二十九本目 戦う理由って?
――強くなりたい。
そんなオレの決心に気がついたのか、ルーシーは明るい青色の目でオレをまじまじと見つめていた。
「グレン、なにか勘違いをしていないか?」
「え?」
予想だにしない言葉に、オレは素っ頓狂な声を上げた。
「この戦い――魔王決定戦に出場すると決めたのはグレンかもしれないが、動機は私が『生まれながらの王以外が見たい』と言ったせいだ。私がグレンを癒すのは、その責任を感じているからだ」
ルーシーはまっすぐオレを見つめたまま続けた。その眼差しから、ルーシーの言葉に嘘偽りがないことがわかる。
「はっきり言おう。グレンには魔王になる理由がない」
ズンと腹の奥が重くなった。これはオレが目を向けないようにしていたことだ。
創造主を守りたいと願うシェスティ。彼女を見て何も思わなかったわけではない。彼女を打ち負かして、果たしてオレが魔王決定戦を勝ち進む理由があっただろうか?
ドゥジにしてもそうだ。なにはわからないが、彼にも立ち止まれない理由があったはずだ。オレはその足を止めさせてしまった。オレには立ち止まれない理由なんてなかったはずなのに。
「だから、私はグレンがつらいならこの戦いを降りてもいいと思っている。……グレンでなくても、魔王は拝めるようだしな」
ルーシーはベッドから立ち上がる。軽く伸びをして、医務室のドアの方へ歩いて行ってしまった。どこにいくのか、問いかけることもできなかった。
あとには、オレとミネルバだけが残された。
「ミネルバ」
「なんだい?」
「オマエはなんで魔王になりたいんだ?」
ミネルバは肩をすくめた。
「……それを聞いて、君の答えは見つかるのかい?」
「いや。ただ、オレは魔王になる理由がなくても、魔王決定戦を勝ち上がる理由はあるんだ」
グレアルシード。この名前を出した時のエルドラドの反応。間違いなく、ヤツはオレの母親のことを知っている。
またエルドラドと会うことが叶っても、どうせまた前のようにはぐらかされて終わりだろう。だが、魔王ともなれば話は違うかもしれない。そうでなくても、エルドラドに近づくことができれば、実力行使でも――。
そこまで考えて、オレは頭を振った。
違う、これは魔王じゃなくてもいいはずだ。
「ずいぶん考え込んでいるようだね」
ミネルバはオレを見て、笑うような調子で言った。嫌味な感じはなかったが、オレはミネルバに言い返した。
「……だから、オマエはどうなんだよ」
二度目の問いかけに、ミネルバは先ほどとは違って、答えるために口を開いた。
「僕こそたいそれた理由じゃないよ。僕は王になりたいんだ。僕の故郷は退屈なところでね、王は生まれながらにして王だ。魔界のように生まれてから王になる道はない」
ルーシーも同じことを言っていたな。初めて会ったときから思っていたことだが、ルーシーとミネルバは容姿もそれなりに似ている。パーツひとつひとつは違うにしろ、輝くような金髪や、澄んだ青い瞳なんかは、魔界ではあまりお目にかかれないものだ。これらの共通点から導き出されるのは――。
「ミネルバ、オマエも天使なのか?」
ミネルバは微笑んでうなずいた。ただ、ひとつ疑問はある。
「オマエには翼も光輪もないじゃないか」
そう、ミネルバには、ルーシーにあるような背中の翼や頭の上の光輪がないのだ。てっきり、天使を象徴する重要なパーツだと思っていたのだが……。
「それはほら、魔界に堕ちたときの副作用だよ」
ミネルバはにやりと笑った。
「煩わしい翼も光輪も、ここではなくなるんだ。それにここにはいつも争いがある。強い者はそれだけで正しい。腑抜けた時間が流れるだけの、退屈な天界とは違う。魔界こそ、僕が生きたい世界だ。だから」
「だから、その魔界の王になりたいってことか?」
「そうさ」
ミネルバはオレが思っていたよりずっと野心家のようだ。この告白を聞いた今、ミネルバの青い瞳に底知れない闇を感じた。
シェスティやドゥジとは、行動原理が違うんだ。……どちらかといえば、オレはミネルバ寄りなのかもしれないが。
「僕が魔王になったあかつきには、この魔界は今よりもっと退屈しないものにするよ」
にこりとミネルバは笑った。今までと変わらない笑顔のはずなのに、オレは心底恐ろしく思った。なにか得体の知れないモノと対峙しているような、そんな感覚だ。
「見つかるといいね、君が魔王になりたい理由。決勝戦、楽しみにしているよ」
呆然としているオレの肩を叩き、ミネルバは医務室から出ていった。
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