ROSA HABET SPINAS 薔薇に棘あり I
ダニエルと顔を合わせないまま五日目。
せっかくの休暇だが、一人ですごすことになるだろうか。
アレクシスは、室内音楽として設定してある『ラ・カンパネラ』を聞きつつ起床した。
ダニエルが好きだというので決めた曲だ。
ダニエルとの関係が破綻したときに変えようかと思ったが、未練たらたらでけっきょくそのままにしていた。
のちにまたダニエルがここに来るようになったさいには、「変えてないんだ……」とあきれた顔をされたが。
シャッと音を立てカーテンが自動的に開く。
ベッドに射しこんだ陽光のもと、ダニエルのしなやかな背中がないのがさみしい。
毎日連絡はくれるが、ここのところは「きょうも遅くなる」と昼すぎに連絡が入ったかと思うと、夜には「きょうも行けない」とメールがくる。
一人で横たわるベッドのむなしさを想像してげんなりとなったつぎの瞬間、かならず「ほかの人を連れこんじゃだめだよ」と入る。
生殺しとはこういうことか。アレクシスはベッドに座った姿勢でうつむいた。
ダニエルの真の素性と任務の内容をつたえ聞いたのは、おそらく本人も承知のことなのだろう。
事情を知っているのだから、会う時間がなくても察してくれということなのか。
いそがしいのは理解するが、せめて五分でいいから顔を合わせたい。
会えばキスしたくなるだろうか。
抱きよせたら、素肌をまさぐりたくなるだろうか。
いざ会ったら、それだけでは足りなくて艶っぽい声を上げさせたくなるだろうか。
アレクシスはじっとうつむいた。
もよりのホテルに入るとして、やはり一時間はほしいか。
そうなる予想がつくから、あえてダニエルは会わないのか。
時間がないのだと頑として言われてまで食い下がるほど子供ではないつもりだが。
じゃがいもに切れめを入れ、バターをのせる。
オーブンで温めたジャケットポテトをコーヒーで流しこみ、おそい時間帯の朝食を終える。
ここ一年、朝食はたいていダニエルと二人だった。
出勤まえのいそがしい時間帯だが、二人で何らか雑談をし、その日の昼食の待ち合わせについて相談した。
一人の日がなかったわけではないが、五日連続というのははじめての気がする。
キッチンのテーブルに頬杖をつき、アレクシスはため息をついた。
ダニエルとほとんど同棲に近い感じですごしはじめるまえは、休日はどうすごしていたのだったか。
午後からは軍の施設に出向いてトレーニングか銃の訓練でもしてすごそうかと思った。
労働法と雇用法の行きすぎで、たとえ本人が望んでも一定以上の時間労働をすれば雇用主が罰せられる。
軍には非常事態の特例があるが、通常時の勤務はやはりおなじだ。
たとえひまでも休日に出勤して書類作成などありえない。
だがトレーニングはべつだ。
ややこしい話だが、休日に軍施設でやるのはサークル活動のような扱いなのだ。
玄関の呼び鈴が鳴る。
だれだ、と軽く眉をよせてアレクシスはテーブル上にあるインターフォンの操作パネルに手をのばした。
「はい……」
空中にあらわれた立体画像に映っていたのは、同僚のジョシュア・ローズブレイドだった。




