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聖女を虐める悪女だと思われたので、婚約者の王子と身体を入れ替えてみました  作者: S@Y@


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9/12

第九話 初めて見た婚約者


 お茶会からの帰り道。


 アレクシスは、一人で歩いていた。


 いや。


 正しくは、一人になりたかった。


 セシリアの言葉が頭から離れない。


『悪女の末路なんて、決まっていますから』


 あの口調。


 あの笑み。


 あれは、自分が知っている聖女ではなかった。


 そして。


 そんな女を信じ、エレノアを疑い続けてきたのは、自分だった。


「……最低だ」


 思わず呟く。


 だが、その言葉では足りない。


 エレノアは、二年間。


 ずっと一人だった。


 何を言っても信じてもらえず。


 何をしても悪意に変えられ。


 婚約者である自分にすら、味方になってもらえなかった。


 なのに。


 彼女は、最後の最後まで自分を見捨てなかった。


 だからこそ、あの魔術を使ったのだ。


 ――真実を見て。


 その願いに、自分はようやく応え始めたに過ぎない。


 ◇ ◇ ◇


 夜。


 アレクシスは再び、王太子の執務室を訪れた。


 ノックをする。


「入れ」


 自分の声が返ってくる。


 その声を聞くだけで、胸が痛んだ。


 部屋に入る。


 エレノアは、山のような書類を片付けていた。


「まだ仕事を?」


「あら」


 彼女は顔を上げた。


「殿下はいつも、この時間まで働いていたでしょう?」


 何も言えなかった。


 そうだ。


 自分は、いつも夜遅くまで執務をしていた。


 そして。


 そんな自分を支えていたのは。


「……君だったんだな」


 ぽつりと漏れた。


 エレノアが目を瞬かせる。


「何が?」


「全部だ」


 アレクシスは、部屋を見回した。


「書類の整理も。会議の予定も。外交資料の要約も」


 エレノアは答えない。


「私は、自分でやっているつもりだった」


 だが。


 思い返せば。


 必要な書類は、いつも机にあった。


 必要な情報は、いつも整理されていた。


 疲れている時は、紅茶が置かれていた。


 それが当たり前になっていた。


「……君がやってくれていたのか」


 エレノアは苦笑した。


「婚約者ですもの」


 たった一言。


 それだけなのに。


 胸が締め付けられた。


 婚約者だから。


 愛していたから。


 だから彼女は、見返りも求めずに支えていた。


 そして自分は。


 そんな彼女を、悪女だと疑った。


「エレノア」


 彼女が顔を上げる。


「私は」


 謝りたかった。


 許してほしかった。


 違う。


 そんな資格はない。


「……ありがとう」


 口から出たのは、それだけだった。


 エレノアは、しばらく黙っていた。


 そして。


「今さらね」


 と、小さく笑った。


 だが。


 その笑顔は、少しだけ柔らかかった。


 ◇ ◇ ◇


 三日後。


 アレクシスは確信していた。


 セシリアは、完全に油断している。


 今日も。


「エレノア様。最近は大人しいんですね」


 誰にも聞こえない声で、そう囁いてきた。


 以前なら、アレクシスは激怒していただろう。


 だが、今は違う。


「そうかしら」


 笑って返す。


「ええ。賢い選択だと思います」


 セシリアは嬉しそうだった。


「だって、王子殿下はもう私のものですから」


 アレクシスは微笑んだ。


「そうね」


 その瞬間。


 セシリアの目に、勝利の色が浮かんだ。


 ――かかった。


 アレクシスは確信した。


 その夜。


 彼はエレノアの元を訪れた。


「証拠を掴める」


 開口一番、そう告げた。


 エレノアは驚いた顔をした。


「本当に?」


「ああ」


 アレクシスは頷く。


「彼女は、自分が勝ったと思っている」


 だから。


 もう隠さない。


 もう警戒しない。


「次の夜会だ」


 王家主催の大夜会。


 国中の貴族が集まる。


 そこで。


「セシリアに、自分の口で全部話させる」


 エレノアは、しばらく黙っていた。


「……失敗したら?」


 アレクシスは、まっすぐ彼女を見た。


「失敗しない」


「どうして?」


 その問いに。


 アレクシスは、初めて迷わなかった。


「今度は」


 彼は、一歩前に出た。


「今度は、君を一人にしないから」


 エレノアが、目を見開く。


「私は、君を信じる」


 もう遅い。


 そんなことは分かっている。


 それでも。


「君が何を言っても、何をしても、私は信じる」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて。


 エレノアは、小さく目を伏せた。


「……ずるいわ」


 その声は、少しだけ震えていた。


 アレクシスは、その震えが嬉しかった。


 彼女がまだ、自分の言葉を聞いてくれていることが。


 何よりも。


 嬉しかった。


 そして二人は。


 聖女を断罪するための計画を立て始めた。

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