思わぬ申し出
毎日19時頃投稿予定です。
「……正義」
俺の言葉に、ユーリは懐から一通の書簡を取り出した。差出人がジークハルトとなっている。
「この書簡は、ジークハルト様から私宛てに届いたものだ。彼は、ドノバン侯爵家の不正を暴き、罰を与えるための協力を求めてきた。この世に正義を為すために、行動するジークハルト様は崇高な存在、その道筋を邪魔する者は許しはしない」
ユーリは、書簡を俺に渡すと、冷たい声で続けた。
「私は、アラン教授の事件に、ドノバン侯爵家が関わっているという知らせを聞き、動いた。だが、勘違いするな。私はあくまで、貴族派の不正を正すためにここに来た。お前を助けるためではない。ジークハルト様のお役に立てるなら、それだけでいい」
ユーリの言葉は冷たかったが、その瞳の奥には、確固たる意志の光が宿っていた。
「ユーリ先輩……」
「呆けている暇があるのか? 状況を教えろ」
俺は、一連の状況をユーリに話した。アラン教授の処刑を遅らせるしかないが、母が命の危機に瀕していること。
そして、今、どちらを助けるべきか、究極の選択を迫られていることを。
俺の話を静かに聞いていたユーリは、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
「なるほど。状況は理解した」
ユーリは、皮肉めいた笑みを浮かべると、俺の肩に手を置いた。
「アラン教授の件は、私に任せろ」
「え?」
「任せろと言った」
ユーリの鋭い視線は真っ直ぐ俺の瞳を見つめていた。
「貴様には、貴様のすべきことがあるのではないか? こちらは任せろ、私は、この茶番劇を見過ごすわけにはいかない」
俺のやるべきこと……。それは、母を救うことだ。
「……分かりました」
俺は、ユーリの言葉に従い、母の元へと向かうことを決意した。
「ありがとうございます」
俺の言葉に、ユーリは静かに頷いた。
俺は、ユーリに背を向け、走り出した。ユーリは、その場で静かに立ち尽くしている。彼の背中には、まるで何も背負っていないかのように、ただ静寂が漂っていた。
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