、静まり返った医務室へ大きく響き渡った。


明日もアップ頑張ります!

上がらなかったら、「間に合わなかったか(生温かい目)」と思ってお待ちください。

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