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【完結】 機械仕掛けの薔薇〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
15.淫らな薔薇

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ROSA INDECENS 淫らな薔薇 II

 准将の私室入口にあるインターフォンの呼び出し音が鳴る。

 「おう」という感じに低く呻いて、准将は起き上がった。

 サイドテーブルにある子機で受信し、通話に応じる。

 執務室に入ってすぐにある秘書室からだ。女性秘書の落ちついた声がそばにいるダニエルの耳にも届く。

 入室許可の問い合わせのようだ。


「待たせておけ」


 准将がみじかく答える。

 (きぬ)ずれの音をさせて、ダニエルはゆっくりと起き上がった。

 服を着はじめた准将をながめながら三角座りになる。


「シャワー借りていい?」

「好きにしろ」


 准将がそう答える。

 ディスプレイの上にある時計は、真夜中ちかい時刻を表示していた。

「だれ?」

「コールドウェル大尉だ。地下会議室に忘れたものをわざわざ届けにきた」

 准将の声には、休憩時間を中断させられたイラつきが感じとれる。

「大尉か。おなじフロアの上官にでもあずけておけばいいのにね」

 ダニエルは、(ひざ)の上で頬杖をついてそう返した。


「 “お困りかと思いまして” と前にもきた。いくらきれいな顔をしていても、ああいうまじめすぎるのは好かん」

「だからモーガンは、僕みたいなのとピッタリなんだよ」


 ダニエルは肩をすくめた。

「僕は本気だよ。あなたと二人でチェルカシアに行きたい」

「おまえみたいなのがこんな中年とか。ハニトラと考えたほうがしっくりくる」

 准将が、ハッと息を吐いて笑う。

「チェルカシア側は、モーガンをすっかり信用してるよ。いまさらハニトラなんて仕掛けるわけないだろ?」

 ダニエルはそう返した。

 はたして准将がどちらのハニートラップと疑っているのか。自国の軍か、チェルカシア側か。

 ダニエルはあえてチェルカシアとしか考えていないふうに答えた。


「あなたがいままでチェルカシア大使館にわたした情報は、どれも重要なものばかりだ。報酬(ほうしゅう)にも反映されてるはず」


「すっかり向こうの人間だな」

 准将が上着をはおる。

「そのつもりだよ。もうチェルカシア軍での少佐の籍ももらってる」

「自国の軍にいるのを嫌ってるのに、亡命先でも軍属になるのか」

 准将は鼻で笑った。

「しかたないだろ。軍での生き方しか知らない」

 ダニエルは両手を組み、まえにのばして伸びをした。

「でもむこうは自由に除隊できるからね。ころあいを見て辞めて、マーケットのふつうのウェイターにでもなるよ」

 准将はもういちど鼻で笑った。

 身じたくを整えると、無言で私室を出ていく。

 部屋のなかにLEDの強い光が射しこみ、すぐにもとの暗い部屋にもどる。

 ダニエルは目線だけを動かし、天蓋(てんがい)の柱を見た。

 おもむろにベッドから降り、執務室の声に耳をすます。

 コールドウェル大尉が律儀なあいさつをしている声が聞こえた。




 LEDのあかりで煌々(こうこう)と照らされた軍施設の廊下。

 窓のない構造は機密保持のためのものだが、やはり閉塞感はいなめない。

 准将の執務室を退室し、ダニエルはオフホワイト一色の無機質な廊下を進んだ。

 だれもいない廊下に、コツコツコツと規則正しい靴音が響く。

 別フロアへの廊下へとさしかかったとき、一角にもうけられた休憩用のソファに座るコールドウェル大尉と遭遇した。

 脚を組んで飲みものを口にしていた大尉は、ダニエルの姿に気づくとチラリと視線を向ける。



「情事の邪魔、ごくろう」



 ダニエルは、通りすぎつつ告げた。

「どういたしまして」

 コールドウェルがそう返した数秒後、ダニエルのブレインマシンにチャット形式での通話が入る。

 諜報担当専用のチャンネル。コールドウェルからだ。

 廊下の前方をまっすぐ見て歩を進めながら、ダニエルは応じた。


 『あなたの恋人と接触しました』


 そう空中右側に表示される。

 ダニエルは別フロアのアレクシスのオフィスのほうに目を向けた。

 アレクシスは、いまの時間は退勤している。

 諜報(ちょうほう)で外部に潜伏している時期が多いのでいままで軍内部では顔を合わせることなくいたが、准将と会う日はやはり鉢合(はちあ)わせしたくない。


 『彼にも “恋人” と言ったらしいな』

 ダニエルはそう返信した。

 『恋人では?』


 コールドウェルがそう返す。

 『きみがそういうことを察することができるということに大笑いした』

 返信してから、ダニエルは数秒後につけ加える。

 『堅物のきみが』

 しばらく返信が途絶えた。

 用は終わりか。雑談がしたかっただけだろうか。ダニエルはブレインマシンの電源を落とそうとした。



 『施設内のトイレが、トラウマにならなければいいんですが』



 OFFにする寸前に、コールドウェルがそう伝えてくる。

 廊下の一角をながめてダニエルは立ち止まった。

 かたわらにちょうどあった別の休憩用のソファに座る。ドリンクメーカーのタッチパネルに手をふれた。

 紅茶の茶葉のやや渋めの香りと、選択したミルクの匂いが混じり合ってただよう。


 『アホの子だから、そこまで神経は細くない』


 ダニエルはそう返信して、そそがれたミルクティーをそばの小テーブルに移した。

 『よけいな箇所までは見てないだろうな、コールドウェル大尉』

 返信をつけ加える。

 『よけいな箇所?』

 『トイレとなると出してたろう』

 しばらく間があった。

 見たんだろうかとダニエルは眉をよせる。

 『おやすみなさい、ローズ少佐』

 かなり間を置いてそう返信があった。





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