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アトレイディスとして

毎日19時頃投稿予定です。

「サン! 逃げて!」


私はそう叫んだが、彼女の身体は鎖で拘束され、もはや動くことができなかった。そして、一人の刺客が私に迫る。魔法を発動させようとするがうまくいかない。いままで触れたことのない本物の殺意に恐怖で身体がすくみ、私はあっさりと捕らえられ、髪を掴まれ引きずられる。


その時、轟音とともに、私を引きずろうとしていた刺客が、まるで人形のように吹き飛んだ。


私の視線の先には、路地の向こうに立つ、一人の少年。


フレイアスト。


私の、血の繋がらない、そしてこれまでずっと無視し続けてきた、落ちこぼれの息子だった。


彼は、静かに、動かなくなってしまったサンの下に近寄る。そこでしゃがみ込み、サンに触れてから顔を上げる。その瞳は、私が見たことのない光を放っているように思えた。


(……フレイアスト…?)


彼の右手には、いつの間にか黒く、細いレイピアが握られていた。それは、まるで闇そのものから生まれたような漆黒、しかし、月明かりを反射して輝いていた。


フレイアストは、ゆっくりとレイピアを構え、迫りくる刺客たちと斬り結ぶ。


その光景に目を見張る、フレイアストの実力を今の今まで全く知らなかった。いや、知ろうとしていなかった。


最初に襲いかかった刺客に向かい、フレイアストは一瞬で距離を詰めた。研ぎ澄まされたレイピアは、まるで黒い稲妻のように一直線に伸び、刺客の喉元を正確に捉えた。血が鮮やかに飛び散る。


次の刺客が背後から迫る。フレイアストは、体勢を崩すことなく、流れるような動きで身を翻し、レイピアを背後へと突き刺した。


その剣捌きは、以前観覧したことのある退屈な剣術大会のそれとは別物だった。


さらに複数の刺客が同時に襲いかかる。フレイアストは、レイピアをまるで自身の腕の延長のように操り、迫りくる刃をいなし、最小限の動きで敵の急所を穿っていく。彼の剣術は、力強さというよりも、研ぎ澄まされた技巧と、精密な動きによって敵を翻弄する、洗練されたものだった。


目の前で繰り広げられる惨劇に、恐怖を感じるよりも先に、美しいと感じてしまっていた。


そして、さらに驚くべき光景を目にする。フレイアストの手から離れたレイピアが、宙を舞い、別の刺客を攻撃したのだ。


レイピアは、空中で弧を描き、次々と敵を貫き、まるで意思を持っているかのように、再びフレイアストの手元に戻ってきた。


それは、魔法であるのは間違いがなかった。だが、見たことも聞いたこともない魔法だった。まるで、レイピアそのものが意思を持っているかのようだった。


私は、ただ呆然と、刺客たちが次々と倒れていく光景を見つめていた。


(私の知るフレイアストは……、いや、そもそも知らなかった、知ろうともしていなかった……)


「母上! 遅くなり申し訳ございません」


そう言ってフレイアストが地面にうなだれる私に手を差し伸べてくる。


「どうして?」


「え?」


「どうして私を守るの?」


「それは……」


「あなたも気付いているはずでしょう? 私があなたのことを忌避していたこと」


「……」


「私はあなたを息子と思わず、無視し続けていた。母親として接してこなかった。ただの無関係の女を…いや、恨んでいる女を何故助けるの?」


フレイアストは私のことを恨んでいるだろう。徹底的に無視し、いないものとして扱ってきた。そんな私を恨んでいるに違いなかった。


なのになぜ、私を守ろうとしているのか? 私には理解ができなかった。


しかし……。


「恨んでなどいません。それに無関係とは……。私はあなたの息子です。母はあなたしか知らない……。僕も何故助けるのかという問いに答えを持っていません。ただ、……家族を助けるのに理由がいるのでしょうか?」


その瞬間、何故か目から涙が溢れていた。屈辱なのか、安堵なのか、はたまた、後悔からか、いや、……罪の意識からなのか。


涙の理由は判別できない。


「母上!? どこかお怪我でも!?」


「……いえ。大丈夫よ」


そう言って、差し出された手を掴んで立ち上がる。


「……サンは?」


微動だにしなくなったサンに視線を向ける。 彼女は、私が撒いた種で死んだのだ……。私が殺した……。


「サンは大丈夫です。気を失っているだけです」


「……そう」


そんなはずはない。フレイアストは私に気を遣っているのだ……。


(私は……)


「フレイアスト……。あなたは良くやってくれました。……()()()()()()()《・》()()()として立派な働きをしてくれました。感謝します」


今さら私がこんなことを言ったところで……、そもそも言う資格などない……。


その言葉にフレイアストは目を見開く。


「母上……」


「アトレイディスとして……」


そう、自分自身に向けて呟いた。

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