第二十八話 真の聖女
王都を包む光は、さらに強くなっていく。
温かく、優しく。
それでいて、どこまでも力強い光だった。
苦しんでいた騎士たちは、驚いたように顔を上げる。
「身体が……軽い」
「傷が塞がっていく……!」
倒れていた者たちが次々と立ち上がる。
黒い魔力に侵されていた大地も、ゆっくりと本来の色を取り戻していった。
魔王は信じられないものを見るように目を見開く。
『あり得ぬ……』
『その力は失われたはずだ』
エレノアは、自分の胸元を見つめた。
金色の光は、まるで心臓の鼓動に合わせるように優しく脈打っている。
「私が……?」
その時だった。
王城の塔から、一人の老人が駆けてきた。
白い法衣を纏った、王国神殿の大神官だった。
「まさか……!」
彼は震える声で叫ぶ。
「その光は……!」
広場中の視線が大神官へ集まる。
老人はエレノアの前で膝をついた。
「ようやく、お目覚めになられたのですね……」
「大神官様?」
エレノアは戸惑う。
大神官は涙を浮かべながら頷いた。
「歴代の聖女にのみ宿ると言われる《聖光》……」
「その力を持つお方こそ」
一拍置いて、はっきりと言った。
「真の聖女です」
その場が静まり返った。
「なっ……」
騎士たちも、貴族たちも言葉を失う。
「エレノア様が……」
「真の聖女……?」
アレクシスはエレノアを見つめた。
驚きはあった。
だが、不思議と納得もしていた。
誰よりも人を思いやり。
誰よりも傷付きながら。
それでも誰かを憎まず、王国のために尽くしてきた。
そんな彼女こそが聖女だと、今なら胸を張って言える。
一方で。
光柱の中のセシリアは、その言葉を聞いて呆然としていた。
「……嘘」
震える唇から、小さな声が漏れる。
「そんなの……嘘よ」
自分は聖女だった。
ずっとそう信じてきた。
皆に愛され、敬われ、選ばれた存在。
その全てが。
最初から間違いだったというのか。
「私は……」
涙が止まらない。
「私は、何だったの……?」
魔王が冷たく笑う。
『ようやく理解したか』
『お前は最初から偽物だ』
その一言は、何よりも残酷だった。
「違う!」
セシリアは叫ぶ。
「私は聖女よ!」
『違う』
「違う!」
『お前は』
魔王の赤い瞳が冷たく細められる。
『我が封印を解くためだけに選んだ駒だ』
セシリアの瞳から光が消えた。
利用されていた。
王子にも。
エレノアにも。
勝ったつもりでいた自分が。
最後は魔王にすら利用されていた。
「……あ」
その時。
セシリアは初めて、自分が失ったものの大きさを理解した。
だが、もう遅い。
魔王の身体は、胸元まで完全にこの世界へ現れ始めていた。
『感謝するぞ、人間』
魔王はゆっくりと笑う。
『あと少しで、我は完全復活する』
その言葉に。
エレノアは静かに一歩前へ出た。
その金色の瞳には、もう迷いはなかった。
「いいえ」
杖を掲げる。
眩い聖光が王都を照らす。
「あなたの復活は、ここで終わらせます」
その宣言に応えるように、アレクシスも剣を構えた。
「今度こそ」
「二人で終わらせよう」
エレノアは微笑み、力強く頷いた。
「はい、殿下」




