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【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
16.将校ローズ

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37/63

DUCTOR ORDINIS ROSA 将校ローズ I

 一晩だけ都合が悪いと言っていたダニエルは、その後二日つづけて会えなかった。

 痴漢のつづきは明日とか言っていたが、よほど忙しいのか。


 軍施設の玄関。

 あかりとりと開放的なデザインとを兼ねてはめられている縦長(たてなが)の窓から外をながめ、アレクシスはブレインマシンを起動させるかどうか迷った。

 昼すぎの時間帯。

 ひと通りの仕事を終え、これから退勤する。

 ダニエルをむかえに教会に行きたいが、今日も都合が悪いと言われたらモヤモヤしそうだと思った。


 ほかに男ができたとか。


 二、三日会えないくらいでこんなことを考えているのは鬱陶(うっとう)しいだろうかと思うが、自身のときですら逢ったその日に家に行きたいと誘ってきたのだ。

 まして先日は、女性にも興味がないわけではないと言っていた。

 窓から見える官庁街の通り。大股で歩いていく何人かの通行人の女性をながめて、アレクシスは目をすがめた。

 どんな女性が好みなのか、こんど会ったら絶対に聞いておこうと思う。せめて警戒(けいかい)する的を絞りたい。


「パガーニ大尉」


 甲高い声で呼びかけられる。

 ふり向いて声の主をさがす。受付の女性と目が合い、ずっと不審げに様子を見られていたことに気づいた。

「パガーニ大尉、ちょうどよいところに」

 両手でタブレットのようなものを持ち、廊下をかけてくる女性隊員がいた。

 キルスティン・ヨーク中尉。

 フレンドリーな笑顔を見て、アレクシスは聞こえなかったふりをして逃亡しようかと思った。

 彼女は決して嫌いではないが、面倒ごとを手伝わせようとするときにわりとあんな表情をする。

「協力要請ならだめだ。私はいそがしい」

 アレクシスは、速足で玄関の自動ドアのほうに向かった。

 ヨークが行く手に回りこむ。

「デートの約束でもありましたか」

「これから確認するところ……」

 言ってから顔をしかめる。あると言えばよかった。

「べつに協力要請ではありません。確認していただきたいものが」

 ヨークがあたりを伺うように軽く左右を見る。


「……どうした」

「ローズ少佐はお連れではないですね」


 アレクシスは眉をよせた。あの件のあとも(すき)あらばセクハラをしているとでも思っているのか。

 タブレットに目線を落とす。

「オフィスのやつじゃないのか? 勝手に持ちだしてるのか」

「外に持ちださなければ規則違反にはあたらないでしょう?」

 「それより」とヨークが続ける。タブレットを両手で持ち、こちらに画面を向けた。

 立体画像にもできるはずだが、なぜわざわざ平面画像で見せるのか。

 画面を見て理由が分かった。

 表示している画像は、軍に所属する人間の個別のプロフィールだ。

 遠目からでも見える立体画像では、通りかかる隊員に対して何となく気まずい。

 


 ダニエル・クリス・ローズ 所属、陸軍 階級、少佐。



「えっ……」

 画面を見て、アレクシスは軽い目眩(めまい)を覚えた。

 年齢は自身よりも一歳年上。添付されている顔写真はまぎれもなくダニエルのものだ。

 彼はチェルカシア軍の人間では。

 どういうことだ。

「先日お会いしたクリス・ローズ少佐で間違いないですよね?」

 ヨークがタブレット画面を自分のほうに向ける。

「ファーストネームは “ダニエル” なんですね。なんであのとき、ミドルネームだけ名乗ったんでしょう」

 不可解そうに辛子色の眉をよせる。

 とりあえず彼を(かば)おうとして、アレクシスは「さあ」と口を動かした。だが動揺して声にならない。

「 “ローズ” はありふれた名字だし……」

 意味不明な擁護が口を突いて出る。

「知ってますよ、そんなこと」

 ヨークが顔をゆがめた。


「療養中だったんですね。お見かけしたことがなかったのは、そういうことでしょうか」


 ハッとアレクシスは目を見開いた。

 ローズブレイドが言っていた軍内のウワサ。

 引ったくるようにして、タブレットの画面をこちらに向けさせる。

「パガーニ大尉?」

 荒いしぐさに驚いたのか、ヨークが目を丸くする。


 たしかに勤務実態の欄に「療養中」とある。


 ローズブレイドの言うウワサを信じるのであれば、ここに諜報担当が持つIDを書きこめば「活動中」の表示に変わるのか。

 軍の名簿に名前と顔写真がありながら、ダニエル・ハミルトンとして教会勤務をしているのだ。


 チェルカシア軍ではない。こちら側の諜報担当。


 ならばなぜチェルカシア国籍だと説明したのか。

 タブレットを同僚に返し、アレクシスはオフィスの方向にきびすを返した。

「パガーニ大尉?」

 両手でタブレットを受けとり、ヨークが呼び止める。

「仕事を残してたのを思い出した」

 アレクシスはそう言い、急ぎ足でオフィスにもどった。





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