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二十七本目 トーナメント二戦目 剣vs剣②

「な……に……」


 ドゥジの体は大きく膨らみ、身体中のツノは触れる者を拒むように体に巻きつき、体表の文字はゆらゆらと揺れながら妖しく光っていた。


「見事な一撃だっタ」


 いくつもの音が重なり合った、不快な声色。


「この姿ハ制御が難しイ」


 ドゥジとの対比で棒切れのように見える剣が、力の限り振り下ろされる。

 背筋に走る悪寒。当たったら死ぬ。


「殺してしまっテも、やむナし」


 全身が悲鳴を上げたが、地面を転がって回避する。

 地面は圧し潰され、亀裂が走る。

 剣は使い物にならなくなったようで、ドゥジは剣を投げ捨てた。投げられた剣は轟音と共に地面に突き刺さる。


 ――接近戦はまずい。

 桁違いのパワーだ。オレは剣を使うのを諦め、その場に投げ捨てる。もともとドゥジに気付かれないように血をばら撒くために用意したものだから、役目は終わっていた。

 接近戦から遠距離戦――つまり魔法に切り替えて戦うことを選択し、オレは素早く水球を作り出して自分の周りに漂わせた。


「《水弾(アクアバレット)》!」


 漂わせた水球を一瞬で加速させ、ドゥジに叩き込む。

 体が大きくなった分、動きが緩慢になっているのだけがさいわいだった。打ち出された水の弾丸はドゥジに着弾し、貫通する。


 ドゥジは一瞬たじろいだように見えたが、すぐに体勢を整えてこちらに向かって走ってきた。向こうの動きが緩慢だとはいえ、こちらも手負いだ。スピード感のない鬼ごっこの末、オレは追いつかれてしまう。


 ドゥジは両手を組んで高々と振り上げた。

 オレは《水弾(アクアバレット)》を撃ち続けた。

 ドゥジは血を流していたが、微々たるもの。筋肉が締まり、出血を防いでいるのだ。


「許セよ、小さき者。野望のタめだ」


 囁くような声。

 ――なにがそこまでオマエを駆り立てる?

 あの言葉はオレに向けられたものではなかった。ドゥジ自身が『なにか』に駆り立てられていたからこそ出た言葉だったんだ。


 ドゥジが振り下ろす拳が速度を失った。いや違う。スローモーションで見えているだけだ。

 ここまでか? オレはここで負けてしまうのか?


 ――いや、負けられるか。


 オレは力を振り絞って右手を掲げる。人差し指にはめた血色の石が輝き、そこらじゅうに散らばった血と水が集まってくる。

 ドゥジの拳が当たる直前に、オレとドゥジの間に血と水の障壁を作り出すことに成功する。ドゥジの強烈な一撃で障壁は砕け散ってしまったが、直撃は免れた。オレは血を撒き散らしながら転がり、ドゥジと距離を取る。


「まダそんな力が残っテいたか」


 ドゥジはジロリとオレを睨む。オレも負けじと睨み返す。


「だガその様子ではモう長くは保つマい」


 ドゥジの言う通り、水や血が操れるのはあと二、三回が限度だろう。だが、それはオレだけではないはずだ。


「それはオマエも同じだろ……?」


 ドゥジの尖った耳がピクリと動く。わかりやすいヤツだな、どうやら図星のようだ。


「急所を刺したからな……。()()姿()で誤魔化しても、ダメージは残っているだろ」


 ドゥジは口の端を吊り上げて笑った。

 何も答えず、ドゥジはそのまま駆けてきた。やはり、動きは緩慢だ。しかしオレはもう動くことすらままならない。下手に動こうとして体力を使うより、迎え撃つほうがよっぽど無駄がない。


 真っ直ぐに迫るドゥジの拳。それに合わせるように血の刃を出現させる。

 ドゥジの拳は迷いなく刃を殴り、追いすがる血を振り切る。ドゥジの拳は裂けて血が流れたが速度は衰えない。

 あたりに散らばった水と血をドゥジの体に突き立てるが、そんなことではドゥジの動きは止まらない。


 視界いっぱいの褐色の拳。オレは覚悟を決めた。


「!!」


 ドゥジに斬り付けられた痕から、血の刃はまっすぐに伸びていた。切先にはドゥジの肩が突き刺さっている。

 ドゥジの拳はオレに触れる直前で止まっていた。これほど、危機一髪という言葉が似合う場面なんてあるだろうか。

 ドゥジは膝から崩れ落ちた。血の刃を伝い、真っ黒な血がどくどくと流れ出ている。


「…………」


 ドゥジはぱくぱくと口を動かし、なにか言おうとしたが、血が溢れ出すだけだった。血塗れの口の端が吊り上がる。ドゥジが微笑んだのだ。

 そのままドゥジは前のめりに地面に倒れ込んだ。オレはなんとか巻き添えを回避して、がくがくと震える足で地面に立った。


「ドゥジ選手とグレン選手の決着も着いたようです! 最後に立っているのは……グレン選手だーっ!」


 割れるような歓声。じわじわと勝利の実感が湧いてくる。

 ……と、同時に耐えきれないほどの悪寒と眠気に襲われる。

 血を使いすぎたみたいだ。傷痕から飛び出ていた血の刃が形を保てず液体へと戻る。パシャリという水音は、果たして血の刃によるものか、それともオレが血溜まりに倒れ込んだ音か。

 オレの意識はそこで途絶えた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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◾️改訂履歴

2022/05/10 タイトルを変更しました。

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