第十四話 崩れた仮面
「……嘘」
セシリアが、小さく呟いた。
その声は震えていた。
「そんなの……嘘です」
ゆっくりと首を振る。
「殿下が……私を信じないなんて……」
アレクシスは答えない。
ただ静かに、セシリアを見つめていた。
その視線は、かつての優しいものではない。
王太子として真実を見極めようとする、冷徹な眼差しだった。
「違います!」
セシリアは声を荒げた。
「全部、エレノア様のせいです!」
エレノアが眉をひそめる。
「殿下! あの女は昔から私を妬んで――」
「証拠は」
短い一言だった。
セシリアの言葉が止まる。
「……え?」
「今の話を裏付ける証拠はあるのか」
「そ、それは……」
「証人でもいい」
アレクシスは淡々と続けた。
「物的証拠でもいい」
一歩。
また一歩。
セシリアへ近付く。
「君は今まで、数え切れないほどエレノアを告発してきた」
「なら、一つくらいは確かな証拠があるのだろう?」
セシリアの顔が引きつる。
「私は……」
「あるのか」
「…………」
「ないのか」
沈黙。
会場中の視線がセシリアへ集まる。
今まで彼女を庇っていた貴族たちも、戸惑い始めていた。
「聖女様……?」
「証拠がないとは……」
「いや、でも聖女様が嘘をつくはずが……」
そんな声が聞こえる。
まだ信じたい者もいる。
だからこそ。
アレクシスは決定的な一言を口にした。
「では、私から証人を呼ぼう」
その言葉に、セシリアが勢いよく顔を上げた。
「……証人?」
「ああ」
アレクシスは侍従へ頷く。
「入れ」
大扉がゆっくりと開いた。
入ってきたのは、一人の若い侍女だった。
その姿を見た瞬間。
セシリアの顔色が変わる。
「リ、リーナ……」
震えた声が漏れる。
侍女リーナはアレクシスの前まで進むと、恭しく礼をした。
「お呼びでしょうか、殿下」
「ああ」
アレクシスは静かに頷いた。
「安心して話せ」
「この場では、誰もお前に危害を加えさせない」
リーナはぎゅっと拳を握り締めた。
そして、恐る恐るセシリアを見る。
その視線には、明らかな怯えがあった。
「リーナ?」
セシリアは優しく微笑んだ。
いつもの聖女の笑みだ。
「何か勘違いしているのではありませんか?」
「あなたは私に、とても良くしてもらっていたでしょう?」
リーナの肩が震える。
今にも泣き出しそうだった。
会場の貴族たちは、その様子を見守っている。
長い沈黙の末。
リーナは意を決したように顔を上げた。
「……申し訳、ありません」
その一言で。
セシリアの笑顔が凍りついた。
「私は……もう嘘はつけません」
アレクシスは黙って頷く。
「話してくれ」
リーナは深く息を吸った。
そして。
「今までエレノア様がなさったとされる嫌がらせの多くは……」
会場中が息を呑む。
「聖女様ご自身のご指示でした」
その瞬間。
大広間は、悲鳴のようなどよめきに包まれた。




