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聖女を虐める悪女だと思われたので、婚約者の王子と身体を入れ替えてみました  作者: S@Y@


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第十二話 信じるべき人


 静まり返った会場に、ざわめきが広がる。


「……今、何と?」


「殿下が……聖女様を?」


 誰もが耳を疑っていた。


 セシリア自身も、固まったままアレクシスを見つめている。


「殿下……?」


 震える声。


 かつてなら、その声を聞くだけで駆け寄っていただろう。


 だが、もう違う。


 アレクシスは静かに問いかけた。


「セシリア。君は今、エレノアに階段から突き落とされたと言ったな」


「は、はい……」


「それはいつの話だ?」


 簡単な質問だった。


 だが、セシリアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……半年前です」


「半年前か」


 アレクシスは静かに頷く。


「六月の終わり頃……だったと思います」


 どこか曖昧な答え。


 しかし周囲は気にしていない。


 悲劇を思い出しているから曖昧なのだ、と勝手に解釈していた。


 アレクシスだけが違った。


「なるほど」


 彼は近くに控えていた侍従へ視線を向けた。


「持ってきてくれ」


「はっ」


 侍従が恭しく一冊の帳簿を差し出す。


 王城の公式記録。


 王太子の許可がなければ閲覧できないものだ。


 アレクシスはそれを開いた。


「六月二十八日」


 静かな声が響く。


「この日、エレノアは北方領の視察へ向かっている」


 会場がざわついた。


「同行したのは近衛騎士六名、侍女二名、文官三名」


 ページをめくる。


「帰城は三日後」


 さらに別の書類を掲げた。


「視察先の領主からの報告書にも署名がある」


 沈黙。


 セシリアの唇が震え始めた。


「そ……そんな……」


「君は」


 アレクシスは真っ直ぐ彼女を見据える。


「王都にいない人間に突き落とされたと言うのか?」


 どよめきが一気に大きくなった。


「確かに……」


「そんなことは不可能では?」


「では聖女様は……」


 セシリアが慌てて首を振る。


「ち、違います!」


「私の勘違いです!」


「勘違い?」


 アレクシスの声は冷たい。


「階段から突き落とされた相手を?」


「そ、それは……」


「命を狙われたと言った相手を?」


 返事ができない。


 会場の空気が少しずつ変わり始めた。


 今までセシリアへ向けられていた同情が、困惑へと変わっていく。


 アレクシスは追及を止めなかった。


「では、花瓶を投げつけられた件は?」


「……」


「毒を盛られたという件は?」


「……」


「侍女を使って脅迫された件は?」


 セシリアの顔から笑みが消えていく。


 代わりに浮かんだのは焦りだった。


「答えられないのか」


「ち、違うんです!」


 セシリアが叫ぶ。


「私が悪いわけでは……!」


「では誰が悪い」


「そ、それは……!」


 視線が泳ぐ。


 その先にはエレノア。


 セシリアは震える指で彼女を指差した。


「エレノア様です!」


 会場が静まる。


「証拠なんてなくても分かります!」


 必死だった。


「だって私は聖女です!」


 その一言に。


 アレクシスは静かに目を閉じた。


 ――ああ。


 やはり変わっていない。


 彼女は今も。


 自分が聖女だから信じてもらえると、本気で思っている。


 ゆっくりと目を開く。


「セシリア」


 低い声が響く。


「それは理由にならない」


 セシリアが息を呑む。


「私はもう」


 アレクシスは会場中を見渡した。


 貴族たちも、騎士たちも、国王も王妃も。


 全員が彼を見つめている。


 だからこそ、はっきりと言った。


「身分や立場だけで、人を信じることはしない」


 その言葉は。


 セシリアだけではなく。


 過去の自分自身へ向けた、戒めでもあった。

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