第二十一話 守るべき人
漆黒の光柱は、王都の中心から天を貫いていた。
禍々しい魔力が空を覆い、昼間のようだった街は一瞬にして夜へと沈む。
「避難を急げ!」
「子どもを優先しろ!」
騎士たちの怒号が飛び交う。
王都は混乱の渦に包まれていた。
◇ ◇ ◇
アレクシスは剣を抜き、王城の正門へ駆け出した。
その隣にはエレノアもいる。
「エレノア、君は城に残れ」
「お断りします」
即答だった。
「ですが!」
「私はもう、あなたの婚約者を守られるだけの令嬢ではありません」
アレクシスは言葉を失う。
エレノアは真っ直ぐ前を見据えた。
「王都には罪のない民がいます。」
「私は、その方々を見捨てるつもりはありません」
その横顔は凛としていて、美しかった。
アレクシスは苦笑する。
「……敵わないな」
「最初からです」
エレノアが小さく笑う。
その笑顔に、アレクシスの胸は少しだけ軽くなった。
「なら、一つだけ約束してくれ」
「何でしょう」
「無茶だけはするな」
「それは殿下もです」
二人は目を合わせ、小さく笑った。
以前なら考えられなかったやり取りだった。
◇ ◇ ◇
王城前広場。
避難する人々の前へ、一体の黒い魔物が降り立つ。
全身を黒い甲殻に覆われた巨大な獣。
鋭い牙を剥き、咆哮を上げる。
子どもが泣き叫んだ。
「お母さん!」
魔物が飛びかかる。
「危ない!」
アレクシスが駆ける。
だが、間に合わない。
そう思った瞬間。
「《アイスランス》!」
鋭い氷の槍が一直線に飛び、魔物の肩を貫いた。
ギャアアアアッ!!
魔物が悲鳴を上げる。
アレクシスが振り返る。
魔法を放ったのは、エレノアだった。
「エレノア!」
「殿下!」
彼女は次々と魔法陣を展開する。
「《アイスバインド》!」
地面から氷が伸び、魔物の足を拘束する。
「今です!」
「ああ!」
アレクシスは一気に踏み込んだ。
剣が閃く。
一閃。
魔物の首が宙を舞った。
巨体が音を立てて崩れ落ちる。
避難していた人々から歓声が上がった。
「助かった……!」
「王太子殿下!」
「エレノア様!」
二人は振り返らない。
その視線の先には。
次々と王都へ侵入してくる魔物たちの姿があった。
「……まだ終わっていません」
エレノアが息を整える。
アレクシスも剣を握り直した。
「ああ」
その時だった。
王城の方角から、とてつもない魔力が吹き荒れる。
ドォォォォン!!
空気が震え、大地が揺れる。
思わず膝をつく騎士もいた。
「何だ、この魔力は……!」
アレクシスが顔を上げる。
漆黒の光柱の中心に、人影が浮かんでいた。
ボロボロの白い法衣。
乱れた金色の髪。
腕には黒い紋様が絡みついている。
「……セシリア?」
その姿を見たエレノアは目を見開いた。
「違います」
アレクシスも気付く。
あれは、もう自分たちの知るセシリアではない。
ゆっくりと顔を上げた彼女は、不気味に微笑んだ。
「見つけた」
その視線は、真っ直ぐエレノアだけを捉えていた。
「今度こそ」
黒い魔力が渦を巻く。
「あなたを、この世から消してあげる」
セシリアの足元から無数の黒い手が這い出し、一斉にエレノアへと襲い掛かった。




