第二十五話 信じる力
エレノアの足元に、幾重もの魔法陣が浮かび上がる。
淡い蒼色の光が夜の王都を照らした。
「殿下!」
「ああ!」
アレクシスは剣を構え、エレノアの前へ立つ。
今度は迷わない。
何があろうと、この人だけは守る。
『愚かな』
魔王が片腕を振るう。
無数の黒い槍が空中に現れ、一斉に二人へ降り注いだ。
「《氷華結界》!」
エレノアが魔法を放つ。
蒼い結界が二人を包み込む。
ガガガガガッ!!
黒い槍が結界へ突き刺さる。
一本。
二本。
十本。
百本。
結界に次々と亀裂が走っていく。
「エレノア!」
「まだ……!」
額から汗が流れる。
魔力が急激に削られていく。
もう長くは保たない。
『終わりだ』
魔王が静かに呟く。
巨大な腕が振り上げられた。
その瞬間だった。
「殿下!」
広場の向こうから声が響く。
振り返ると、王国騎士団が駆け付けていた。
「我らがお時間を稼ぎます!」
「民の避難は完了しました!」
アレクシスは頷く。
「感謝する!」
騎士たちは恐怖を押し殺しながら魔物の群れへ突撃した。
その姿を見たエレノアは、小さく息を呑む。
「皆……」
逃げてはいない。
戦っている。
王国を守るために。
「エレノア」
アレクシスが優しく声を掛けた。
「君は一人じゃない」
その言葉に。
二年前の記憶が蘇る。
誰も信じてくれなかった日々。
悪女と呼ばれた毎日。
一人で耐え続けた時間。
でも。
今は違う。
隣にはアレクシスがいる。
後ろには騎士たちがいる。
そして。
守りたいと願う民がいる。
エレノアはゆっくりと目を閉じた。
胸の奥が、温かく光り始める。
「……これは?」
淡い金色の光。
それは彼女の身体を優しく包み込んでいく。
魔王が初めて目を見開いた。
『その光は……』
エレノア自身も戸惑っていた。
「私、こんな力……」
アレクシスは静かに微笑む。
「君自身の力だ」
その一言で。
エレノアの迷いは消えた。
彼女は杖を掲げる。
「私はもう、誰にも負けません」
蒼と金、二つの光が重なり合う。
その眩い輝きに、王都を覆っていた黒雲がわずかに揺らいだ。
『馬鹿な……』
魔王の表情が初めて歪む。
その時。
光柱の中心から、かすかな声が聞こえた。
「……エレノア」
セシリアだった。
涙を流しながら、必死に魔王へ抵抗している。
「今なら……まだ……!」
苦しそうに息をしながら、セシリアは叫ぶ。
「私ごと……やって!」
「セシリア!」
アレクシスが目を見開く。
セシリアは泣き笑いを浮かべた。
「最後くらい……」
「本当の聖女みたいなこと……させてよ」
その言葉と同時に。
魔王が怒りの咆哮を上げた。
『黙れ、人形が!!』
漆黒の魔力が爆発する。
王都を揺るがす決戦が、ついに幕を開けた。




